見出し画像

斉藤vs斎藤!!真のサイトウはどっち?追究してみた

問題。
次のカタカナを適切な・・・漢字にしてください。


①サイトウ道三どうさん

※戦国武将。主君の謀殺ぼうさつや乗っ取りなどの手法を用いたことから、マムシと呼ばれる。

②サイトウ和義かずよし

※歌手。「歌うたいのバラッド」「やさしくなりたい」などで有名。

③サイトウたかし

※教育学者。明治大学教授。著書は『声に出して読みたい日本語』など多数。



↓解答はコチラ












①斎藤道三
②斉藤和義
③齋藤孝





全問正解の方、います?


私だったら、

『斉藤』と『斎藤』って何が違うんだヨ!?

と発狂しそうだ。


他にも『齊藤』さんや『齋藤』さんがいて、何が何だか、わからないっ。



というわけで、今回のお題。


※問題を簡単にするため、『齊』『齋』の字はひとまず置いておきます。





❶本人たちに聞いてみた


『斎』や『斉』は、お互いのことをどう思っているのだろうか。

まずは、『斉』に聞いてみた。

斉「ワタクシは、『一斉いっせいにスタートする』の『一斉』のように、日常生活でよく使われます。あちらなんて『書斎』くらいしか使わないでしょ?」


たしかに『斎』の方は熟語がなかなか思いつかない。

斉「他にも『済』や『剤』といった他の漢字にも使われますますわ。人気過ぎて、引っ張りダコ、というわけなのですよ」

ここでさらなる疑問が生じてしまった。



斉「そういうわけで、ワタクシこそ真の『サイトウ』ですわ」





次に、『斎』に聞いてみる。

斎「『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』という漫画があるよな」


唐突な質問だが、モチロン知っている。

牙突がとつ』『縮地しゅくち』『九頭龍閃くずりゅうせん』『二重ふたえの極み』は、小学生の頃マネした人も多いだろう。



斎「主人公・緋村剣心の別名・・を覚えとるか?」

あっ・・・・・・!



斎「そう、抜刀斎ばっとうさいや」

たしかにあれは『抜刀』ではなく『抜刀』だ。



斎「他にもあるでぇ。『キテレツ大百科』で、主人公キテレツのご先祖様といえば?」

キテレツ様!


斎「抜刀斎もキテレツ斎も、作品の中では実力を持つ人物や。つまり『斎藤』こそ真の『サイトウ』ということやな」


うーむ。
ここで新たな謎が浮かび上がった。




ところで、二人に肝心なことを聞いてみよう。


「『斉』と『斎』の違いは何ですか?」




・・・・・・どうやら本人たちにもわからないらしい。

これはもう自分で追究するしかない。


❷使用例を挙げてみた


それぞれの漢字は『サイトウ』以外にどのように使われているか。


まずは『斉』だ。

❶一斉
〖例文〗一斉にスタートした。

斉唱せいしょう
〖例文〗卒業式で、校歌を斉唱する。

均斉きんせい(つりあいがとれて整っていること)
〖例文〗均斉のとれた身体

意味は、なんとなく「みんなで、同時に」「バランス」というものがある気がする。


次に『斎』である。

❶書斎
❷斎宮(伊勢神宮に奉仕した皇女)
❸斎場(祭りや葬儀を行なう場所)

これらの熟語から「斎」の意味を考えてみるが・・・・・・現時点ではわからない。


熟語から『斉』と『斎』を比較してみたが、うまくいかないということがわかった。



❸思い出してみた


最近noteの街で出会ったYayoi Fujikuraさんは、書道に関する魅力的な記事を書いていらっしゃる。


その記事を読んだ影響か、大学生の頃に受けた書道の授業を思い出した。

先生に書いてもらった色紙。
「山紫水明」と書いてあります。


「大」に点をつけると「犬」になるよ、と説明する教師がいます。
そんなこと、あるワケないでしょうっ!!

形は似ていますが、成り立ちはまったく別です。

『大』と『犬』の形は似ているが、たしかに成り立ちは違う。



同じように、『斎』と『斉』も”似て非なる別の字”なのでは・・・・・・?



