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人知れず世間の片隅で時流に抗いつつ片意地を張ってひっそりと生きる冴えない初老の孤立しが…

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人知れず世間の片隅で時流に抗いつつ片意地を張ってひっそりと生きる冴えない初老の孤立しがちな乱読者。心理臨床界隈の住人。ほとんどはただの独り言ですが、どこかで耳を傾けてくれる人がいれば、そこに思いがけない意味が宿るのかもしれません。私自身も思いがけない場所にたどり着けたら。

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    自分が読んだ本についての、感想、コメント、連想を、気ままに書いています。

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#580:リチャード・ローティ著『偶然性・アイロニー・連帯 リベラル・ユートピアの可能性』

 リチャード・ローティ著『偶然性・アイロニー・連帯 リベラル・ユートピアの可能性』(岩波書店, 2000年)を読んだ。原書が刊行されたのは1989年とのこと。つい先日、朱喜哲著『NHK 100分 de 名著 ローティ 偶然性・アイロニー・連帯』(NHK出版, 2024年)を読んだばかりだが、さっそく本書を読んでみることにした。  一度読んだくらいで十分に理解できるはずもなく、また、まとまった感想を述べる力は私にはないので、印象に残ったところについて、思いつくままにメモしてお

    • #579:土屋隆夫著『寒い夫婦』

       土屋隆夫著『寒い夫婦』(光文社文庫, 1995年)を読んだ。著者の作品は、主要な長編を高校生の頃にまとめて読んだ。『影の告発』『針の誘い』『危険な童話』など。当時は、著者の主要な作品は角川文庫にラインナップしていて、明るいグレーの背表紙カラーが懐かしく思い出される。若い頃の私は、ともかく“読むのは長編に限る派”だったので、短編作品もポツポツ読むようになったのはその後だいぶ経ってから。今では、集中力の衰えが著しく(苦笑)、むしろ長編作品よりも短編作品のアンソロジーの方に進んで

      • #578:ルーシー・ワースリー著『アガサ・クリスティー とらえどころのないミステリの女王』

         ルーシー・ワースリー著『アガサ・クリスティー とらえどころのないミステリの女王』(原書房, 2023年)を読んだ。原書が刊行されたのは2022年とのこと。先日、新聞の書評欄で取り上げられているのを見かけて、ここのところ、クリスティー作品の再読(一部、初読、再々読)に取り組んでいることもあり、クリスティーの伝記には触れたことがなかったので、この機会に読んでみようと思った。  本書は結構分厚いハードカヴァー本。はじめに16ページにわたって少女期から最晩年までのクリスティーやそ

        • #577:朱喜哲著『NHK 100分 de 名著 ローティ 偶然性・アイロニー・連帯』

           朱喜哲著『NHK 100分 de 名著 ローティ 偶然性・アイロニー・連帯』(NHK出版, 2024年)を読んだ。著者の名には、以前読んだ、谷川嘉浩・朱喜哲・杉谷和哉著『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる 答えを急がず立ち止まる力』(さくら舎, 2023年)の著者の一人として見覚えがある。ローティに関しては、まだその著作は読んだことはないのだが、大学生の頃に大学生協の書籍部に平積みされていた、当時の新刊の『哲学の脱構築』(御茶ノ水書房, 1985年)が、分厚くて重くて高価な

        #580:リチャード・ローティ著『偶然性・アイロニー・連帯 リベラル・ユートピアの可能性』

        • #579:土屋隆夫著『寒い夫婦』

        • #578:ルーシー・ワースリー著『アガサ・クリスティー とらえどころのないミステリの女王』

        • #577:朱喜哲著『NHK 100分 de 名著 ローティ 偶然性・アイロニー・連帯』

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          #576:レイモンド・カーヴァー著『CARVER'S DOZEN レイモンド・カーヴァー傑作選』

           レイモンド・カーヴァー著『CARVER'S DOZEN レイモンド・カーヴァー傑作選』(中公文庫, 1997年)を読んだ。1994年に中央公論社から刊行された単行本を文庫化したものとのこと。本書は訳者の村上春樹氏がセレクトした作品集で、村上氏自身の個人訳による『レイモンド・カーヴァー全集』(中央公論社)をさらに新たに訳し直したものとのことである。  私の手元には、大学生の頃に購入して以来未読のままになっている『ぼくが電話をかけている場所』(中公文庫, 1986年)があるの

