バンドって”めんどうくさい”ものなんだよな アニメ『ガールズバンドクライ』を2話まで見て
普段、アニメとかの作品の感想は最後まで見終わってからじゃないと書かないという、個人的な縛りを設けていた。作品は完結しないと、適切な評価を下せないと思っているからだ。
今回はその縛りを破って、ある作品の感想を書きたいと思う。すぐに書きたいと思うくらい、こころを動かされたから。
2024年春アニメの1つ、『ガールズバンドクライ』によって。
今までの「バンドもの」に感じていた違和感
バンドアニメというのは、深夜アニメ界隈において、これまでも多く製作されてきた。
京アニ全盛期で爆発的な人気を誇った『けいおん!』。
ソシャゲや現実でのライブなど、複数のプロジェクトで1つのIPを築き上げた『バンドリ!』
そして直近では、『ぼっち・ざ・ろっく!』が覇権アニメとして評価された。
他にも『天使の3P』や『SHOW BY ROCK!!』など、少し知名度は劣るものの、定期的にガールズバンドアニメというのは作られ続けてきた。
たが、こうした「バンドもの」に対してずっと感じていた違和感がある。
それは、「非現実的なキラキラ感」だった。
どの作品も、年若い少女たちがバンドを結成する。彼女たちはバンドで絆が深まり、笑い合いながら、次々と曲を作曲し、ライブを成功させ、大成していく。
もちろん、バンドを結成するまでに衝突したり、メンバー集めに苦慮したりするシーンはある。しかし、一度動き始めたバンドはひたすらに前に向かって進んでいく。彼女らの成長は華やかで、美しくもあるが、同時に自分はどうしても違和感を感じる。
バンドって、もっと面倒くさくて、泥臭くて、厄介なものだと思うのだ。キラキラしている部分なんて、ほんの一部分だと思う。
一瞬で挫折したが、自分もギターをかじっていたことがある。楽器とはお金のかかるものだ。ましてや、バンドとして本格的にやっていくならなおさら。
大多数のバンドマンが、アルバイトやらに精を出し、いつの間にかバンドが副業でアルバイトが本業に、なんていうのはよく聞く話だ。
更に言うと、自分は昔のバンドを聞いたりすることも多く、長いキャリアを積んでいるバンドも多く知っている。そうした中で、順風満帆だったバンドなんてのは、滅多にない。
バンドメンバーの脱退・変更。厳しい下積み時代から、ようやく這い上がっても、次々と変わっていく音楽シーンに対応できず、解散したり。正式なメンバーは「一部メンバー」だけで、あとはサポート、なんていうのもザラにある。
ドラムからギターまで、全員が顔見知りで、成功し続けてお金の心配もなく、関係性良好。なんてそんな夢物語は滅多にないのだ。
もちろん、1クールや2クールのTVアニメで、メンバーの脱退やら音楽性の違いによる衝突なんかを描くのは、尺的に難しい。バイトに勤しみ、ライブのチケットを身内に配り、貧しい生活を送る少女が見たいわけではない。だから、バンド結成とそれからのサクセスストーリーにのみ焦点を当てられるのは、ある程度はしょうがないとは思う。
でも、バンドのこの泥臭いところというか、「厄介な」ところも、描いてほしいなというのが、自分の希望であった。そして、それが今までの数々の「バンドもの」と言われる作品にどうにもハマれなかった大きな原因の1つだった。
いいとこないけど、「楽しい」よ?
