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あんな女

金持ちばかりが通う、有名私立幼稚園に通っていた。園児の親は芸能人や有名企業の社長、役員が多かった。

幼稚園児の僕は、その事を理解していなかった。自分の世界は標準的なものであり、世界は平らで太陽が地球の周辺を公転していた。

ある日、父親が課長になったと教えてくれた。
幼稚園の僕はとっても誇らしい気持ちになった。
「自分の父親はとっても凄いんだ」と思った。

帰り道、同級生に父が課長になった事を自慢した。
僕らは園児数人で思い思いの事を話し、母親達は彼女たちのコミュニケーションを取っていた。

家に帰ると、母親に叱られた。
「みんなのお父さんは社長さんなの。課長になったなんて恥ずかしい事言わないの!」
と言われた。

僕は課長と社長のどちらがわからなかったけど、とても悪い事をしたのだと思った。


物心がついて
「父はなんであんな「女」と結婚したのだろう」
と考え続けた。
答えは出ない。僕の心が卑屈過ぎるのだろうか。
あの日の母の瞳孔の閉じた眼を、今でも思い出す。

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