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オオキユーヒ三題噺まとめマガジン

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2022年5月の記事一覧

25.三題噺「パチパチ、積む、墜落」

25.三題噺「パチパチ、積む、墜落」

 僕は、いつ先輩に伝えようか悩んでいた。

 放課後、先輩が好き勝手使っている空き教室で僕たちはジェンガで遊んでいた。

 何かしたいと言った先輩のいつも通りの突拍子もない行動で、持ち込んでいる玩具の中からとってきたのだ。

 真向かいに座っている先輩が、抜いたブロックを上に積む。

 次は僕の番だ。

 難所に差し掛かっていて、気を抜いたら今にも崩れそうだ。

「……」

 僕は無言のままブロッ

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24.三題噺「円運動、愛想笑い、化けの皮」

24.三題噺「円運動、愛想笑い、化けの皮」

「ふわぁ……」

 暖かい朝日を体に受けながら、僕は口を手で押さえながら大きな欠伸を漏らした。

 目尻の涙を指で拭って、下駄箱から靴を取り出そうとする。

「……あれ?」

 中にはシンプルなハートマークのついた一通の手紙が入っていた。

 これ、もしかしなくてもラブレター?

 とりあえず中身を見てみよう。

「おっはよー。後輩くん」

 手紙に指をかけたとき、パシっと僕の背中が叩かれた。

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23.三題噺「空回る、数字、テレビ」

23.三題噺「空回る、数字、テレビ」

 私の隣には、後輩くんと同じクラスで隣の席の同クラちゃんが傘をさして歩いている。

 なぜこうなったのかと言うと……。

「あの……。先輩、一緒に帰りませんか?」

 帰ろうと下駄箱で靴を履き替えていたら突然誘われて、テンパってOKしちゃったからなんだよね……。

 さっきなんか「昨日のテレビ見た?」なんて曖昧な話題をふっちゃって「あ、私、テレビあんまり見なくって……」と、天気の話題くらい会話が広

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22.三題噺「内職、石油王、電子辞書」

22.三題噺「内職、石油王、電子辞書」

 予習済みの範囲の授業を流し聞きしながら、私は退屈さにため息をこぼした。

 窓の外は雨だ。

 誰かが吊るしたてるてる坊主がそのままになっていて、びしょ濡れになっている。

 インクが滲んで黒の涙を流してるみたいでちょっと可哀想。

 隣の席を見ると生徒会長のマカロンくんが電子辞書を引いて調べ物をしてはノートに書き写していた。

「ねえねえ、マカロンくん。なんの勉強してるの?」

 マカロンくん

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21.三題噺「耳、劣等感、ブランケット」

21.三題噺「耳、劣等感、ブランケット」

 梅雨入りに向けてお天道様の気合いが入っているのか、今日はひどく風の強い土砂降りで、湿気も多くてジトジトしていた。

 体育館でのバレーの授業中、僕は不快さに気を取られて足元がおろそかになって滑って捻挫してしまった。

 同クラさんの案内で僕たちは保健室に来ていた。

「捻挫はアイシングした後にあっためるといいらしいよ。それに汗かいてたからタオルで体拭いてブランケットかけて体冷やさないようにしてね

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20.三題噺「天地の差、生ハム、ありがとう」

 生徒会長の俺は昼休み、生徒会室でひとりでお弁当を食べていた。

 書類仕事を軽く片付けるためと、なんとなく静かにひとりで食事したい気分だった。

 最後の一口を頬張り、飲み込んで弁当の蓋を閉めたところで扉がノック無しに開かれた。

「やあ、ひとりかい?」

「なんだ、先生ですか。いつも言ってますがノックくらいしてくださいよ」

 そこにいたのは生徒会顧問の女教師だった。

 今日もスリムな体型に

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19.三題噺「ゾンビ映画、チキン、ガラスのハート」

19.三題噺「ゾンビ映画、チキン、ガラスのハート」

「ねえ、後輩くん。放課後に最近公開された映画を見に行かない?」

「何映画ですか?」

「ゾンビ映画だよ!」

 えっ……。

「それは。ちょっと……」

 あれれ〜? と先輩がニヤニヤし始めた。

「もしかして、後輩くん怖気付いてる? まさかチキン?」

「そ、そそそんなことないですよ」

 言葉とは反対に声は震えている。
 だって仕方がないじゃないか……。
 そういうグロテスクなものが苦手なん