でも、『ガールズバンドクライ』は違うかもしれない。そう感じさせる描写がいくつかあった。
まず、ギターの桃香。彼女の設定がすごくいい。
彼女はかつてはバンドに所属し、1曲、ヒット作を作った。けれども、それ以降はパッとせず、メンバー間とも不仲になり、バンドは解散。一人ストリートミュージシャンを続けても、それも芽が出ず。バイトに明け暮れる日々。だから、彼女は音楽をあきらめて実家に帰ろうとする。
なんともリアルな泥臭さだ。1曲だけはそれなりに売れたというのがすごく現実味がある。
そんな彼女が「バンド」っていうものについて語るシーンがある。
完全に悪口しか言っていない。主人公もこれを聞いて、「いいとこ、いってませんよ」と冷静なツッコミを入れている。
それを聞いて、彼女も
「あれ、そうだっけ?」となったあと、こう言って笑う。
「でも、まぁ楽しいんだよ」と。
ここはすごく好きなシーンだ。今まで、自分がバンドもののアニメに感じていた違和感というか、嘘くささみたいなものに、ガツンと言ってくれたシーンのような気がする。
バンドって、絶対に「めんどうくさい」のだ。だけども、楽しい。そんな厄介な存在であってほしい。本当に音楽のことが好きで、目立ちたがりやな連中が集まって、何も衝突が起きないわけがない。でも、そんなめんどうくささがあっても、人々が惹かれ続ける魅力がある。
それが自分の感じていたバンドに対する印象で、それをしっかりとセリフにしてくれたなと思う、すごく良いシーンだった。
めんどうくさいヤツが歌うのがロックでしょ
古い考え方だなと自分でも思うが、バンドをやるなら、いやロックをやるなら、「普通のヤツ」なんてのはいらない。
何かしら、主張したいことがあるヤツ、それも「音楽という手段でしか表現できない」ような、ある種の社会不適合者の集まりこそがロックバンドであってほしいと自分は考えてしまう。
なにも素行不良なヤンキーであれと言っているわけではない。しかし、ごく普通の女子高生が、何の気もなしにバンドを始めて人々を魅了するものが作れるとは、自分にはどうしても思えない。少しでも良いから、苦労していたり、何か不満を持っていたり。そんな人物が奏でる音のほうが聞きたいと思う。
そういう意味では今作品の主人公はまさに「バンドのボーカル」としてうってつけの、普通じゃない人物だ。
厳しい家庭ルールがある環境に育ち、それが何よりもコンプレックス。高校では些細なことが原因でイジメられ、中退。家庭からの脱却と、自分の何かを変えようと東京に来ているが、その何かがよくわからない…
まさに、青春ガールズ・バンドのボーカルにふさわしい闇っぷりじゃないだろうか。そしてコミュ障で情緒不安定で、泣き虫である。第二話のラストで、あるキャラが笑いながら言うセリフと同じ印象をみんな受けるだろう。
「めんどうくせぇ~」
その後、しっかりとワンパンくらわせているのも含めて、微笑ましくて好きなシーン。
でも、バンドってこんな感じであってほしいと思う。和気あいあいと、衝突も対立もなく、いい子ちゃんたちが奏でる音よりも、癖のあるヤツらが、喧嘩しながらも訴える音楽のほうが、自分は好きだ。
伝統的だけど野心的なアニメーション
もう1つ、個人的に注目しているポイントがある。それは映像。本作品は、あの伝統ある東映アニメーションの製作だ。
しかし、一方でフルCGアニメーションの作品でもある。自分も中身を見るまでは、あまり作画面に関して期待はしていなかった。最近の流行りのCGアニメにありがちな、パッと見はキレイだけども、面白味のない動きをするCGアニメーションだろうなと。
だが、そこはさすがの東映アニメーション。正直、TVシリーズのCGアニメの中では、郡を抜いて好きな作画だ。CGの利点であるフルアニメーション。これを活かした「アニメーションとしての面白さ」がワンサカある。
ライブシーンよりも、日常シーンのほうが自分は好きかもしれない。とてもCGアニメとは思えない多種多様に変わる表情、コミカルな演技。
これが2Dの世界だったらすごいと思ってもそこまでの感動はなかっただろう。でも、あの東映アニメーションが、超老舗が、CGという冒険をして、この作画をやってのけた。
伝統的だけども、野心的なこのアニメーションに、自分は釘付けだった。
歴史的に考えれば、これが東映アニメーションのやりたかったこともかもしれない。ディズニーに憧れ、高クオリティなフルアニメーション劇場作品を作ってきたアニメ会社なのだから。
今期のイチオシです
このすば、無職転生といった転生系の超大御所たちや、前シーズンから大人気のダンジョン飯など、今期はなかなかの豊作が揃う2024年春アニメ。
その中で、完全新規IPで知名度は低いが、ストーリーも作画も、大注目のイチオシだ。
なにより、こうした完全新作は、どう転ぶのか分からないのが面白い。よくも悪くも、になるが。
だが、脚本は自分の尊敬する花田十輝先生。悪いほうに転ばないと祈りたい。セリフ選びやサブタイトルの付け方など、すでに花田先生らしさが光っている。このまま花田先生の腕に任せられれば、すばらしい作品になると信じている。
1つ、欠点をあげるとすれば、若干声優の演技が心もとないところだが…楽器演奏者を集めるために、演技が微妙な子になってしまうこの現象、どうにかできないのだろうか…
なにはともあれ、今期イチオシの作品。ぜひぜひ、ご視聴いただきたい。
おまけ
そういえば、バンドではなく「音楽」というジャンルまで幅を広げると冒頭の書いた「泥臭さとかめんどうくささ」を描いた作品があった。
『響け!ユーフォニアム』だ。これも、奇しくも脚本は花田十輝で、今期に3期が放送される。こちらも同じくオススメです。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?