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「いつか」から「そろそろ」へ 〜親の移住と、家族の記録#02

「いつかできたらいいね」くらいの感じだった地方移住を実際に考え始めるようになった背景には、父の働き方の変化があった。

六十歳を過ぎてもまだ若々しく、元気に働いていたが、会社の事情で仕事量が少しずつ減ってきていた。必要とされるうちは働きたいと言っていた父だったが、同時にあと2〜3年で引退かなとも感じはじめていたという。「仕事を辞めた後のこと」が少しずつ身近になってきていた。

週五日が週四日になり、さらに週三日になり・・・と、父の出勤日はだんだんと減っていった。父が家に居る時間が増えれば、母にも影響が出る。夫婦の生活スタイルも変化する。母は平日も二人分の昼食を用意し、父はお風呂洗いの担当になった。父の運転で平日も買い物がしやすくなり、混んでいる週末にまとめ買いする必要がなくなった。人の家の庭を見ながらぶらぶら散歩する楽しみを見つけた父だったが、不審者と間違われそうになったことがあってからは、夫婦でウォーキングを始めた。(昼間の男性の一人歩きは、住宅街ではとても怪しまれるらしい。)家の中で思い思いに過ごしたり、たまにドライブへ出かけたりと、新しい生活スタイルをふたりともそれなりに楽しんでいるようだった。

私が幼い頃からずっと両親は仲が良く、基本的にはいつも一緒に行動していた。いつだったか母が、「お父さんと居られれば楽しいのよ」と言っていたのを覚えている。決して裕福な家ではなかったので苦労もあったはずだが、記憶の中の両親はいつも楽しそうに笑っていて、そんな環境を当たり前に育ったことを私は心から感謝している。
父の一番は母で、母の一番は父。そんなだから子離れもさっさと済ませてしまい、私やきょうだいが家を出て一人暮らしを始める時にも寂しそうな顔はまったく見せなかったし、おかげでこちらも、親を残して家を出る罪悪感や心配を感じずに済んだ。子どもにとって、「親の仲が良い」というのは、なによりもありがたいことだ。

夫婦ふたりならどこでも楽しく暮らせるだろうという安心感。そこに、「父の定年」という新しい変化が重なり、住むところの制約が無くなろうとしている。あれ? これはもしかして、移住を考えはじめてもいいタイミングなのでは? そう思って見てみると、家もだいぶ古くなり、このまま一生住み続けられるという感じではない。そもそも何十年も前に建てられたファミリー向けの住居なので、高齢の夫婦にやさしい造りになっていない。急な階段やあちこちの段差はバリアフリーとはほど遠いし、幼い私が選んだ子ども部屋の壁紙もそのままだ。移住するにしろ、しないにしろ、今後について何かを決める必要は必ず出てくる。こんな感じで私は少しずつ、親の老後を考えるようになっていた。

移住を考え始めるようになった背景
●父親の定年が近づいてきた
●自宅の老朽化
●夫婦ふたりで楽しく暮らせる安心感

「いつか」から「そろそろ」へ。次回は、移住について両親の考えを聞いた時の話です。

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