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突然真理に遭遇する飲み会

 今回は台本のようなスタイルでお届けします。ぜひ皆さんの脳内で東京タラレバ娘のような風景を思い浮かべてお楽しみください。(※多少のフィクションを含みます)

 登場人物1:環。東京都出身の29歳男性。会社員として大阪で勤務。バイセクシュアル。
 登場人物2:美香。東京都出身の29歳女性。環とは高校の同級生で親友。転職し関西に引っ越してきた。



 大阪・梅田、土曜日の午後7時。20〜30代が多い賑やかな居酒屋で。
 環は生ビール、美香はレモンサワーを頼み乾杯すると、頭を近づけあって話し始めた。

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美香「環お疲れ。でさ、この前言っていたマッチングアプリで会った人はどうだったわけ?」

環「ちょっと聞いてくれる?まじで最悪の経験だったんだけど」

美香「え?まじ?どんな人?」

環「うーん、不快感はない。顔写真がマスクつけている姿だったからちゃんと見えなくて、想像していた感じとは違ったけど、まあ別にって感じかな」

美香「写真と全然違うとかは往々にあるよね」

環「そうそう。てかさ、容姿で選別しているというよりは、清潔にしているかとか髪型がどうかとか、そういう目的で顔は見たいよね」

美香「まさに言おうとしていた。てかごめん、話し脱線した」

環「でしょ〜。で、容姿とかは普通だった。顔とか髪型とかファッションとか、そんな不快な感じはなかったよ。肌綺麗だったし、髪型も若いサラリーマン風で普通。服装もオレンジ色のTシャツに紺色のチノパンで爽やかな感じだった」

美香「え、普通じゃん。別に」

店員「ご注文お伺いします」
環「シーザーサラダと刺身盛り合わせ、ポテトフライととうもろこしの天ぷらください。他ある?」
美香「ポテトフライやめて、この石焼麻婆豆腐どう?」
環「あ、それ盛り上がる」
美香「いくべ」
環「いけるべ。ポテトフライ辞めて麻婆豆腐で。以上で」
店員「かしこまりました」

美香「で?」

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環「だけどね、まず合流するまでが嫌だったわけ。俺が、向こうの最寄駅まで行ったのね。夕方6時半集合だったんだけど、前の予定が早めに終わりそうだったから、5時くらいから早めに合流できますよってメッセージ送っていた。そもそも向こうは転勤する前で仕事休みだから早めから飲みましょうよって前日とかに言っていた。だからそうやってメッセージ送っていたのに、5時半くらいに『ジム行きます』ってメッセージきたの」

美香「何で?」

環「普通に知らない。で、はあ・・・って感じじゃん?6時25分くらいに改札のところで待っていたんだけど、メッセージも返ってこないし、改札も二つあるしこっちでいいのかなって思ってそわそわしていたの。そっちの最寄駅なんだから、集合場所の詳細は事前に言ってくれよって感じじゃん」

美香「確かに」

環「で、6時35分くらいになったらメッセージきて、『オレンジ色のTシャツ着て自転車乗っています』と言われたの。は?探せってこと?と思って、改札あってるかもわからないし、時間も過ぎているし、焦ったの」

美香「あー地味に嫌かも」

環「そうなの、地味なのよ。仲いい友達とかだったら何も苦じゃないけど、初対面じゃん。意味わからないと思いながらも見つけることができた。結構気さくな人でさ、第一印象は悪くなかった。謝られたりはしなかったけどね。まあいいかと思ってお店どうしましょうかって話したら、『行きたいお店が2軒あります』と」

美香「ほお。見つけてくれていたのかな」

店員「シーザーサラダです」
2人「ありがとうございます」

環「でね、最初連れて行かれたのどこだと思う?たこ焼き屋。いやいいよ、全然いいよ。実際美味しかったし。でもさ、たこ焼きとビールとかじゃないわけ。向こうはたこ焼きしか食べないわけ。あれ?酒好きって言っていたよな・・・と思いつつ、俺も普通にたこ焼きだけ食べた。マイペースな人だなとか思った。そして次にいきたい店どこですか?って聞いたら、お好み焼き屋だっていうのよ」

