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お前らは現実とゲームの区別がつかない

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現実を舞台にポイントを競うゲームにハマっていく少年たち。「こんなことになるなら、友だちなんて作らなければよかった……」
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#連載

6-5.「わかったのだよ。特に自分で設問をつくることができるサイトを優先して調べるのだ」

「わかったのだよ。特に自分で設問をつくることができるサイトを優先して調べるのだ」

 トシの指先が加速した。カタカタではなく、タタタタタという感じの素早い打鍵音。その音だけで全員が追い立てられているのだ、ということを再確認する。

「急げ! この部屋に入ってから、もう一五分過ぎたぞ、バカ!」

 ヒロムが本を手に取ってはバラバラとめくり、バサバサと振っては、棚に戻していく。

「なにしてんだよ、ジ

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6-4.「そうだよな。だとすると、ありがちな誕生日あたりも使っていない可能性は高いか」

「そうだよな。だとすると、ありがちな誕生日あたりも使っていない可能性は高いか」

 俺は自分のカバンからシャープペンシルとメモ帳を取り出すと、ペンを指先で一回転させてから、「ユウシの誕生日=八月七日=0807」と書いてあったところに横線を一本引く。こいつはあと回し。

 そのまま、何回かシャープペンシルを回して、候補を絞り込み、最初に入力する数字を決めた。

 ――4、8、2、7。

 四丁目八番

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6-3. ジュンペーの気持ちは、よくわかった。

 ジュンペーの気持ちは、よくわかった。誰かが秘密にしていることをのぞくことに対する罪悪感は、どんなに正当化する言い訳を考えたとしても、すっきりするもんじゃない。

 ユウシの部屋は、この家の二階、ゲストルームを出てすぐの階段を上ったところにあった。廊下に沿って扉が三つ。ユウシの部屋は、そのうちで一番、階段に近い位置にあった。たぶん、残りふたつのどちらかが兄貴の部屋なのだろう、と俺は勝手な想像を巡ら

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6-2.「はじめまして、祐士の母です」

「はじめまして、祐士の母です。どうぞ、おあがりになってください」

「あわただしい中、お時間をありがとうございます。おじゃまします」

 ユウシのお母さんは、ユウシによく似た口元に笑顔を張りつけていたけれど、その姿は事故があったあの日、病院で見たときよりもさらにやつれて見えた。ジュンペーはともかく、トシやヒロムも、そんな雰囲気を感じとったのだろう。普段なら絶対に使わない硬い口調であいさつをする。

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6-1.初めて病院に行ってから、あっという間に一〇日が過ぎていた。

 初めてユウシの病院に行ってから、あっという間に一〇日が過ぎていた。

 そのあいだ俺は、一度だけ病院に行った。ユウシは集中治療室から出て、たくさんのパイプや管から解放されていたけれど、あいかわらず静かに眠っているだけだった。俺は「入院して太ったんじゃないか」とか、「看護師さん、名前まちがえてるよ」とか、いろいろとつっこんでみたけれど、なにを言っても反応のないユウシの側にいるのは、正直、つらかった

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5-7.「……じゃあ、俺たちなりの方法であがいてみようか」

「……じゃあ、俺たちなりの方法であがいてみようか」

 三人が一斉にうなずいた。

「まずは、アルミのアプリを運営している会社から調べてみるのだよ」

 いつのまにかトシは、ノートPCを開いて、キーボードを超高速で叩いている。

「俺は、街でアルミやってるバカを見つけて軽く話を聞いておく」

「それなら僕は、囲町学園の生徒に話を聞いてみるのです」

 昼休みみたいなノリで、いきなり作戦会議が始まっ

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5-5.「おまえたちの話は聞いてやる」

「おまえたちの話は聞いてやる。だが、ここじゃない。場所を変えるぞ」

「……わかりました」

 ゆるめられた先生の右手の下で、俺は小さく返事をした。ほかの三人にも意図は伝わったらしい。

「ほら、ちゃんとごあいさつをしていけ」

 先生は、俺から手を離すと、ガラスの向こうにいる女性に一礼をした。俺たちも、女性とユウシに向かっておじぎをする。小さく固まっていた女性が、ますます小さくなって頭を下げた。

