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045 メタで語る『ガールズバンドクライ』


 『機動戦士ガンダム』の原作者の自伝小説『だから僕は…』を読んだのは遅く、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が公開された年。だから名義は富野由悠季だけど、それを読んで虫プロのアトム班かと驚いたものです。
 富野(当時は喜幸名義)は『鉄腕アトム』を二年目から関わったけど、途中からもう一つの手塚治虫原作『ジャングル大帝』にスタッフをごっそり引き抜かれ。アトム班に残った富野は貧弱な制作体制を味わったという。その境遇、正規の軍人がいないホワイトベースと瓜二つ。外的な状況で振り回される点も。
 しかし富野も一話だけ関わった『宇宙戦艦ヤマト』もメタで語れる点があると思う。放射能で不毛になった大地。その赤い大地をコスモクリーナーDで再び青い星に蘇らせる旅路。それは正にプロデューサーの西崎義展のアニメ業界の認識で、ヤマトの狙いだったのではないか?
 『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』でさえ、ヤマト以降の日本のアニメ業界の光景が西崎が思い描いたものと違ったから、もう一度ヤマトを航海させて完結させたかったからではないか?
 そして『ガールズバンドクライ』、ガルクラである。楽曲としても物語としても本気が伝わってくるから、東映アニメーションが何故企画したのかを考えるのも無駄でないと思う。
 東映アニメーション、つまり東映動画といったら虫プロ以前からあったアニメーション制作会社、というより手塚自身がアニメーションのノウハウを身に付けた会社で。そんな老舗の会社が何故、ロックのアニメを作ろうとしたのか? 二話の時点でキャラ付けが明確になった井芹仁菜と河原木桃香から考察することが可能。東映動画/東映アニメーションには数多くの仁菜や桃香がいた、いるはずだから。
 仁菜は(多分)地方や家のしきたりを拒否して、一人で都会に飛び込んだ女の子。それはアニメ業界に入った当初のアニメ人の境遇そのもの。アニメが今ほど市民権を得られなかった時代の。
 桃香はアニメやバンドに限らず、表現活動にありがちなパターン。遠藤ミチロウさえ『Trash』、『STOP JAP』、『虫』を私は絶賛するけど、特に再結成後のSTALINのアルバム、凄味が失せてる。
 富野は何だかんだ言って今でもガンダムの富野だし、西崎はヤマト以外で世間の耳目を得ることはついになかった。私自身はアニメスタッフの帰趨を探る趣味はないけど、今の東映アニメーションにも名刺代わりの一本以後、もがき苦しんでる監督経験者などがいるはず。そんな人は当然桃香に愛着を持つはず。
 そしてどうやらバンド活動を真面目に物語るらしい。それは毎回七転八倒してるはずのアニメ制作そのもの。これが面白くならない訳がない。しかも今は聖地巡礼といって地方に光が当たっている時代。しかしトゲナシトゲアリはそれに反逆し(今さら)武道館を目指し、東映アニメーションは今までやってきたことが間違いないと証明するため『ガールズバンドクライ』を世に問うた。
 「中指立てろ!」は「天下をとれ!」という意味であり、やっぱり中央に乗り込まなきゃ世間は認めてくれない、それがテーマと思うのです。そのテーマをどう物語るか、私の一番の楽しみ。

 以下は参考にした先行記事。



 

 

 

 

 

 

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