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今こそ再評価されるべき傑作ディズニー映画 「トレジャー・プラネット」


 本稿では、ディズニー2Dアニメの隠れた傑作「トレジャー・プラネット」(2002年公開)の感想...という建前の布教をします。ネタバレは含まないのでご安心ください。


1、はじめに



 昨日の記事にも書いたように、最近「ディズニー+」を再契約した。
「マンダロリアン」二期完結以後は一時的に解約していたが、MCUドラマ二作品の完結や「ラーヤと竜の王国」「あの夏のルカ」等の大作が無料配信され始めたことが再契約の理由となる。


 スターウォーズファンやMCUファンといった実写洋画ファン層を取り込んだことで、このサービスの契約者は以前より増えているはずだ。よって実写洋画目当てにディズニー+へ登録した人たちが、過去の名作ディズニーアニメに触れる可能性が非常に高まっている(鑑賞の敷居が下がっている)といえる。
 しかし、近年のスターウォーズに関する製作のゴタつきやジェームズガン解雇未遂騒動等、ディズニー/ディズニー作品に対してアレルギーを持っている方も多いのではないだろうか。スターウォーズもMCUもディズニー映画も平等に好きな俺は非常に心苦しい。会社は会社、作品は作品。先入観が邪魔をして優れた作品が観られないのであれば、こんなに悲しいことはない。
 こんな今だからこそ、俺は大好きな「トレジャー・プラネット」の紹介と布教をしたい。



2、「トレジャー・プラネット」とは


 「トレジャー・プラネット」は、児童文学『宝島』をスペースオペラ調に翻案したアドベンチャー映画である。プリンセス・ミュージカル要素は一切無い。
 監督はロンクレメンツ×ジョンマスカー。「リトルマーメイド」「アラジン」「プリンセスと魔法のキス」などを手掛けた、作品打率の高い仲良し同級生監督コンビだ。主演はジョセフ・ゴードン=レヴィット。洋画ファンには「(500)日のサマー」「インセプション」などで有名だろう。
 余談だがこの監督コンビに関しては、ライムスターの宇多丸氏がラジオ番組内の「プリンセスと魔法のキス」評論で語っていたエピソードが非常に興味深く面白い。以下に抜粋して引用する。

ディズニー暗黒期を生み出した「マイケルアイズナー体制」の影響による経営方針の転換(2Dアニメ軽視)により、「トレジャー・プラネット」公開後に二人はディズニーを解雇されてしまった。しかしアイズナー体制崩壊後、ディズニー・ピクサー両社の最高責任者となったジョン・ラセターは二人を即座に呼び戻し、アニメ製作の技量が落ちた社員達の再教育を請うたというのである。

 憎きリーダーが退陣したとはいえ、かつて自分達のクビを切った会社へ教育役として戻るとはなんと懐が深いのだろう。この件についてはデイヴィッド・A・プライス著『ピクサー 早すぎた天才たちの大逆転劇』にも詳述されている。ピクサー関係者であるスティーブ・ジョブズの傍若無人エピソードも載っている非常に面白い本なので、ディズニーファンならずとも洋画ファンには是非読んでもらいたい。


 閑話休題。
 映画好きになってロン×ジョンコンビを認識するまで、俺は本作の存在を一切知らなかった。ディズニーランドのアトラクションも存在しないし、地上波放映を観た記憶もない。有名なマスコットキャラやテーマ曲もなく、ディズニーRPG「キングダムハーツ」にも未登場。少なくとも日本においては「マイナー作品」と言って差し支えないだろう。
 また、こちらの情報によると、1億4000万ドルの制作費に対して興行収入は約1億ドル…と大コケしている。後述するように本作は非常に面白い。なのにこの興行成績はあまりに悲惨だ。現在はサブスクで観れるのだから、これから「隠れた傑作」として評価されてほしい。そう思って筆をとった次第である。