美香「同じ粉物ソース系」

店員「お待たせいたしました。刺身盛りです」

環「そう。普通にさシーザーサラダも刺し盛りも食いてぇじゃん」

美香「え、だからいま頼んだ?」

環「ごめん、そういうわけではない。笑 しかも、理由をよくよく聞いていくと、商店街の祭りでお好み焼き引換券が当たったから使いたいって」

美香「どういう理由なの笑」

環「そうなんよ。もうなんか笑ってしまって、察してきたのよ。マイペースっていうかわがままなのでないか、くらいに。でも、会ってすぐの人だし、まだ詳しい話もしていないからさ、もうしょうがないわ〜まだわからないし〜とか思いながらお好み焼き屋に行ったら満員だったの。どのくらいで空きそうか聞いたけど結構かかりそうで、もうしょうがないじゃん?だから他の店探そうって言ったんだけど、相手はいまいち納得していないわけ」

美香「納得しないとかそういうことじゃなくない?」

環「違うよね笑 空いてないんだから次いくしかないじゃん。
 てか俺はもうどっちでもいいわけ。たこ焼き食ったし、何なら同じような味は求めていない。だから近くのお店回ったんだけど、結構満員で入れなくて。でもその間もずっとお好み焼きが・・・みたいなこと言っているわけよ。で、結構イライラしてきちゃったの」

美香「相手何歳?子供っぽい?」

環「あ、24歳かな。いいよね、若くて」

美香「言っても、うちらも29歳だしあまり変わらないけどね」

環「それな」

店員「石焼麻婆です」
環「はぁ〜?クソうまそうなんですけど」
美香「あんたが言ってること分かるわけ。食おう」

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環「(麻婆豆腐を食べながら)でもなんかすごく子供っぽく見えた。結局、その人が過去に行ったことのある海鮮居酒屋みたいなところに行き着いた。店内は明るいトーンの木材で内装されていて、店員さんも上下黒でまとめててエプロンして、活気もあって、結構よかったのよ」

美香「いい感じじゃん。そこから再スタートするなら」

環「でしょ?メニューも手書きとかでいい感じだなって思っていたのに、そいつ席座ってもまだお好み焼き行きたい、リベンジしたいとか言っているわけよ。その日、俺疲れ溜まっていたのもあるかもしれないけど、余裕なくてイライラがピークに達してしまった。まだ言ってんのかよ、こいつって」

美香「(麻婆豆腐の熱さに苦戦しながら)え、待って。怒ったの?説教系?」

環「違う。そこはさすがにわきまえた。だから俺、臭いもの頼んでやろうと思ったわけ」

美香「え、待って(眉間にしわ)。思考が意味不明。続けて」

環「笑 その人曰くね、この店は刺身とかがうまいらしいの。すごく説明された。この刺身がこの前おいしくて、とか、この料理食べてみたいなとか」

美香「うん。あ、レモンサワーもらおうかな。環は」

環「俺もう一杯生にするわ」

美香「すみません。レモンサワーと生で」
店員「かしこまりました〜」

環「ありがとう。でね、相手がいろいろ説明してくれるのを笑顔でうんうんって聞いて終わった頃に店員呼んだの」

美香「何頼んだわけ」

環「うなぎ?の肝焼き、タコの酢味噌、バッテラ」

美香「笑 ねぇ」

環「あと、バイ貝のうま煮」

美香「ははははははは。チョイス最高すぎない?」

環「でしょ?俺バイセクシュアルだし」

美香「本当にうるさい」

環「しかも、相手は酢が嫌いらしくて、タコの酢味噌は一人で完食した」

美香「もういい加減にして欲しいわけ。本当に」

環「相手はなすの煮浸し頼んでいたけど、俺は一つも食べなかった。バイ貝の中に爪楊枝ぶっ刺してほじくって食いまくっていた。うますぎた」

美香「はあ、もう思考がねヤバイって。相手が気に食わないから臭いものくってやろうって思考はどうやって培ったの」

環「わかんない。本当にその時スイッチ入っちゃってて」

美香「まあわからないでもない」

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店員「レモンサワーと生ととうもろこしの天ぷらです」
美香「ありがとうございます」

