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#573:中島河太郎・権田萬治編『日本代表ミステリー選集6 人肉料理』

 中島河太郎・権田萬治編『日本代表ミステリー選集6 人肉料理』(角川文庫, 1975年)を読んだ。私が入手したのは1980年に発行された第8刷であるが、経年変化による紙の変色はあるものの、保存状態の良い美本であった。全429ページで定価は420円。

 表紙カバーの折り返し部分の記載によれば、「 この<日本代表ミステリー選集>は、九〇人の第一線の作家によって戦後発表されたミステリーの中から、名作の名に値する短編一二〇編を選び、全十二巻に編集しました」とのこと。というわけで、本巻には10人の作家による10篇の短編作品が収録されている。

 収録されている作品中、特に私の印象に残ったものを挙げるなら、収録順に、黒岩重吾「青い枯葉」(1960年)、日影丈吉「吉備津の釜」(1959年)、小松左京「共喰い ホロスコープ誘拐事件」(1973年)といったところか。

 黒岩氏の作品は、企業小説風の話の展開を見せる復讐譚。日影氏の作品は、奇妙な味というか、不気味な後味の残る作品。小松氏の作品は、パロディ味が濃い作品だが、よくもまあこんなプロットを考えつくなあと、半ば呆れ、半感心させられた。

 収録作は、一番古いものが角田喜久雄「沼垂の女」(1954年)、一番新しいものが小松氏の作品で、主に昭和30年代、40年代に「宝石」誌を中心に発表されたもので、いずれも今では、とりわけその風俗描写において、古めかしく感じられることは否めない。逆に言えば、今となっては、若い読者はともかく私のような年代の読者にとっては、ノスタルジーを誘う面もないではない(私が物心つく前の作品がほとんどだけど)。

 巻末には、<推理ノート>という見出しで、中島河太郎氏による「 江戸川乱歩賞受賞作家とその作品」という短いエッセイが収められている。本書刊行時点で最新の第21回の受賞作までの歴史がたどられており、当時におけるそれぞれの作品に対する評価を窺い知ることができて資料として貴重であると思われる。このあたりの時期の受賞作の作家名と作品名はほぼすべて見覚えがあるが、私にとっては未読の作品が多く、中島氏のこのエッセイによって、いくつかの作品については読んでみようかなと気持ちが動いた。