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21.三題噺「耳、劣等感、ブランケット」

 梅雨入りに向けてお天道様の気合いが入っているのか、今日はひどく風の強い土砂降りで、湿気も多くてジトジトしていた。

 体育館でのバレーの授業中、僕は不快さに気を取られて足元がおろそかになって滑って捻挫してしまった。

 同クラさんの案内で僕たちは保健室に来ていた。

「捻挫はアイシングした後にあっためるといいらしいよ。それに汗かいてたからタオルで体拭いてブランケットかけて体冷やさないようにしてね。5月だけど今日は少し気温が低いから」

 同クラさんに案内されるがまま行動し、僕はとりあえず椅子に腰をおろす。

 庇っていた足が楽になったと同時に、精神的落ち込みを意識してしまって、ため息が自然と口から溢れていた。

「情けないよね。ごめん……」

「ううん」

 同クラさんは屈んで僕の耳に口を近づけた。

「情けなくなんかないよ」

 優しい声音が突然耳元で聞こえて、びっくりして背中が跳ねた。

 囁き声が鼓膜に伝わり、吐息が皮膚を撫でる。

 右耳に意識が自然と集中してしまい、肯定されたことに安堵し、どこか快楽が芽生えた。

 同クラさんの手が僕の頭に伸びた。

「よしよし。君は生きてるだけで偉いんだよ。男の子なのに情けないなんて思わなくていいの。劣等感なんか抱かなくていいんだよ」

 撫でられた髪の毛からゾクゾクとした快感が体を走り抜け、自然と体温が上がった。

 なんか……変な気持ちになりそうだ。

「ちょ、ちょっと、どうしたの……?」

 上擦った声を取り繕うこともできずに目線だけ横に向けると、すぐそこに同クラさんの綺麗な顔立ちがある。

 少し視線を下にずらせば控えめながらも確かに存在している二つの膨らみ。

 顔を見ること数秒。

 ……あ、目が合った。

「……っ!?」

 同クラさんは一気に茹でだこになり、途端に正気に戻ったのか、ものすごい勢いで後方にジャンプして棚に背中を打ち付けてへなへなと座りこんだ。

「ご、ごめん……! つい、弟に甘えられたときみたいにしちゃった」

「う、ううん。大丈夫……」

 まだかすかに右耳に同クラさんの声が残っているような気がして鼓動が早鐘を打っているけれど、一応正気だ。

 ……同クラさんって、家だとあんなに甘々なのかな。

 ちょっとだけ女の子に甘やかされるのもいいかもしれないと思った。

 足は痛むけど、怪我の巧妙だったのかもしれない。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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