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16.三題噺「空飛ぶ絨毯、目潰し、遠吠え」

「空飛ぶ絨毯に乗って私も自由に旅してみたいなあ……」

 英語の授業中、隣の席の女の子、同クラさんがぽつりと呟いた。

 英文を交互に読み合う時間だったから、向かい合ってた僕以外には聞こえなかったみたいだ。

「急にどうしたの?」

 教科書にはそんなファンタジーな記載はない。

「あ」と、同クラさんは恥ずかしそうにしなやかな指先で唇を抑えた。

 僕が笑うと、同クラさんの顔が紅潮して、覆おうとしてドジを発揮して目潰しをくらって悶えていた。

 すごいなドジっ子属性って。
 流れるようにドジを発動させるんだから、もはやなんでもアリだ。

 もぅ、と同クラさんは僕を睨んできた。

「ぼーっとしてて心の声が出ちゃったの〜!」

 恥ずかしそうに教科書で口元を隠して弁解している。

「歳の離れた弟がいるんだけど、昨日の夜読み聞かせてあげた絵本のことを考えてただけだよ?」

「うんうん。そうだね」

「……ちゃんと聞いてる?」

「君の頭の中はファンタジーって話だよね?」

「ち、違うよっ」

 大きくなりかけた声を同クラさんは必死に抑えた。

「私じゃなくって、弟のことだよ?」

 手でメガホンを作って囁きかけてきた。

「そんなに必死に否定しなくてもいいのに。認めた方が楽だと思うよ」

 僕も真似して囁き声で揶揄うと、同クラさんは椅子をガタッと鳴らして立ち上がった。

「だから、私じゃないっ!」

 同クラさんは腕をぶんぶん振って、普段は出さないような大声を出した。

 当然、教室の視線が同クラさんに集中して、先生からも怒られた。

「もぅ〜〜〜〜〜……!!」

 同クラさんは羞恥で机に突っ伏した。
 くぐもった小さな遠吠えが虚しく響いた。

 腕の隙間から僕を非難の視線で睨んでいる。

 笑いを堪えるのに必死でそれどころじゃない。

 ああ、可笑しい。お腹が痛い。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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