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みきちゃん

私も派手な方ではなかったが、私以上におとなしい友達がいた。中学校のころだ。

目がぱっちりと可愛いけれど田舎くさくて、ふんわりとした笑顔を絶やさないいい子だった。

同じ部活ではなかったし関わりは少なかったけれど、数学の上級クラスの女子が私と彼女だけで、自然とお喋りすることも増えた。彼女はずば抜けて頭がよくて、学年で唯一英検2級を持っていた。

話していくうちに彼女がどんな女の子かわかっていった。

・すみっコぐらしが好きなこと
・家にテトリスがあること
・ちょっとオタクなこと
・祖父母は米農家を営んでいること
・同じ高校をめざしていること

お互いに部活の友達はいたけれど、気兼ねなく勉強の話ができる唯一の関係だった。放課後に問題を出し合ったりもした。高校に行ったらもっと仲良くなれるのかな、とわくわくした。

ときどき私がテストでいい点をとると、目を輝かせて「すごい!」と褒めてくれた。みきちゃんのほうがすごいよ、と私が言うところまでがお決まりだった。

同じ高校にいこうね、と何度も言い合った。



ある日、みきちゃんを放課後の勉強に誘うと、「彼氏ができたんだ」と断られた。

確かに可愛いけど、こんなにおとなしいのに中学校で彼氏ができるのかと、少し悔しかった。


問い詰めると、同じ部活の後輩だという。みきちゃんが告白したらしい。

あぁ、あの引っ込み思案な男の子か。彼女はとても嬉しそうだったし、みきちゃんが幸せならいいかと言い聞かせた。きっとやさしい人なんだろう。


みきちゃんの噂はすぐに広まった。友達が「滝川さんだ。地味カップルじゃね?」って言ってるのに、ソンナコトイッチャダメダヨと口先だけで言った。


それからみきちゃんが彼氏と二人で歩いているところは見ても、一緒に勉強することは一度もなかった。いつも楽しそうだったから、邪魔はできない。問題の解き方をたまに確認し合うくらいで、それまでのようにお互いについて話すこともなくなった。





そのまま合格発表の日を迎えた。おめでとうとか言い合って、掲示板の前で一緒に写真でも撮ろうかな、なんて考えていた。


なのに、高校で彼女を見ることは一度もなかった。


彼女の成績で不合格とは考えられない。彼氏と同じ高校に行くために志望校のレベルを下げたとしたら、一言でも言ってくれればいいのに、なんて。


でも幸せならなんでもいいか、と投げやりに思った。








成人式の日に、久しぶりにみきちゃんに会った。何事もなかったかのように久しぶりなんて言って、近況だけを報告し合った。今は地元の看護の短大に通っているらしい。来年から看護師になるという。私が東京の国公立大学に通っていると言うと、また目を輝かせて賞賛してくれた。やっぱりすごいよ、立派だね、と。

みきちゃんの方が立派だよ。

いつも周りに流されずに、自分のしたい選択を考えてできるんだから、私の何十倍も。

なんで一言言ってくれなかったの? って問い質してもよかったんだけど。

なんだかそれもちっぽけに思えてきた。

みきちゃんはきっとこれからもずっと幸せなんだからもうどうでもいいや、と思う。

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