見出し画像

19.三題噺「ゾンビ映画、チキン、ガラスのハート」

「ねえ、後輩くん。放課後に最近公開された映画を見に行かない?」

「何映画ですか?」

「ゾンビ映画だよ!」

 えっ……。

「それは。ちょっと……」

 あれれ〜? と先輩がニヤニヤし始めた。

「もしかして、後輩くん怖気付いてる? まさかチキン?」

「そ、そそそんなことないですよ」

 言葉とは反対に声は震えている。
 だって仕方がないじゃないか……。
 そういうグロテスクなものが苦手なんだから。

「ホラーは得意ですよ?」

「ホラー "は" ?」

「……」

 グロテスクなのが苦手です。とは言えなかった。少しでも見栄を張りたくて。

 でも、先輩は、しょうがないなぁ。と納得してくれたようだ。

「先輩として後輩くんのガラスのハートを守ってあげないとねっ!」

 ウインクした先輩はキザなセリフを言ったけど、今この場限りは許してあげたい。

「せ、先輩っ!」

「よしよし。ちょっと前のだけど恋愛映画の方にしようね〜」

 流石先輩。いざというときは頼りになる。

 ……と思っていた。

 先輩に騙された僕は普通にゾンビ映画に強制連行されて、青褪めて終始ガタガタ震えていた。
 びっくりしすぎて上映中の記憶が無い。

「……ひどいです。先輩」

 もう先輩のことは信用しない。そう誓った。

「……っ!」

 と思っていたけれど、なんだか先輩の様子がおかしい。

「どうしました? 顔赤いし息も上がっているような……?」

「へっ!? な、なんでもないよ!? ……可愛い後輩くんが手を握ってきたり、抱きついてくるからドキドキしちゃった……。破壊力抜群すぎるよぉ」

 ゴニョゴニョと何を言ってるんだろ?
 まあ、大丈夫そうだからよかった。

「早く帰りましょ。映画館にいたら思い出しちゃいそうで……」

「う、うん……」

 夕日に照らされた先輩の横顔はまだほんのりと赤らんでいた。

 ……ほんとに何もなかったよな?




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
⤵︎
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?