環「で、その後、会話も全然盛り上がらないし、もう一回お好み焼き屋に行ってみたいとかいうから、8時くらいに店でて行ったの」

美香「そしたら」

環「案の定満席。俺は明日現場が朝早いので、とか適当なこと言って帰ったわ。でさ、俺の使っているアプリってワンナイトとかも結構あるアプリなのね。だからか、相手からも『もう帰っちゃうんですか?(上目遣い)』みたいなこと言われたけど、こちとら、バイ貝のうま煮食っているからなと思いながら颯爽と帰った」

美香「根拠の持ち方が本当に意味わからないわけ笑」

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環「でさ、思ったの。何でここまでイラついたかっていうと、お好み焼き屋に執着していたとか、うじうじしているとか、そういう表面的な部分というよりは、相手にとって俺が代替のきく存在だと思ってしまったからイラついたんだよね

美香「というと?」

環「相手はさ、行きたいお店があって、食べたいものがあって、俺をリードするんだよね。だけど、向こうからの質問はほぼなかった。俺は『仕事何やっているんですか?』『好きな音楽は何ですか』『出身どこですか』とか、いろいろ質問して相手を知ろうとした。相手はそれに答えてはくれたけど、質問を返してくることが基本的にはなかったわけよ」

美香「あ〜なるみ」

環「なるみ〜。そうなるとさ、相手にとって、その時間を一緒に過ごすのは俺じゃなくてもいいわけじゃん。相手は、承認欲求とか寂しさを俺によって埋められたかもしれない。だって美香はわかると思うけど、俺記者やっているし、相手のことめっちゃ聞くじゃん。知りたいのもあるけど」

美香「わかんの」

環「質問って、興味がありますよって合図だし、それをある意味、機械的にした上で、共感したり、違和感を持ったりしながら関係性って築かれていくじゃん。でも、相手は質問がなかった。俺に質問されて気持ちよかったと思う。『この人、俺に興味を持ってくれている!』って嬉しかったと思うわけ。俺も質問されたいから、興味ある風に聞いたり、『それ俺も好きだな』とか言ったんだけどね。でも全然だめ。最終的に無理だと諦めたのは、結構モテるんじゃないですか?って聞いたら、転勤先に住んでいる人ともメッセージしていて早く転勤したいとか言いいだしてさ。あーこいつ、本当に俺のこと目に入っていないなって、寂しいというか嫌な思いしかしなかった」

美香「なるほど。相手は自分の世界に入ったままだったということかな」

環「うん、そうだと思う。だから俺も気をつけないとなって思った。アプリとかで人と会うとさ、容姿や趣味とかが何となくわかる状態で会うから、相手のことを知った気で会うよね。でもわかっていることなんてほぼなくて、やっぱり会話が大事なわけ。質問が大切なのは当たり前だけど、言葉の選び方とか人への配慮の仕方、ラリーができるかとかで居心地も決まってくるし、そういうのが一緒にいる上で大切じゃん?別に恋愛ばかりじゃなくて、人と人が付き合ういうことでさ。質問をする、相手のことを知ろうとするというのは最低限のマナーじゃないかな

美香「わかるよ。でももちろん、それを全員にしろとかの話しじゃなくて、アプリであいましょうってなってんだからってことよね」

環「そうそう。あー本当、消化不良な出会いだったわ」

美香「環とマッチングして会う人は、バイ貝のうま煮を頼まれるか否かで環の機嫌を判断すればいいってことね」

環「そう。アプリの名前、〜〜@バイ貝のうま煮にしようかな」

美香「笑 あり」


<環プロフィール> Twitterアカウント:@slowheights_oli
▽東京生まれ東京育ち。都立高校、私大を経て新聞社勤務。
▽9月生まれの乙女座。しいたけ占いはチェック済。
▽身長170㌢、体重60㌔という標準オブ標準の体型。小学校で野球、中学高校大学でバレーボール。友人らに試合を見に来てもらうことが苦手だった。「獲物を捕らえるみたいな顔しているし、一人だけ動きが機敏すぎて本当に怖い」(友人談)という自覚があったから。
▽太は、私が死ぬほど尖って友達ができなかった大学時代に初めて心の底から仲良くなれた友達。一緒に人の気持ちを揺さぶる活動がしたいと思っている。
▽将来の夢はシェアハウスの管理人。好きな作家は辻村深月

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