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5-4.これほど大きな病院に来るのは初めてだった。

 これほど大きな病院に来るのは初めてだった。エレベーターを五階で降りて、ナースセンターに声をかける。看護師さんが、清潔というよりはひどく殺風景な建物を案内してくれた。

 搬送された少年のいる集中治療室には、見舞客のために前室的な部屋があるらしい。一般病棟との区画を分ける扉をくぐると、さらに室温が一度ぐらい下がった。

「扉のところに誰かいるな」薄暗さに慣れていないのか、眼をぐっと細めながら、ヒロ

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5-3. と、ここまではネットニュースでも流れている情報。

 と、ここまではネットニュースでも流れている情報。俺が井戸端会議をしているおばちゃんから聞いた話では、今日の午前二時頃に長い髪の少年が、八幡山駅から事故のあったマンションのある南方向に向かって歩いていたらしい。だが、今のジュンペーの話では、マンションのずっと南側でマンションに向かって―つまり北に向かって歩く長い髪の少年が目撃されている。少年には、マンションの前をうろうろしなければいけない理由でもあ

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1-9.「勘弁してくれよ、ユウシ。そりゃ中坊までの話だ」

「勘弁してくれよ、ユウシ。そりゃ中坊までの話だ」

 ヤンキーネットワーク! この部、大丈夫なのか?

 俺は全力でこの居心地の悪い空間から逃げ出すタイミングを見計らった。でも、そんな計画は、次々と部室へやって来る部員によって打ち消されてしまう。

「あれ? みんな、どうしたのです?」

「ジュンペー、いいところに来たね。今ちょうど新入部員を紹介していたんだよ」

 ユウシの声に促されて、部室の入

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1-8.「新入部員を連れてきたよ」

「新入部員を連れてきたよ」

 対馬は部室の扉を開けてそう言うと俺を見た。新入部員というよりはドナドナの子牛だけどな。

「難波じゃないか。おまえ、パソコン部に入るのか? それはリベンジに好都合」

「し、シイナ先生?」

 学園で数少ない聞き覚えのある声につられて、俺は室内を見る。縦四列に配置されたパソコンはざっと五〇台。そんな広い教室の一角にひとりの男子生徒とシイナ先生が座っていた。

 対馬

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1-7.「しかたないな。ちょっといいかい?」

「しかたないな。ちょっといいかい?」

 対馬は窓から離れると、すっと俺に体を寄せて耳元でささやいた。

「ワンオアとかワルプルとかドルオタ初心者。ちな推しはみくりん、あっつん、ラブリーロットンっす♥」

 胃に強烈なボディブローを叩き込まれた気がした。マジか。

「四月九日、一日目のワンオアのチケット譲ってくれる人、いたらリプください。ナポリトゥーン」

「みくりん、マジ天使♥♥♥ ↑握手した手

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1-6.「いまどきパソコン部? お疲れさま」

「いまどきパソコン部? お疲れさま」

「それで、さっきの解答を見て思ったんだよ。きみはパソコン部に入部するべきだ」

 全身で会話を断ち切っているのに、対馬はまったく動じない。鉄の心臓かよ。

「アルティメット・ミッションのことは知っているよね?」

「クラスのみんながハマってるゲームだっけ。それしか知らない」

「アルミは現実をゲームの舞台にするんだ。『ルール』があるから詳しいことは説明できな

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1-5. 地味で平穏な日常生活と地下アイドルへの葛藤に極限まで追い込まれていた俺は、先生の声で我に返った。

 地味で平穏な日常生活と地下アイドルへの葛藤に極限まで追い込まれていた俺は、先生の声で我に返った。

 クラスメイト全員が俺を見ている。

 正確には一分間に一一〇回転の勢いで高速回転し続けるシャープペンシルを見ている。

「い、いや。これは―」

 やってしまった。クラスメイトの「なんだ、こいつ(笑)」的な視線が痛すぎる。

「まあいい。とにかく時間だ。だがな、わたしも鬼ではない。難波、おまえに

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