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第8回和装で出掛けよう會

3月もそろそろ半ばに差し掛かり、お彼岸の氣配が差し迫る様に思える今日この頃ですが、春は名のみの風の寒さやと謡いつゝどてらを着てパソコンに向かっております。

さて實は不定期的に友人と和装で出掛けており、今年になって初の「和装で出掛けよう會」も通算で8回目となりました。

もうすぐ春ですので、鳥渡氣取ってみました。
時に本年2月17日の事であります。

出立前の1枚

画像が不自然に切れているのは友人が寫り込んでいる為です。
この着物は亡くなった祖父が残していった物で、余所行きではない日常的に着られる1着であり、主に弓道の稽古の際に着用している物です。
祖父は大柄な軆格だった為か丈も裄もピッタリフィットなのであります。

羽織は12回払いの月賦で賈ったオーダーメイドであります。
反物から仕立てて戴いた一品で「自分で誂えた着物」と云う夢を初めて實現したお氣に入りの1着です。
男物の羽織ですが、實は女性物の生地で作られているところが粋な仕上がりなのです。

この着物は所謂「コスプレKIMONO」とは違い、本物でございます。勿論、着附けは自分達で行うのです。
女性物は非常に複雑で専門の稽古が必要ですが、男物は帯さえきちんと結べればそれなりに着る事が出來ます。
レンタルや着附屋に頼らず自分で着物を着られると云うのはとても良いものです。
日本人としての誇りを感じます。

さて、そうやって着物を着込んで電車に乗ってお出掛けを致します。
今回は日本橋、銀座、浅草を巡る道程を組んでおります。
折角の着物なのですから向かう先もそれに合う様に選ぶのです。
不思議な事にそうすると背筋も伸びて姿勢もよく、そして言葉遣い等の態度も上品に努めようと心掛けるものでございます。
日本人としての品性を鍛える為にもこうしたお出掛けが必要なのです。
休日の通勤電車ですが、たまにはこうしてお洒落着で乗ると氣分も宜しいものです。

そうして京浜東北線の快速電車で数驛、やって來たのは上野でございます。
ここで銀座線に乗り換え………の前に、不忍池でまずは一杯…。

御手々を拭いたウヱツトティッシュが寫っているのを氣にしてはいけない!

日の高い内からジャガバターと熱燗で一息入れます。
まだこれから色々巡るので燃料補給は大切なのです。

休日だけあって屋台は混雑しております。
何も賈わないのに寫眞だけ撮ろうと店先を占拠する外人に店主も嫌氣がさしているご様子。
「冷やかしは困るねぇ」と日本語で店主に話しかけると久々の日本人、それもどこをどう見ても日本人が來店したのでとても安堵して喜んでおられました。
「熱いのと、御ビールでも戴きましょうか」と持ち掛けると愈々屋台の親父さんも元氣を取り戻して暫し江戸訛りの會話が弾むものです。

「お客さん、噺家さん?」と、間違われるのも今年5回目です。呑み屋などでよく間違われます。
「いいえ、不動産業です」と、返すのは謂わばお約束なのです。

上野での燃料補給を濟ませたら地下鉄で日本橋へ向かいます。

お江戸日本橋

首都高速道路の下におはしますはお江戸日本橋。
將來は高速道路を地下に持っていくとの計画が有るとか無いとか言いますが、こうして見られる花のお江戸のど眞ん中。
お高いビルヂングに起重機(クレーンの事)の取り合わせが過去と未來が交叉する様でございます。

高速道路の合間から

薄曇りではありますが日本晴れの青空が垣間見えるこの場所は遠き江戸の昔より数多の旅人を見送ってきたのでございましょう。

麒麟さんが好きです。でも獅子さんの方がもっと好きです!

さり氣なく東京都の紋章を抱えている獅子さん。
東京都はイチョウではないこの紋章を知っている人は今では少ないと聞きました。
氣になる方はマンホールの蓋をよく観察してみましょう。

橋の欄干は所々茶色く煤けていましたがこれは戰時中の焼夷弾によるものだそうです。
また、橋の中央には日本国道路元標が埋め込まれておりますが、残念乍らお寫眞に収める事は叶いませんでした。

橋そのものは西洋風の造りをしておりますが随所に日本獨特の意匠が施されており、和洋折衷の美しい姿を見せてくれます。
この諸外国の造作を自前の文化と巧く融合するところが日本の素晴らしいところです。この後に訪れる室町や銀座もこうした面白味を味わえる街でございましょう。
昔乍らの着物に最先端のスマァトフォンを片手に暫し歴史の交わる不思議な場所を満喫するのであります。

