右も左も

28歳 男 東京在住 美大卒業後、小売業に就職。 店舗勤務を経て、現在経理財務部に所属…

右も左も

28歳 男 東京在住 美大卒業後、小売業に就職。 店舗勤務を経て、現在経理財務部に所属。 主に仕事の悩みをエッセイに昇華しています。 オードリーのANN 村上春樹 Mr.Children が好きです。

最近の記事

中目黒の鳩

中目黒で信号待ちをしていると、6車線道路の真ん中に鳩が止まった。 鳩は車が来ると、反対車線に飛んで逃げて、 また違う車が来ると、また反対の車線に戻って逃げた。 鳩は歩行者道に逃げることなく、車線道路を逃げ回り続けた。 僕はそれをもどかしい気持ちで見ていた。 すぐそこに安全な場所があるのに、何故気が付かないのだろうか。と その哀れな鳩を見ていると、僕は自分とその鳩を重ねている事に気がついた。 僕も車通りの多い道路の上で、右往左往している、哀れな鳩なのかもしれないと思った。

    • あんな女

      金持ちばかりが通う、有名私立幼稚園に通っていた。園児の親は芸能人や有名企業の社長、役員が多かった。 幼稚園児の僕は、その事を理解していなかった。自分の世界は標準的なものであり、世界は平らで太陽が地球の周辺を公転していた。 ある日、父親が課長になったと教えてくれた。 幼稚園の僕はとっても誇らしい気持ちになった。 「自分の父親はとっても凄いんだ」と思った。 帰り道、同級生に父が課長になった事を自慢した。 僕らは園児数人で思い思いの事を話し、母親達は彼女たちのコミュニケーショ

      • 君と夏フェス なんて行けない。

        僕の恋人は、下らないガールズバンドが大好きだ。 そのガールズバンドの歌詞に共感し、感動する。 彼女のみずみずしいツるりとした肌の下に、そんな貧相な感受性があると思うと、萎えてしまう。 君も、僕の好きなものに反吐が出るのだろうか。 そうであれば良いなと思う。

        • 遠い未来に向かって

          美しい恋人がいます。 しかし、僕らの愛は冷えてしまっています。 今は長い旅の後の、荷解きの様な期間です。 手は繋ぎます。キスをします。セックスをします。 しかし喘ぎ声は、空っぽの心に虚しく反響します。 僕も彼女もそれに気がつきます。 僕らはより激しく抱き合います。 彼女は、湾曲させた表現で僕を責め立てます。 月の周回軌道を利用して、太陽に進む宇宙船の様な回り道をします。 なので僕は、その言葉の意味にすぐには気がつけません。 帰り道。その真意に、はたと気がつきます。 僕は

        中目黒の鳩

          ハッピーエンド

          転職活動。 私は有能です。御社は最高です。 と、原稿通りにのたまう。 いくつかの企業は、僕の事を将来有望な人材として評価してくれる。 僕は心がグッと重くなる。まるで誰かが僕の心にもたれかかってるんじゃないかと思う。 未来には、いくつもの失態と失望が両手を広げて待っている。 僕はいくら気をつけても、それらを避ける事は出来ない。必要のない失敗までしてしまう。 面接官(未来の上司)を憎む様になる。 同様に面接官も僕を恨む様になる。 僕は自分に失望する。 会社を何回かサボる。

          ハッピーエンド

          頼むから、やめてくれ。

          僕が殴ってやったアイツは数が知れない。 学生時代の同級生。 上司、同僚。 時には、恋人や両親。 そのイメージが脳に強烈に浮かぶ時には、頭の前方がポーっと発光する様に、熱を発しているのが分かる。 脳科学者は「それはアドレナリンを優位にして、大きなストレスに抗おうとしています。」と訳知り顔で答えるだろう。 エビデンスやら社会的地位で、僕を殴るのはやめてくれ。 「あぁ死にて」 と呟き。心の毒を吐き出す。 言霊とかスピリチュアルで、僕に後ろ指指すのはやめてくれ。 スピリチュアル

          頼むから、やめてくれ。

          眠れない

          僕は不安な事があると、すぐに眠れなくなってしまう。 僕は三鷹の部屋で一生懸命目を閉じるのだけど、どうにも眠れない。 眠れないなぁと思っていると部屋の中の薄い光が気になってくる。 WIFIのルーターがピコピコと一定のリズムで光っている。 スマホの充電アダプタが微かに光っている。 僕はソロソロと布団から抜け出して、押し入れからマスキングテープを引っ張りだしてくる。そして点滅する電化製品にマスキングテープを貼っていく。光が漏れない様に、三重くらに重ねて貼る。 電気を消して、部

          走る。

          走っている。いくらスピードを上げても息が切れない、苦しくならない。 僕はどんどんとスピードを上げる。 街行く人が僕に注目する。街を爆走する僕を、物珍しそうに見ている。 ブツブツと念仏を唱える青年が目に入る。彼だけが僕に注目しない。 彼を追い越す際、僕はまじまじと彼を見つめる。硬そうな髪は短く揃えられていて、ところどころ十円ハゲができているのが目立つ。身体は痩せこけていて、過度に肩に力が入っている様に見える。 彼は瞬間的に振り返り、僕を怯えた目で見つめてくる。 僕もどちらか