          #576:レイモンド・カーヴァー著『CARVER'S DOZEN レイモンド・カーヴァー傑作選』

          #575:小池靖著『心理療法が宗教になるとき セラピーとスピリチュアリティをめぐる社会学』

           小池靖著『心理療法が宗教になるとき セラピーとスピリチュアリティをめぐる社会学』(立教大学出版会, 2023年)を読んだ。知人を通じて本書のことを知り、読んでみようと購入したもの。いつも頼りの某密林サイトでは新品が購入できず(中古品はあったが定価の倍以上の価格設定)、他の書店系のサイトをあたって店頭取り寄せで入手した。  著者略歴を見ると、著者の専門は「宗教社会学、心理主義論」とある。タイトルに惹かれて本書を読んでみたのだが、先に書けば、私が想像していたのとは違った内容だ

          #575:小池靖著『心理療法が宗教になるとき セラピーとスピリチュアリティをめぐる社会学』

          #574・京都市交響楽団 第688回定期演奏会(2024/4/13)

           京都市交響楽団の第688回定期演奏会を聴いてきた。指揮者はスペイン出身のペドロ・アルフテル。私ははじめて見る名前の人で、京響とは今回が初共演とのこと。前半は辻彩奈の独創によるプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番、後半はリヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲というプログラム。私は当日券を購入しての鑑賞。開演してみると座席は9割方埋まっている印象だった。  プロコフィエフは私にはその魅力がもう一つよくわからない作曲家のひとり。今回のプログラムの曲もCDを1枚持っていて数

          #574・京都市交響楽団 第688回定期演奏会(2024/4/13)

          #573:中島河太郎・権田萬治編『日本代表ミステリー選集6 人肉料理』

           中島河太郎・権田萬治編『日本代表ミステリー選集6 人肉料理』(角川文庫, 1975年)を読んだ。私が入手したのは1980年に発行された第8刷であるが、経年変化による紙の変色はあるものの、保存状態の良い美本であった。全429ページで定価は420円。  表紙カバーの折り返し部分の記載によれば、「 この<日本代表ミステリー選集>は、九〇人の第一線の作家によって戦後発表されたミステリーの中から、名作の名に値する短編一二〇編を選び、全十二巻に編集しました」とのこと。というわけで、本

          #573:中島河太郎・権田萬治編『日本代表ミステリー選集6 人肉料理』

          #572:佐藤俊樹著『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』

           佐藤俊樹著『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』(岩波新書, 2023年)を読んだ。最近、新聞に掲載された著者へのインタビュー記事を通じて本書のことを知り、読んでみた。  著者の本を読むのは初めてだが、名前だけはずいぶん前から知っていた。15年ほど前に、社会学を専門としていた友人に、ルーマンについての本を読みたいのだけれど適切な本を紹介してもらえないかとメールで尋ねたところ、返信でたくさんの情報を教えてくれたのだが、その中に著者の名前があったのだ。で、著者のことはず

          #572:佐藤俊樹著『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』

          #571:小杉健治著『父からの手紙』

           小杉健治著『父からの手紙』(光文社文庫, 2006年)を読んだ。本書は2003年にNHK出版から刊行された単行本を文庫化したものとのこと。私は著者の作品はこれまで各種アンソロジーで数編の短編を読んだことがある程度で、長編作品を読むのは今回が初めてだと思う。  ヒロインの女性と、殺人の罪を犯した刑期を終えて出所したばかりの男性の二人を視点人物として、視点人物を交互に交替しながらストーリーが進んでいく本作は、この別々のストーリーがどこで絡んでくるのかが、読者にとっての興味の的

          #571:小杉健治著『父からの手紙』

          #570:奥村隆著『他者といる技法 コミュニケーションの社会学』

           奥村隆著『他者といる技法 コミュニケーションの社会学』(ちくま学芸文庫, 2024年)を読んだ。1998年に日本評論社から刊行された単行本を文庫化したものとのこと。新刊書店の店頭で見かけて、タイトルが気になって購入して読んでみた。  本書を一貫しているのは、私たちが「他者」と安定した関わりを持つことの難しさだと思う。だからこそ、私たちは「他者といる」ために、子どもの頃からさまざまなわざを身につけ、それを自分なりになんとかやりくりして、他者との関係を自分が安心していられる範

