20.三題噺「天地の差、生ハム、ありがとう」

 生徒会長の俺は昼休み、生徒会室でひとりでお弁当を食べていた。

 書類仕事を軽く片付けるためと、なんとなく静かにひとりで食事したい気分だった。

 最後の一口を頬張り、飲み込んで弁当の蓋を閉めたところで扉がノック無しに開かれた。

「やあ、ひとりかい?」

「なんだ、先生ですか。いつも言ってますがノックくらいしてくださいよ」

 そこにいたのは生徒会顧問の女教師だった。

 今日もスリムな体型に似合った服装で、クールでかっこいい。

「顧問だからそれくらいは目を瞑ってくれよ。それともお着替え中だったり、思春期男子らしくナニでもしてるとでも言うのかい?」

「はぁ……。なわけないでしょう」

 昼間っから一体何を言っているのか。

「酒でも呑んでるんすか?」

「それは是非したいものだが、流石の私も勤務中だから我慢したよ。つまみ代わりの生ハムを食べることで呑んだ気分になったがね」

 あっはっは、と女教師は豪快に笑った。

「ひとりで弁当を食べていたとは寂しいね」

「生徒会長なのに友達のひとりもいないのか、って揶揄うつもりですか?」

「まあ、天地の差というほどでもなく、当たらずとも遠からずだね」

「じゃあ、なんの用事すか?」

「君が恋しているという噂を聞きつけてね。揶揄いに来たというわけさ」

「なっ……!?」

「おやおや、その反応だと図星か」

 い、いやいやいや。何を言ってるんだこの人は。
 というか何で知っている!?
 あいつか? あの女が言いふらしやがったのか?

 俺が慌てていると女教師は肩をくっくっと揺らして笑った。

「嘘の話でカマをかけただけなんだがね」

 ……まんまと騙された。

「そ、そんなわけないでしょう?」

「誤魔化すのが下手なところがあるんだねえ。何でもそつ無くこなすと思っていたが、可愛らしい一面があると知れたよ。助けが必要だったら言ってくれ。君にはいつも助けてもらっているから、あの子とは違って貸し借り無しに手伝うよ」

 本当にこの人はサバサバしていてかっこいい。
 そんなところが好きだ。とは言えるわけもなく……。

「はい……」

 情けなく返事をするしかできない俺はいくじなしだ。

「ありがとう。おもしろい話を聞けたよ」

 艶やかな唇を歪めて笑った俺の片思いの相手、女教師は帰っていった。

 その笑顔は反則だ。

「……なんだよ。くそっ。今日も綺麗すぎんだろ……」

 俺はノックアウトし、真っ赤な顔で机に突っ伏した。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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