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切れかけた縁を結び直す勇気
先月、30歳の誕生日を迎えた。
昼過ぎになって、今年もそろそろ来るかもと思い、Facebookを開いた。
案の定、一通のメッセージが届いていた。
「誕生日、結婚記念日おめでとうございます」
HAPPY 3 ANNIVERSARY というちょっとダサい画像が添えられていて笑ってしまう。
メッセージを送ってきたのは、高校2,3年生のときの担任、東雲先生だ。
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東雲先生はいつも困り顔をしていて、すごく頼りない人だった。
授業をしているときは運動しているみたいに途中で息切れしてしまうから何を言ってるのかわからなかったし、教室で揉め事が起きたときもただオロオロしているだけだった。
進路指導の際には、悩んでいた選択肢について質問をしても、あまり回答になっていないようなことばかり言うので悩みが深まるばかりだった。
それに、なぜか東雲先生と関わると、僕の身にはトラブルが起きた。
僕がライブでグッズを買うために、学校を早退したことがあった。
東雲先生には「熱出たから帰るわ、気にしないで」と適当なこと言って抜けると、東雲先生は親に電話を入れていた。
授業をサボって、マックに行ったり部室で漫画を読んだりしても何も注意してこなかったのに、なんで今日に限って、という思いだった。
ライブで気持ち良くなったのに家に帰るとこっぴどく怒られて、余計なことをしやがってと腹を立てた。
また、当時僕の学校で流行っていた偽装メールのサービスで、友人が僕宛に東雲先生を装ってメールしてきたことがあった。
「ちゃんと授業受けろアホ」みたいなメッセージが東雲先生のアドレスから来たことにムカついた僕は、「ちゃんと授業しろアホ」とメッセージを返信して、翌日黒板の前で言い合いになった。
友人は陰でゲラゲラ笑っていた。
どちらのトラブルも、ハッキリ言って自分が悪いんだけど、それでも日常的な不満がベースにあって、僕は東雲先生のことが苦手だった。
卒業間近、よく一緒にいた友人が「なんだかんだ東雲って良い先生だよなあ」と唐突に言い出した時は、気でも触れたのかと思ってびっくりした。
卒業してからも、たまに東雲先生を囲む会が開かれるのも全く理解できなかったし、僕は行かなかった。
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ただ、大学の卒業が近づいた頃に開かれた同窓会で、東雲先生とは再会した。
「あなたのことを心配してた、ちゃんとやれてるの?社会人になれるの?」
と聞いてきた東雲先生には余計なお世話だよと思ったけれど、僕も流石にちょっとだけ大人になっていたからその場を適当にやり過ごした。
同窓会後、Facebookでも友だち申請がきた。
拒否するのも大人気ないかと思って、承認した。
そしてそれ以来、毎年誕生日になるとメッセージが送られてくるようになった。
最初は返信しなかったけれど、あまりにも毎年律儀に来るから、徐々に返信するようになった。
誕生日おめでとうメッセージへの御礼を送る流れで、2,3通ラリーが続く。
僕はそこで、就職や結婚、転職の報告をした。
東雲先生は、それらの報告内容をちゃんと記憶していることが、メッセージのやり取りからもよく分かった。
機械的に誕生日おめでとうと言ってきているのではなく、ちゃんと気にかけてくれてるんだなと思った。
誕生日が結婚記念日でもある僕は、結婚してから3年が経ったことに、東雲先生のダサい画像を見てはじめて気付いた。
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正直、いまだに東雲先生のことを良い先生だったとはあんまり思えないし、どんな人なのかもよくわかっていない。
だけど、やり取りの中で感じているのは、東雲先生は縁をすごく大事にしているということだ。
誕生日のメッセージを受け取っているのは僕だけではない。
高校時代に僕とよくつるんでいたクラスメイトたちも、聞けば毎年メッセージを受け取っているらしい。
先生はまだ教壇に立っているし、僕らが高校を卒業してからも、何十人、何百人と生徒を送り出している。
そんな中で、12年も前の卒業生たちに、毎年メッセージを送っているのだ。
自分なら真似できないなあ、と思う。