越後屋さん

建物はあくまでもお洒落で重厚な造り。
見ているだけでも飽きません。

〽柳青める日、燕が銀座に飛ぶ日、誰を待つ心、可愛い硝子窓…

…とか唄っていると信號待ちをしていた老夫婦がとても嬉しそうな顔をしておられました。
かの藤山一郎さんの名曲を唄い乍ら歩くこのお洒落な街に着物はよく合います。
所謂傳統的な日本建築ではないのですが、これが日本の素晴らしさだと思います。
胸を張って護謨の貼っていない昔乍らの下駄の音も高らかに歩みを進めていきます。

ゴジラが無許可で壊した和光

當時の映画があまりにもリアルだった為、映画公開時は本當に壊したのか確かめに來る人で溢れたとか言われますが、東宝はこの件で激怒した和光からお叱りを受けたのだとか…。
これに對して次作のアンギラスでは大阪の商人が「今度ゴジラ作るんなら是非ウチを壊してくれ」と逆手に取った宣傳の為に東宝に掛け合いに來たとか何とか……。

〽夢のパラダイスよ、花の東京♪

ここらで「ティールーム」で一息入れます。
お洒落な調度品に静かな音楽。この上品な雰囲氣を満喫し、ここで美味しくお茶をするにはこの場所を利用するに相應しく振舞わねばなりません。
客と云うのは元來、店の雰囲氣を尊重するものであります。
然して何かと貧しくなった今日ではありますが、無機質的なチェーン店では味わえない上質な時間を享受出來ると云う訳であり、これが嗜みと云うやつです。
時にはこうして珈琲を愉しむのも惡くありません。
冷たく荒廃した社會に於いて心の静養を得んとすらば、こうしたものが必要になってくるのかもしれません。

腕には勿論セイコーの時計

祖父が残していったセイコーの自動巻きの時計は銀座に來ると調子が良くなる様です。
そんな時計が打ち出す時間を暫し忘れて非日常を愉しみます。

それから暫く銀座を歩きましたが、折しも歩行者天國に差し掛かり、鳥渡氣取って1枚撮って戴きました。

胸元から襯衣が出ているので減点

これは癖の様なものですが私は普段、片手を袖の中に入れて歩いております。袂や懐の中にしまった物が氣になるのです…。

さて、銀座の後は地下鉄に乗って浅草を目指します。

相変わらずの人混み

とりあえず浅草寺をお參りしてから出歩きます。
やはり外国人の姿も多く、着物を着ていらっしゃる方もしばしば見受けられますが、我々は日本人にして日本の民族衣装である着物を着て出歩いているのですから模範的な立ち居振舞いが求められます。勿論、着こなしにも氣を遣いたいものです。
折角ですからカッコよく決めましょう。

仲見世から六区へ

昔は面白い小間物屋等が在ったのですが、今はどこを向いても外人向けの品物ばかりです。
僅かに残った「逸品」を扱うお店を幾つか覗いた後は花やしき裏手の呑み屋に向かいます。

熱燗に目刺しを入れるのが私の愉しみ方

銀座とは打って変わってこちらは下町情緒。客に求められるのはそれに適應する事であります。
「女将さん、熱いのに肴を何か見繕ってくださいな」と注文。
すると本日2回目の「噺家さんですか?」との事。
曰く、服装と喋り方がどうも特徴的なのだとか何とか…。
いえ、私は語彙が貧弱なものですので相濟みません………。
熱燗に目刺しを入れる呑み方も今では珍しい様です。
お店のお姉さんからは「あら、粋な呑み方するねぇ」と嬉しい一言。

久しぶりに日本酒を6タングラス(昔の吞み屋等にある1合グラス)で戴きましたが、表通りの店は人混みでゆっくりと吞めない上にお店の旦那や女将さん、お姉さんとのコミュニケーションも碌に取れないのでこうした裏通りの穴場を狙います。

ほろ酔いに外の風も心地好く

こうしてお外で呑める酒は格別です。
おでんに煮込みにイカ焼きに…酒は進みます。

嗚呼、日本人で本當に良かったと心の底から思える一日でありました。


今日我々はこんな良い物があるのに段々とそれから遠のいている様に思えるのです。
それに對して敢えて逆のベクトルを生み出そうとするのがこの會の一つの目的であります。
日本の素晴らしさの再發見を愉しみ、日本人としての誇りを尚一層強くせんとして愉しんでいるのであります。
それも無秩序ではなく、あくまでも日本人として上品に美しく憚りを持って愉しむのが鐵則であります。

着物でお出掛けをするのはとても樂しい。
いや、樂しい以上にそれはとっても大切な事だと思います。

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