6-4.「そうだよな。だとすると、ありがちな誕生日あたりも使っていない可能性は高いか」

「そうだよな。だとすると、ありがちな誕生日あたりも使っていない可能性は高いか」

 俺は自分のカバンからシャープペンシルとメモ帳を取り出すと、ペンを指先で一回転させてから、「ユウシの誕生日=八月七日=0807」と書いてあったところに横線を一本引く。こいつはあと回し。

 そのまま、何回かシャープペンシルを回して、候補を絞り込み、最初に入力する数字を決めた。

 ――4、8、2、7。

 四丁目八番地の二七。最初に選んだ数字は、ユウシの家の番地だ。続けて鳴る小さな警告音と、スマホの軽い振動。残念。ハズレ。住所の項目に二重線を引くと、さらにシャープペンシルをくるくる回す。

 ――9、8、7、4。

 キーパッドに書かれているアルファベットを「YUSI」の順に押す。これもハズレ。

 ――1、3、5、8。

 それならばと、今度はキーパッド上で「Y」の字を書くように押してみた。残念ながら三回目の失敗。失敗した数を忘れないよう、メモ帳に「3/10」と書き加える。

 ――0、8、2、4。

 こいつは、ユウシが中学生のときに好きだったバスケットボール選手の背番号。なんでも最近、八番から二四番に背番号を変えたらしい。どちらも情報元はジュンペー。でも、これも通らず。

「背番号もダメだった。これが一番、当たりの可能性が高いと思ってたんだけどな」

「こっちで、なんか情報が見つかるまで、一度、止めたらどうだ」

 ヒロムの言葉はもっともだ。俺は、ユウシのスマホを机の上に戻すと、まだヒロムとジュンペーが調べきれていない参考書の棚に手を伸ばす。

「ユウシのPCも、ちょうど裏口が開いたところなのだよ。これからお宝探しなのだ」

 トシが、これまでに見たことのない速度でキーボードを叩き始めた。

 どちらにしても、なにかパスコードにつながる情報を見つけなければ精度は上がらない。でも、そんな都合のいい情報がこの部屋にあるんだろうか?

 新品のように見える、書き込みもアンダーラインもない参考書をめくりながら考える。ユウシの痕跡が残っている場所。ユウシが痕跡を残さなければいけなかった場所。

 頭の中にパズルのピースが、ひとつだけ落ちてくる。

「そうか。秘密の質問だ」

「秘密の質問というのは、PCやウェブサービスへのログインで、IDやパスワードがわからなくなったときに表示される『母親の旧姓は?』みたいな質問のことなのだね?」

 俺の言葉に、もの凄い勢いでキーボードを叩き続けていたトシが反応した。

 PCに裏口を開けて乗っ取ったところで正しいパスワードを調べるのには時間がかかる。それにユウシが『パスワード』なんて書かれたテキストファイルをノートPCの中に残すようなやつとも思えない。

 でも、ウェブサイトにはたまに、つくりたくなくてもつくらなくちゃいけない機能がある。パスワードを完璧に覚えていられるユウシにとって、パスワードを忘れてしまう人のための機能は、まさに不要な穴だ。

 そして、ユウシならその穴を完璧に塞ごうとするはずだ。それこそがヒントになる。

「トシ、裏口が開いたら、最初にユウシのウェブサイトの履歴から、秘密の質問が表示されるサイトを洗い出してくれ。そして、その質問文をすべてコピーしておいてくれ」

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