東雲先生との縁は、卒業以来、ほとんど途切れていた。
僕はそれで良いと思っていた。
だけど、東雲先生からの毎年のメッセージによって、縁が結び直された。
これは、すごいことだなと思っている。
なぜなら、縁を結び直すのは、とても勇気がいることだと、僕は大人になってから知ったからだ。
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コロナが流行して人に会う機会が減ってから、僕は縁が途切れてしまった友人がけっこうたくさんいる。
メッセージのやり取りが途切れて、なんとなくそのまんまになってしまった人もいた。
「忙しいのかな。これが縁の切れ目かなあ」と諦めて、連絡が取れている人もいるからそれで良いかと、自分を納得させていた。
ただ、自分が送ったメッセージに返答がないスレッドを見るのは少し苦しかった。
そして、そのスレッドにメッセージを重ねるのは気が引けた。
うるさいと思われても嫌だし、また返ってこないと更に傷つくからだ。
だからこそ、僕のような生徒に対して、誕生日という大義名分はあったとしても、返信が来たり来なかったりするスレッドに、メッセージを重ねた東雲先生の勇気はすごいと思った。
性格が根本的に違ってあんまり気にしていないのかもしれないけれど、メッセージの送信ボタンを押すのに少し躊躇ったのではないかと思う。
もっと傷つくかもしれないけれど、それでも、縁を繋ぎたいという思いが、上回ったのかもしれない。
僕は、本当にどうしようもない生徒だったけれど。
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今年の誕生日、僕はそんな風に、東雲先生のことを見直していた。
そして、苦しかった社会人になりたての頃を一緒に乗り越えた、戦友のような最初の会社の同期のことを思い出していた。
その同期とは、昨年の秋にメッセージをやり取りして、途中で返ってこなくなっていた。
会おうとお互い言いつつも、もう3年は会っていないし、僕らの縁はここまでだったかなと少し諦めていた。
だけど、僕は思い直した。
東雲先生のように、一方通行になっていたスレッドに、メッセージを重ねてみることにした。
彼との縁を、途切れさせてたくない。
メッセージを送って、既読マークがついてから時間が経っても返信が来なかった。
やっぱもう無理か彼とは、と思っていた翌日、やっと返信が来た。
「すまん、連絡できてなくて。
そして、連絡ありがとう!」
それからメッセージは続いて、この前やっと、久しぶりに飲みに行った。そして日を置かずに、後日またご飯を食べに行った。
社会人になったばかりの頃、毎週のように飲みに行っていたときと、僕たちの会話はあまり変わっていなかった。
これからも続いていく友情だと、確信した。
久しぶりの再会の帰り道、ほろ酔い状態で同期と別れたあと、電車の中で勇気を出して連絡して良かったなあと思った。
勇気を出さなければ、きっと縁は途切れてしまっていた。
人間が縁を繋ぎ続けるのは、とても難しいことだ。
人は内面が成長するし、周りの環境もどんどん変わっていく。仕事、家族、体調、そのほかいろいろが歳と共にどんどん変わっていくのだ。
だからこそ、人間関係も変わっていく。
大事だったものが見えづらくなったり、忘れてしまったりするし、時には疎ましくなることもあるだろう。
すると、縁を途切れさせないためには、少しの努力と、その努力をするための少しの勇気が必要になってくる。
そんな大事なことを教えてくれたのは、勉強を教えるのも生徒指導も下手くそな東雲先生の不器用な生き様だったのかもしれない。
高校の卒業間近、「東雲って良い先生だよなあ」と言った友人の言葉の意味が、今になってようやく少しだけわかった気がする。
キャッチボール / BUMP OF CHICKEN
<太・プロフィール> Twitterアカウント:@YFTheater
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒時代の地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗、制作会社での激務などを経験。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。
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