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3年半ぶりの大阪放浪記②~時には起こせよムーヴメント

大阪には18歳から25歳まで、学部時代と大学院時代合わせて7年間暮らした。

大学でも地元出身の友人が多かったが、もう一箇所地元出身の友人が多くできた場所がある。
それが、東心斎橋の外れにある「かくれあわび」だ。

クラブというよりはミュージックバーという趣の店で、週末を中心に音楽好きのツボにハマるイベントを20年以上を開いてきた店だ。
特にオールディーズのレゲエ好き・ヒップホップ好きに長く愛され、その名が日本中に知られている名店でもある。

店内に入ると、青い光に照らされた水槽を目の前にしたバーカウンターが迎えてくれる。
ローカルな音楽イベントのフライヤーがそこらじゅうに貼られているのは他のミュージックバーでも同じだが、ここでは一面に貝殻まで貼ってある。
冷静に見ればだいぶシュールな光景かもしれない…。

バーカウンターを抜ければ15~20畳程度のDJブースとダンスフロアが広がっており、一番奥にはこだわりのサウンドシステムが鎮座する。
踊り疲れれば、誰でも気軽に後方の席で休むことができるのが嬉しいところ。
終電までの時間帯のイベントであれば、お年を召した音楽ファンや子供連れまで、ほとんど全ての年代が客層になるため、こういった店には珍しいくらい誰にでも過ごしやすい空間だ。

俺の大阪時代、一番足を運んでいたのがここで開かれていた『Totally Retro』というイベントだ。

主に80~90年代のダンスホール・レゲエをレコードオンリーで流してくれるイベントで、かくれあわびの看板イベントでもある。
数年前までは毎週土曜日、朝までノンストップで開かれていたが、次第に月2回に頻度は減り、今年からは月1回、夕方〜終電までの時間帯での開催となっている。

レゲエが盛んな大阪の他の店でもなかなかない形態のイベントで、特にコアな曲を好むレゲエファンに支えられている。
20歳ごろからここに通い始めた俺は、信じられないほど耳を鍛えられ、多くの年上の音楽仲間に可愛がってもらった。

そのひとりが、『Totally Retro』を長年プロモーター / サポートスタッフとして支える、通称「川ちゃん」だ。
底抜けに明るい性格とイベント中の気配りの良さから、みんなに慕われる人気者。
年下の俺が言うのもなんだが、とにかく「いい奴」。
今回大阪を訪れた理由の半分以上は、彼の40歳の誕生日を仲間と共に祝うためだった。

毎年9月第二週の『Totally Retro』は、彼のバースデーバッシュとして開催される。
夕方開催となってからは初めてとなったが、特にその日は特別編として朝までの「延長戦」も用意される気合いの入れよう。
バースデーバッシュでは毎年潰される川ちゃんだが、果たして朝まで生き残っていられるのか⁈
と、常連は前日から口々に心配(ネタ)の言葉を並べた。

普通こういうミュージックバーやクラブでは、ショットグラスでテキーラを飲むことが多いが、かくれあわびではなぜかジャックダニエルが定番となっている。理由は謎のままだ。
たまにゲームに負けた人が「どなん」を飲まされることもあり、これは割と飲める方の俺でもかなり強烈なやつだった。

バイトに明け暮れる貧乏学生だった俺に、川ちゃんや常連の仲間たちはよくジャックをご馳走してくれた。
そのお礼の意味も込めて、たまに大阪に帰りかくれあわびに足を運ぶ時は、必ずシャンパンを一本開けるようにしている。

開けるのはいつもポンパドール。
一番高いものには今でもさすがに手が出ないが、いつか必ずみんなにご馳走したい。

その日のゲストは、地元大阪と広島からのセレクター(”DJ”のレゲエならではの呼び方)が1組ずつ。
図らずも「阪神×広島」の組み合わせとなったがそこはレゲエらしくピースに。

選曲もいつもといい意味で変わらず、ふと実家に帰ったように安心してしまう内容のチープで温かなダンスホール・レゲエ。
それでも、40代に入った川ちゃんと、同年代のお客さんに合わせるように他ジャンルの懐かしの名曲も。
ひとしきり盛り上がるレゲエを流し終わった時間帯にかかったのはこんな曲だった。

阪神と広島の垣根も乗り越え、気分はまさに"LOVE & PEACE"。

たまにはこうして肩を並べて飲んで
ほんの少しだけ立ち止まってみたいよ
純情を絵に描いた様な さんざんむなしい夜も
笑って話せる今夜はいいね…
温泉でも行こうなんて いつも話している
落ちついたら仲間で行こうなんて でも
全然 暇にならずに時代が追いかけてくる
走ることから 逃げたくなってる
Wow- WowWar- WowWar tonight
Wow- WowWar- WowWar forever
Wow- WowWar- WowWar tonight
Wow- WowWar- WowWar forever

Hey Hey Hey 時には起こせよムーヴメント
がっかりさせない期待に応えて 素敵で楽しい
いつもの俺らを捨てるよ
自分で動き出さなきゃ 何も起こらない夜に
何かを叫んで自分を壊せ!

H Jungle with t 『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~』

あまりにも有名すぎて盲点になりがちな曲だが、久しぶりに会う仲間と一緒に聴くのにこんなにふさわしい曲はない。
「浜ちゃんが歌ったヒット曲」というなんとなくの記憶しかない曲だったが、俺よりも一回りほど年上のお客が多いTotally Retroで、彼らの青春を追体験できたような、そんな気持ちにさせてくれる選曲だった。

「曲と出会い直せる」
それもこういう店で音楽を聴くことの良さなのかもしれない。

さて、ショットとシャンパンが飛び交ったパーティ。
主役の川ちゃんは、二次会が始まる頃にはこんな調子に。

まるで宗教画のような構図で、ジャマイカ国旗に慈悲深く見守られながら逝ってしまったのでした(笑)

心斎橋の片隅で、それぞれのささやかな幸せが持ち寄られる場所。
かくれあわびはそんなところだ。
ムーブメントはそこで今でも続いている。


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