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チームの「文化」は行動の積み重ねでつくられる 『WHO YOU ARE』

『WHO YOU ARE』は、かなり面白い本だった。組織の文化をどう作るかということを探求している一冊だ。

マネジメントとか、組織論に分類される本だと思うけど、内容は家庭やコミュニティなどいろいろな場面で応用できそうだと感じた。

その理由は、本書がハイチの奴隷革命や日本の武士社会など、世界の歴史を見渡したときに優れた文化といえるものを選びぬいて、文化作りのエッセンスを抽出しているからだ。

この手の本で多いのが、シリコンバレーなどの特定の組織にばかりにスポットを当てているパターンだ。あまりに環境がかけ離れすぎているし、親近感が湧かない。

本書の組織文化論は、特定の組織や国だけで通用するという感じではないのが嬉しいところ。古今東西どこでも使えるというわけだ。

とはいえ「文化」というものは、とらえどころがない。そこに確かに存在しているのに、実体を掴もうとすると煙のように眼前をすり抜けていく。

良い文化のチームを作ろうと思ったところで、どこから手をつけていいのかわからず、頭を抱えることになる。

「文化」というもの捉える上で、まず理解しておかねばならないのは、それが規則やシステムとは違うということだ。本書の文章を引用したい。

トップがいないところで人々がどんな判断をするかこそが、企業文化というものだ。社員が日々の問題解決に使う一連の前提が、企業文化だ。誰も見ていないときにどう行動するかが、企業文化なのだ
文化は社訓や社是のようなものではない。一度つくれば終わりというものではないのだ。「基準以下の行いを放置しておくと、それが新しい基準になる」と軍隊では言われる。企業文化も同じだ。文化に沿わない行いを見聞きしても対処しなければ、それが自分たちの新しい文化になる

一言でまとめると、「文化」とは、そこに所属するメンバーの行動の集積体なのだ。日々の行いの積み重ね、と言い換えてもいい。だから、メンバーが変わったりして、一人一人の行動が変わると文化そのものも変容する。

ちょっと生き物みたい、とも思う。人間という動物の行動の集積なのだから、あながち間違っていないのかもしれないけど。

リーダーこそ誰よりも実践しなければならない

文化は「行動」に根ざしたものである。だから行動をハンドリングすることが、理想の文化を作る上で重要であることがわかる。そこで行動規範やら社是みたいなものが生まれてくるわけだ。

押さえておかないといけないのは、行動規範をかかげるリーダー自身もメンバーであるという点だ。事例を引用したい。

たとえば、あるCEOが時間厳守を企業文化の中心に置いたとしよう。そのCEOは、「時間を守ることは他人に敬意を払うことだ」と熱く語っていた。社員の時間がこの会社の最も大切な財産なのだから、遅刻は同僚の大切な資産を奪うのと同じことだと口を酸っぱくしていた。それなのに、CEO自身がいつも打ち合わせに遅れてくる。そんな会社で、ほかの社員が時間を守るだろうか?

思ったような文化が作れない99%の理由がこれではないか、と思うのだ。文化を作ろうとしている張本人が実践していないのだ。

リーダーの行動をみんなが見ている。だからこそ、リーダーが本当に信じて実践できるものでなければ、文化として定着しない。長期的な実践期間を経て、メンバーの大部分が同じ行動をするようになってはじめて、それが文化になる。

気を緩めてはいけない。先の引用でもあったように、文化から逸脱した行動を放置しておけば、それが新しい文化になってしまうかもしれないから。

文化が身を守ってくれることもある

同じ会社で働いている同僚とは、仕事をしやすい。同じ文化の組織にいることで、行動論理が似ているからだ。話さずとも、何を大事にしなければならないのか、なんとなくわかっている状態だ。

このような状態においては、安心感や仲間感が生まれる。これは困難に直面したときに心の支えになることも多い。

また、いま新型コロナウィルス感染拡大により各国がさまざまな対策を講じている。日本は今のところウィルスの押さえこみに成功してるように見える。

この押さえこみプロセスが、中国と日本で対照的で面白いと感じた。

中国では、コロナウィルスをシステムと権力という「強制力」で押さえこんだ。国民全員が政府の指示通りに行動することを強制し、システムの力で管理することで、感染拡大の制御したのだ。

一方で日本はどうか。ほぼ強制力のない自粛というお願いだけだ。それでも感染を抑制することができている。みんな一緒がいい・お上からの指示は守るというような日本人の気質によるところが大きいのではないか。

一度、自粛を頑張ろうと決まったら、みんな一丸となって頑張る。逸脱は許されない。同調圧力が働き、そこから外れた人は袋だたきに合う。だから、みんな結構ちゃんと自粛する。

また、なんだかんだで日本はもともと武士社会。武士の社会はタテの関係を重んじる。自分よりも権力のある人の命令は絶対なのだ。だから、文句言いながらも、上(政府)からの指示にしたがう。

清潔にしていないと失礼、他人とは距離をとる、というような礼儀の文化もある。

これらの文化の力が、感染の抑えこみにうまく働いるのではないかと思う。文化が身を守ってくれることもあるのだ。


文化に良い悪いはない。ポジティブに働くこともあれば、ネガティブに働くこともある。

文化形成の上で最も大事なことは、そこに所属する人が何を大切にしたいかだ。大切にしたいことを行動に落として実践する。その積み重ねが文化になるのだ。

文化というスケールが大きくて捉えどころのない存在の輪郭が少しつかめた気がする。


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