❹漢和辞典で調べてみた


漢字のことを調べるなら、漢和辞典がイチバンである。
豊富な漢和辞典が揃う、とある図書館にダッシュした。




そこで明らかになる、数々の真実――。

まず、

◆『齊』は『斉』の旧字体である。
◆『齋』は『斎』の旧字体である。

ということがわかった。


旧字体とは、簡単にいえば「昔の、複雑な字体」。
複雑で画数が多いので、省略され新字体が作られた。


◆應(『応』の旧字体)
◆國(『国』の旧字体)
◆神(『神』の旧字体)

つまり、
『斉藤・齊藤』グループと『斎藤・齋藤』グループに大別できるのだ。



次に、意味と成り立ちに注目してみる。



まずは『斉』、キミからいこう。

数々の辞書で調べたところ、『斉』の意味は下記のとおりだ。

大意①「ととのえる」
➡️きちんとする、ならべる、そろえる

大意②「ひとしくする」
➡️同じにする、そろえる、あわせる、みんな

なるほど、これなら熟語の「一斉」「斉唱」「均斉」の意味と合致する。


次に、『斉』の成り立ちに注目した。


小林信明(編集)
『新選漢和辞典 第八版』
p1453
小学館
2022/1/31


説明は、以下のとおり。

古い形を見ると、土地の高い所や低いところ(=で表わした)から、いねや麦の穂が出そろって、平らに並んでいる形を表す。

小林信明(編集)
『新選漢和辞典 第八版』
p1453
小学館
2022/1/31

さらに古い書体を見てみると、


藤堂 明保 ほか(編集)
『漢字源 改訂第六版』
p2198
学研プラス
2018/12/11

とあり、言葉による説明は、

同じようなものが等しく揃っている

藤堂 明保 ほか(編集)
『漢字源 改訂第六版』
p2198
学研プラス
2018/12/11

とされていた。

おおざっぱに言えば、『斉』の字は、

なにか(稲穂?)を等しく並べた様子

から生まれた字なのだ!!


なるほど、だから『済』の右側は『斎』ではなく『斉』なのだ。
『救済』は、困っている人の不足を補って、ひとしくすることである。

経世済民けいせいさいみん』=『経済』も、もとは「世の中を治め、民衆を苦しみから救済する(不足を補って等しくする)こと」という意味だった。


(photoAC)


というワケで「問い②」の答え。




次に『斎』である。
こちらも意味から確認しよう。

大意①「物忌ものいみ」
➡️神仏を祭るとき、飲食や行いを慎んで、心身を清める

大意②「へや」
➡️物忌みや勉強のためにこもる部屋

意味を読んだだけでは、ピンとこない人も大丈夫。
成り立ちを確認しよう。


一部の漢字が表示できないため、漢和辞典を画像として引用する。



小林信明(編集)
『新選漢和辞典 第八版』
p1453
小学館
2022/1/31


説明の中にある『齊』は『斉』のことだ。
つまり、


と言える。


別の表現をするなら、

ということだ。


では、「示」にはどのような意味があるのか?

「示」は、神様に生贄いけにえをささげるためのテーブルである。


だから、「神」「社」といった漢字は「示偏しめすへん」なのだ。
(示偏は、カタカナの「ネ」にような形に変更されたが、本来は「示」という形である)


このことを知った私は「漢字スゲー!日本語スゲー!」と思った


神社などで、旧字体の「神社」という字を見かけた人もいるかもしれない。

下記ポスト(旧ツイート)の1枚目の写真にある蚕霊神社でも旧字体が使われている。


だから、示偏の漢字は”神”に関係する。



つまり!!
『示』を含む『斎』の意味には、”神”の要素が加わる。
だから、

◆斎宮(伊勢神宮に奉仕した皇女)

という熟語で使われるのも道理なのである。

問題❸はどうか?

『斎』には、(神のために)心身を清める、という意味がある。

心や身体を清め、一つに道(抜刀斎なら剣術)を極めようとする求道者の思いが込められているのだ。


※諸説あり。
『斎』は、心身を清めるための部屋(書斎の『斎』もこの意味)という意味もあり、「修行のために与えられた部屋(斎)が、その人の名前についた」という説もあります。



整理しよう。



これらのことから、次のことが言える。

『昭』と『紹』が違う字であるように、『斉』と『斎』は意味も成り立ちも違う別の字なのである。

というわけで答え。





ただ、前述のとおり「斎」の成り立ちには「斉」が使われている。
それを知った、2つの字はスッカリ仲良くなったという。




この記事が参加している募集

名前の由来

やってみた

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

出版を目指しています! 夢の実現のために、いただいたお金は、良記事を書くための書籍の購入に充てます😆😆