          #570:奥村隆著『他者といる技法 コミュニケーションの社会学』

          #569:田中克彦著『ことばと国家』

           田中克彦著『ことばと国家』(岩波新書, 1981年)を読んだ。これまで私が読んできた著者の本(いずれも新書)は数冊に過ぎないが、私にはどれもとても興味深く、それまで知らなかったことについて、いろいろなことを考えさせられてきたが、本書もまたそうした本であった。  本書の中心的な主題は、「母語」と「母国語」と「国家語」の違いである。文法が何のために“発明”されたかとか、言語をめぐる国家の政策とか、言語の“純粋性”をめぐる問題とか、日常的には自分がまったく意識することなく暮らし

          #569:田中克彦著『ことばと国家』

          #568:渡辺一樹著『バーナード・ウィリアムズの哲学 反道徳の倫理学』

           渡辺一樹著『バーナード・ウィリアムズの哲学 反道徳の倫理学』(青土社, 2024年)を読んだ。本書は新聞広告で見て、どうにも気になった本。そもそも“バーナード・ウィリアムズって誰?”と思うくらいで、どこで目にした、あるいは聞いた名前なのかも実は定かではない(苦笑) 新刊書店の店頭で確認すると、装丁がとてもかっこよい。ああ、水戸部功氏の装幀か。なるほど。という具合に、“ジャケ買い”の要素も含みつつ購入して読んでみた。  私がバーナード・ウィリアムズの名前に見覚えがあった理由

          #568:渡辺一樹著『バーナード・ウィリアムズの哲学 反道徳の倫理学』

          #567:ミステリー文学資料館編『探偵小説アンソロジー 甦る名探偵』

           ミステリー文学資料館編『探偵小説アンソロジー 甦る名探偵』(光文社文庫, 2014年)を読んだ。本書に収録されているのは、1947年〜1950年にかけて雑誌や新聞に発表された短編作品である。収録されているのは、収録順に、角田喜久雄、鬼怒川浩、天城一、楠田匡介、大坪砂男、岡村雄輔、坪田宏、飛鳥高の、計8名の作家のそれぞれの作品である。  本書の収録作品の中で、私が一番高く評価したいのは、坪田宏氏の「歯」(1950年)である。坪田氏の作品は、最近別のアンソロジーで「二つの遺書

          #567:ミステリー文学資料館編『探偵小説アンソロジー 甦る名探偵』

          #566:森岡正博・蔵田伸雄編『人生の意味の哲学入門』

           森岡正博・蔵田伸雄編『人生の意味の哲学入門』(春秋社, 2023年)を読んだ。書店の店頭で見かけて気になっていたところ、『現代思想』誌も最新号で「特集 人生の意味の哲学」を組んでいるのを新聞広告で見かけて、本書と当該の『現代思想』誌の最新号(2024年3月号)を併せて購入した次第。  本書は、編者を含めて10名の執筆陣が、主として分析哲学系の立場から“人生の意味”を哲学的に論じるための基本的な問題を、それぞれの関心と立場から論じたものと言えるだろう。分析哲学の中で、”人生

          #566:森岡正博・蔵田伸雄編『人生の意味の哲学入門』

          #565:小沼丹著『黒いハンカチ』

           小沼丹著『黒いハンカチ』(創元推理文庫, 2003年)を読んだ。巻末の「編集部 注」によれば、本書は1957年4月から翌年3月にかけて一年間にわたり雑誌掲載された短編作品をまとめて1958年に三笠書房から刊行されたもので、その後著者の作品集が1980年に小澤書店から刊行された時の版を底本として、適宜初出誌を参照して編集されたものとのことである。  新保博久氏が執筆した「解説」によると、著者は英文学を専門とする大学教員が本業で、ミステリー作品はその著者の作品の中でもマイナー

          #565:小沼丹著『黒いハンカチ』