(書評)投資される経営 売買される経営 中神康議 日本経済新聞出版社


トピックス
・本との出会い
・本の構成・概要
・より詳細な内容

・本との出会い
投資される経営 売買される経営というタイトル、みさき投資という個性的な会社に興味があり、個人投資家としての活動いにいかせるのではと考え、書籍購入に至った。
しばらく間をおいて、NewsPicks マガジンVol2 の必読書特集で、楠木健氏が経営分野で推奨しており、改めて手にとって、書評を書くに至った。

・本の構成・概要
表紙タイトルにもさりげなく載っている「みさきの公理」 V =(B* P)M乗。これを軸に投資哲学を全編で説明。
構成は、まず投資家の生態を、グラフを使いながら分かりやすく分類しており、そこから長期投資の手法と、投資される経営の実例を個別企業を例に数社紹介している。最後に個別企業の例から言えるエッセンスをまとめた章立てになっている。
章ごとにまとめが最後に載っているので、時間がない読者にもエッセンスを学べるよう工夫されている。
また本書の見所の1つが、後書きを寄せた楠木健氏による解説が35ページと異例の長さであること。

・より詳細な内容
1章では、経営者は投資家のタイプを理解して対処すべきとあり、日本市場は短期・順張りの投資家が多いことが示されている。それは例えば他国株式市場との売買回転率から説明。
長期・逆張り投資家が少ない理由として、長期で預かる金主がおらず、安心して長期投資できる企業が少ないことを指摘。
本書のテーマである投資される経営を目指すための基礎的な説明がされている。

2章では、長期投資家の行動原理の1つ「企業の絶対価値」の考え方を順を追って説明している。
この絶対価値は、市場が荒れて右往左往する状況でも相当しっかりした拠り所になるという。ちなみに基本原理は下記。

・周りに背を向ける
 PER, PBRといった相対価値は気にしない。会計上の利益は気にしない。周りと違う投資行動を取る。
・自らの信念に従う。
 個別会社には当たらずとも遠からずの絶対価値がある。精密な算定プロセス経るが、根拠は障壁に置く。

企業の絶対価値の算出手順として、資産バリュー→収益バリュ→フランチャイズバリュー、超過利潤の有無が最初の一歩。
超過利潤が長期投資の最初の大きな分岐点という。そして成長バリューという絶対価値算定のもっとも困難な作業に進む。

3章では、持続的な企業価値増大に必要なV =(B* P)M乗とは何ぞやの解説。
まずBとはBusiness・事業を表し、障壁を気づいているか、競争優位性を確保しているかで評価する。
次にPはPeople・ヒトを表し、経営陣がHungry, Open, Public、組織運営はスムーズか、企業文化は健全かを評価する。
最後に乗数になっているMはManagement・経営を表し、事業戦略、ポートフォリオ管理、高収益へのこだわり、戦略的プライシングといった経営手腕や経営判断を評価する。
作者が最も重要と考える要素で、4章でその内容が実例と共に紹介されている。取り上げられた企業は下記7社。

・ピジョン ~骨太な成長戦略のインパクト
・アインファーマシーズ ~カイゼン手法のサービス産業への移植
・大塚商会 ~銀行業の業務・組織運営を販売事業へ適用する
・オムロン ~超過利潤に基づいて、事業ポートフォリオを組み替えていく
・ディスコ ~管理会計制度を使って、会社運営メカニズムそのものを変えてしまう
・エーザイ ~バランスシートマネジメントで業績落ち込みを乗り切る
・丸井グループ ~資本構成を能動的に考える
・3M ~アメリカ企業における優れたMの例

他にも興味深い紹介があり、一例を紹介する。
それが日本企業と米国企業の配当性向・総還元性向の分布の分析したもの。
2013~2015年のデータだが、米国企業は配当性向では配当ゼロの会社の比率が最も多いが、総還元性向になると100%を超える会社が最も多くなり、これは自社株買いを活用し、株主還元を行っているから。
一方、日本企業は配当性向が20%~30%に集中していて、総還元性向も少し高い方向にシフトするが、このゾーンに集中している。
ここから作者が長期投資家目線で言いたいのは、とりあえず他社と横並びで30%にしておこうというこだわりのない経営だと指摘する。


尚、今回の書評も活かし、11/4にNPマガジン読書会を開催します。

オフ会(先着5名限定) NewsPicks マガジン読書会@仙台
https://eventon.jp/14995/

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