英雄なんかに成り果てた(Deseo)

英雄なんざは成り飽きた。
神だの教祖だの教師だの。

廃墟に佇む神様成り飽きた。
己を赦してやれよと投げかけた。

救い続ける呪いを解いてやれ。
随分足掻いてきたもんだ。

与えられなきゃ切り捨てられる。
長年見てりゃそれを感じる。
与えられるから大切にされる。
神サマ、お前もそう思うだろう?

胡座をかいて座り、チラリと後ろを見ては嗤う語り手は、京の宮にある神社に住んでいるとある妖である。

鳥居の上で夕日を眺め、棄てるように言霊を吐き捨てれば仁王立ちになり、汚れきった現世の様子を虚ろな目で、呆れた様に見つめていた。

その妖の肌は漆黒に染まり、髪は翁のように白く一つに束ねており、三十路の男の姿をしていた。目は暗闇の中に浮かぶ月のような黄色で背丈は六尺程。

着物は白色。
古くから奉られた法師の霊が妖になり、長年この世を彷徨しているが、とある御方の昇天によりこの衣類をいつからか着ている。
いつから着ていたのかは本人しか知る由も無い。

平安は良かった。法師の時は良かった。
人と妖の繋がりがあって楽しかった。
死後も寂しくなかった。仲間もいた。
しかし何時しか存在しない扱いにされた。
この国で戦火もあって更に繋がりが無くなった。
ここの神さんも忘れ去られた。
消えて随分と前にいなくなった。
だから代わりに私が来ているもんだ。

人々は何時しか願掛けもしなくなった。
しかしちょっと「ご利益」を与えりゃあ。
コロッと尻尾を降って近寄ってくるもんだ。

都合のいい。旧辞や古事記を読ん…
旧辞と帝紀は紛失していたな。
まぁとにかく。

妖は此方に背を向けて。
彼方にある本殿に体を向けた。

結局この世は因果応報。
的確に与えられる者が崇拝される。
都合の良い道具になればなるほど周りから親しみを持たれ愛される。嫌な程経験した。

……疲れた。

妖の刻、逢魔が時。

魂や存在そのものを愛してくれた。
過去にいたあの御方の所に。


その場から立ち上がり沈む夕陽を追うように。



私は早く逝きたい。

鳥居の上から、逆さに落ちた。








目を瞑る前。

涙を浮かべた妖のその瞳に映った物は。

背から落ちた際、必然的に見える世界ではなく。

法師の心を支え続けた、たった一つの像だった。

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