          大谷翔平に嫉妬して、不機嫌なオバさんを嘲笑う。

          大谷翔平の成功を見ると、自分の立場や人生に焦燥感を覚える。 彼のような天才が順調に進む中で、自分はいつまで経っても同じ場所に立ち尽くしているように感じる。 その焦燥感と同時に、自分がどれほど未熟であるかと自覚してしまう。 それにテレビや家族、社会からの大谷翔平への称賛の声を耳にするたびに、自分の地味な存在を思い知らされる。 大谷はヒーローのように持ち上げられているのに対し、自分はただの普通の人間だという実感が湧いてくる。 このような状況に直面すると、ますます焦燥感が増し、自

          大谷翔平に嫉妬して、不機嫌なオバさんを嘲笑う。

          抑うつ状態で休職になった話

          2週間前、ストレス性の体調不良で人生初の心療内科に行った。 症状は去年の8月くらいから不調は始まっていたが、自分が精神的な病という事実を認めたくなくて受診する事を先延ばしにしていた。 しかし心療内科に行ってみると、自分の心がとっくに折れてしまっている事を実感した。 自分の状態を認めた事で緊張の糸が解け、心身共に状態が悪化した。とても仕事が出来る状態ではなくなってしまい、休職する事となった。 休職を会社に申請すると、手続きかなり面倒であった。上司との面談、会社の担当医との面

          抑うつ状態で休職になった話

          タイパの恋 【動画の早送・倍速再生に感じる事】

          出張で新幹線で大阪に行った。 人生初めての出張で新幹線の中でもソワソワが止まらず、風景を見たり車内を見渡したりしていた。 斜め前には30代くらいのスーツ姿の男性が1人で座っていた。雰囲気や持ち物から、どうやら彼も出張らしいという事が感じ取れた。 僕とは対比的に彼は小慣れた様子で、座席のテーブルにiPadを立てて動画を観ていた。 僕も彼も通路側の席であったから、彼が観ている動画の内容をしっかりと観る事が出来た。 しばらく動画を眺めているとそれは竹内涼真さんと平手友梨奈さんが出演

          タイパの恋 【動画の早送・倍速再生に感じる事】

          心療内科に行った話

          人生で初めて、心療内科に行った。 寝れない。ストレスが溜まると微熱が出るというのが理由だ。 この症状は今に始まった訳では無くて、高校生くらいから続いている。しかし去年になって症状が頻発し、仕事に支障が出始めたので心療内科に行ってみる事にした。 まず驚いた事は、僕の最寄りの駅(西東京の小さな駅)に3〜5つの心療内科がある事だ。 更にどの心療内科も直近1週間のweb予約はすでに埋まっていた。ダメ元で電話をかけたところ、症状を心配した看護師?カウンセラー?の方が予約を入れてくれた

          心療内科に行った話

          社会に染まる インターンシップで感じた事。

          僕の勤めている会社では毎年インターンシップを開催している。そのインターンシップの中で「先輩社員の仕事紹介」というコマがあり、僕はその講義に登壇した。 自身が今の会社に入った経緯や社会人としての略歴、今の仕事内容を紹介する。 会社への不満は多い。日本経済やら、業界の推移を見るとウチの会社に将来性は感じられない。新卒で入社した同期の半分以上は精神的なキツさを理由に退社している。 それらの事実はオブラートに包んで飲み込んで、僕は理想的な先輩社員として、にこやかに虚像の希望を示した

          社会に染まる インターンシップで感じた事。

          辛いし、しんどいし、惨めで、苦しい。恥ずかしい。凄く嫌だ。 そして情熱もない。

          「とにかく恥ずかしい。惨めだと思う。辛い。 辛いし、しんどいし、惨めで、苦しい。恥ずかしい。凄く嫌だ。」 今年2023年に日本テレビで放映されたテレビドラマ「だが、情熱はある」でとても印象に残ったセリフだ。 主人公の若林正恭役の高橋海人は20代後半の売れない芸人で、同世代の一般的な社会人と自身の状況を比較して吐露したセリフである。 僕は現在、28歳。大学を卒業して一般的なサラリーマンになった。この本作の主人公の様に、社会の潮流から大きく外れることはしていない。 しかし「惨め

          辛いし、しんどいし、惨めで、苦しい。恥ずかしい。凄く嫌だ。 そして情熱もない。

          地獄でなぜ悪い

          祖父が死んだ。92歳だった。 祖父は岐阜に住んでいて、僕が祖父の家に着いた頃には死化粧をして白い棺桶に入っていた。 その顔は酷く痩せこけていた。その棺桶の中の老人が、僕の記憶にある元気な祖父を同一人物だと認識出来なかった。 僕はcsvファイルを連想した。 何度もアップロードしてもエラーを返してくるcsvファイルだ。正しいはずなのに僕のcpuはその処理を受け付けてくれなかった。 葬式では老婆僧侶の奇妙なリズムの経を唱えていた。僕はそれをBGMに元気な頃の祖父の写真を眺めてい

          地獄でなぜ悪い

          10年越しの葬式 2人の祖父の死

          高校生の時、母方の祖父が亡くなった。 葬式はセンター試験の前日で、冬の日だった。祖父の事は好きだったし思い入れもあっけれれど、その頃は自分の事に興味がありすぎて、いまいち悲しむ事ができなかった。 自分の将来や同級生の女の子の事で頭がいっぱいだった。それで祖父の死を直視出来ないというのは、いささか薄情過ぎると感じる。 その悲しめなかった経験が、僕の心を逆説的に傷つけ、それは暗雲の様に心に漂い続けた。 今28歳になって、父方の祖父も死に近づいている。 母方の祖父の死からちょうど

          10年越しの葬式 2人の祖父の死