6-5.「わかったのだよ。特に自分で設問をつくることができるサイトを優先して調べるのだ」

「わかったのだよ。特に自分で設問をつくることができるサイトを優先して調べるのだ」

 トシの指先が加速した。カタカタではなく、タタタタタという感じの素早い打鍵音。その音だけで全員が追い立てられているのだ、ということを再確認する。

「急げ! この部屋に入ってから、もう一五分過ぎたぞ、バカ!」

 ヒロムが本を手に取ってはバラバラとめくり、バサバサと振っては、棚に戻していく。

「なにしてんだよ、ジュンペー! のんびり本を読んでるヒマなんざ、ねえんだぞ、バカ!」

 あせりからだろう。いつもより語尾に“バカ”が多めに入るヒロムの言葉にも、ジュンペーはマイペースをくずさない。手に持った横長の判型の青い本をじっくり読み込んでいる。

「これ、小学校の卒業アルバムなのです。そして、そっちは卒業文集なのです」

 卒業アルバムに卒業文集ね。この年になって読み返すと、ほとんどの写真や文章が黒歴史なんだよなあ。

「それで、なにか新しい情報はあった?」

「あ、いえ。特にこれといった情報は書いてないのです。あえて言えば、ユウシくんが生まれたのが八月七日の午前四時四分頃だとわかったぐらいなのです」

「生まれた時間までわかったのか? それ、どこに書いてあった?」

 今は、数字に置き換えられる細かな記録があればあるだけヒントになる。

「卒業文集の方なのです。『僕が生まれたときから』という題で、卒業式までのさまざまなイベントが、ユウシくんの誕生から何秒後に発生したか、書き並べてあったのです」

 うわあ。計算した小学生ユウシの努力は認めるが、その文章は痛そうだ。

 俺はジュンペーに卒業アルバムと卒業文集をできるだけ。写真に撮っておくように指示する。

 キーボードの音がやみ、トシが両手をひさしみたいにして目の上に置いた。

「なんだ。行き詰まっちまったのかよ、トシ」

「うるさいのだよ。今、ぶっこ抜いたページ履歴を目で検索しているのだ。話しかけるのではない」

 眉を寄せて凄むヒロムの姿は、両手でガードされたトシの視界には入らない。

 トシは、そのままの体勢で三〇秒ぐらい固まり、やがて、ゆったりとしたタッチでキーボードを打つ。

「―見つけたのだよ」

 トシの声に勝ち誇ったような笑いが混じる。いつのまにか、俺たち三人も手を止めてトシを見ていた。

 トシは、俺からシャープペンシルとメモ帳を奪い取ると、モニタを見ながら、なにかを書き写す。

 秘密の質問:K・256^2+2083

 ヒント:僕に関係ある日時がパスコード

「この質問、どういう意味なのです?」俺の背中越しにメモを見たジュンペーがつぶやく。

「この数式は“Illegal prime”、日本語では“違法素数”と呼ばれるものなのだよ。元々は、違法とされたプログラムを公開するために、プログラム自体を素数に置き換えたものなのだ。どちらも数字だからな」

 トシが自分のノートPCを操作しながら答えてくれたが、きっと誰もわかっていない。

 わかっているのは、この違法素数の中から、ユウシに関係のある日を見つけるということだ。

「トシ、その違法素数のページ、みんなに共有してくれるか」

 俺の頼みを聞いて、トシがさっと指を走らせる。全員のスマホが軽く振動する。

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