3、映像表現の魅力



 さて、これより本作の大きな魅力である、映像表現主人公×ヴィランの関係性描写(特にヴィランの描き方)の二点を語ることにしたい。


 まず映像表現について。
 本作は2Dアニメと3DCGの融合具合が非常に魅力的だ。CGモデリング自体は時代を感じさせる程々のクオリティだが、2Dキャラと3D空間を合わせたからこそ生まれる独特のカメラワークは今見ても新鮮。ディズニー映画における3D空間+2Dキャラ描写は「美女と野獣」のダンスや「ターザン」のジャングル滑走が有名と思われるが、それらを凌駕する描写が数多く観られる。特に要所要所のチェイスシーンの滑らかさ、爽快感溢れる主人公の空中サーフィンは必見。(後者は「交響詩篇エウレカセブン」を彷彿とさせる。)ディズニーが2D長編映画の制作から撤退した今日、この路線の新作を望めないことをとても残念に思う。
 3DCG単体の使い方も非常に上手く、特にSF描写・非現実的な巨大感表現に効果的に活かしている。白眉は冒頭、主人公が宇宙へと旅立つ直前のシーン。ちらちらと空に映る月。その月にじわじわ寄るカメラ。するとそこには予想だにしなかったとんでもないモノが…。俺はこの場面で一気に心を掴まれた。ここまで見事な巨大感演出は、過去に観た何百本ものSF映画でもそうそうお目にかかれなかった。この感覚こそまさに「センスオブワンダー!」と言えよう。


4、人物描写の魅力



次に、主人公×ヴィランの関係性描写について。
 大前提として、本作のストーリーは「宝の地図に書かれた行き先へ向かう」と超シンプル。主要な登場人物も最小限。舞台となる星は故郷と目的地の二箇所のみ。単純すぎて中身が無い…と言うには早計だ。
 本作のストーリーを語ることは、ヴィラン:サイボーグ海賊のシルバーについて語るのと同義である。シルバーは主人公:ジムが持つ宝の地図を奪取しようと、正体を隠しつつ甘言をもって彼に接する。しかし肝心な場面で非情になれず、彼に愛情を抱いていることを部下に看破されてしまう。
 一方ジムは当初彼を疎んじていたものの、いつしか宇宙航海の師匠として信用し、かつて宇宙へ旅立ち帰らぬ人となった父と重ね合わせてしまう。だが、やがて彼が悪人であることを知ってしまい…。
 ジムはシルバーと交流することで技能的成長を遂げ、正体を知ったことで葛藤する。シルバーは愛と財欲・善と悪との間で苦悩する。この二人の人物描写と関係性の変化が、本作のストーリー上最大の魅力であり見所となる。
 シルバーの“善の心に苛まれ、本音と建前の間で苦しむ悪人”という人物造形は、単なるカキワリ的な極悪人よりも内面が重層的で生々しい。“光堕ち”するのかしないのか、悪人として報いを受けるのか?といったドラマ的な楽しみも生まれる。そんな彼がクライマックスで行う選択とは…。本稿では書かないので、ぜひ皆様の目でお確かめ頂きたい。


5、惜しい部分



 このように良質な内容にも関わらずコケたのには、当然それなりの理由があるはずだ。傍流のピクサーに対しディズニー本流の人気が失墜していた社会状況も原因だろうが、個人的に最大の要因と思っているのは宇宙人の描写。異形のクリーチャー系ばかり登場するのはスペースオペラとして当然かもしれないが、どれもあまりデザインが洗練されていない(ならず者キャラが多い影響で、清潔感がないクリーチャーばかり登場する)。
 ディズニー作品である以上はマーチャンダイジングを考慮する必要があるだろう。それならば「スターウォーズ」のイウォーク族等に相当する媚び気味のキャラを投入するべきだった。一応変身能力を持つエイリアンのモーフ・ハイテンションなロボットのベン(吹き替えは当然のように山寺宏一)といったマスコット役は登場するが、どうにも物足りない。


6、最後に



 感想は以上となる。
 ディズニーといえば動物擬人化モノかプリンセスストーリー!と思う方にとっては(無論それも間違いじゃない)、本作は一見地味で華のない作品と感じられるだろう。MCUやスターウォーズ目当てでディズニー+に入られた方にとっては、商業主義の塊のような作品、否“商品”だと思われてしまうかもしれない。
 そのどちらの方(特に後者)であっても、本作を未見の方は是非とも一度ご覧になって頂きたい。老若男女問わず、新鮮な映像と壮大なスケールのSF描写、そして悪人のオッサンと純粋な青年が織り成す漢のドラマに胸を踊らされるはずだ。


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