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18.三題噺「すまし顔、好き勝手、地上げ」

18.三題噺「すまし顔、好き勝手、地上げ」

 盛り土をして地上げされた青い桜並木を歩く。
 日差しが木の葉の隙間から差し込む気持ちのいい爽やかな朝だ。

「おはよっ。後輩くん」

 声と同時に僕の左肩がとんとん叩かれた。
 そこには笑顔の先輩がいた。

「あ、先輩。おはようございます」

「うんうん、今日も元気そうで何よりだよー!」

「先輩は朝からハイテンションですね」

「元気が取り柄だからね」

「流石先輩」

 元気が有り余ってるか

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17.三題噺「テロ、針仕事、水色」

17.三題噺「テロ、針仕事、水色」

「ねえねえマカロンくん」

 家庭科の授業中、私は生徒会長のマカロンくんを呼んだ。

「裁縫の途中で話しかけられると手元が狂って危ないだろ」

「それくらい何でもできて器用なら大丈夫だよ」

 マカロンくんはちゃんと針を置いてから私を見た。

「なんだ?」

「教室にテロリストが襲撃してきたのを無双して撃退する妄想って、やっぱり男の子なら誰でもするの?」

「定番だって聞くな。80%の男子中高生は

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16.三題噺「空飛ぶ絨毯、目潰し、遠吠え」

16.三題噺「空飛ぶ絨毯、目潰し、遠吠え」

「空飛ぶ絨毯に乗って私も自由に旅してみたいなあ……」

 英語の授業中、隣の席の女の子、同クラさんがぽつりと呟いた。

 英文を交互に読み合う時間だったから、向かい合ってた僕以外には聞こえなかったみたいだ。

「急にどうしたの?」

 教科書にはそんなファンタジーな記載はない。

「あ」と、同クラさんは恥ずかしそうにしなやかな指先で唇を抑えた。

 僕が笑うと、同クラさんの顔が紅潮して、覆おうとし

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15.三題噺「生徒会長、仕事、0%」

15.三題噺「生徒会長、仕事、0%」

「マカロンくん」

 放課後の生徒会室で、仕事がひと段落したところで生徒会長のマカロンくんを呼んだ。

「お前までその呼び方をするのか」

「先輩がそう言ってたら馴染んじゃって」

「仲良しでなにより」

 マカロンくんはメガネを外して目を摘んでから僕を見た。

「最近どうなんだ?」

「先輩とは別にどうもこうもないよ」

「どうなんだ、ってだけで恋愛に結びつけるあたり、お前も隠すの下手だよな」

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14.三題噺「生徒手帳、おかず、血」

14.三題噺「生徒手帳、おかず、血」

 授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り、ようやく昼休みだ。

「購買行くか……」

 隣の席の同クラさんは友達と談笑していた。

「後輩くんっ」

 伸びをして体をほぐした後、立ち上がると、教室の外から僕を呼ぶ声がした。

 そこには可愛らしい笑顔をした先輩がいた。
 少し大きめのランチバッグを手に下げている。

「お昼に来るなんて珍しいですね。何か用事ですか?」

「ちょっと来て」

「?」

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13.三題噺「幼年期、名を残す、えこひいき」

13.三題噺「幼年期、名を残す、えこひいき」

 僕は先輩の設立した意味不明な同好会で勝手に使用されている空き教室に来ていた。

 特に活動とかは無いから先輩と僕は使われていない机を挟んで座って喋っているだけだ。

「私、帰国子女になりたい」

「突然どうしたんですか?」

「帰国子女ってなんとなくネームバリューがあると思わないかい? 幼年期を海外で過ごしたって言ってみたい」

「いえ、まったく思わないです」

「後輩くん男子高校生なんだから、

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12.三題噺「参考書、UFOキャッチャー、文房具屋」

12.三題噺「参考書、UFOキャッチャー、文房具屋」

 放課後に、僕は同じクラスの女の子、同クラさんの案内で隣町の文房具屋さんに来ていた。

 本屋も併設されていて、本を見に行っていた同クラさんが参考書を手にして僕のもとへやってきた。

「ありがとう。好みのシャー芯見つかったよ」

「そ、そっか。それならよかった……」

「近所にはなかったからどうしようと思ってた。この辺に住んでるんだね」

「う、うん。帰り道によく立ち寄る、かな?」

「わざわざ付

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