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おとうさんにはじめて感謝を伝えた日。

父親にありがとうって言うのは、なんだか照れくさいのです。 私の実家は最寄り駅が遠くて、高校に通うのに毎日車で駅まで送ってもらっていました。 仲が悪いわけではないけれど、車中はいつも無言でした。朝も早かったので寝たふりをしていました。 なんとなく、学校に通うのすら当然のように父親に手伝ってもらっているというのが、恥ずかしかったのだと思います。 親から自立したいのに、ひとりでは生きていけないことが分かっていて、そのジレンマにちょっとイライラしていた時期でした。 車から降

    • #方言note ほっこりラジオ

      ラジオネーム 富山県民さんからお便りがとどいております。「こんばんは」はいこんばんは~「いつも楽しく聞いとります」ありがとうございます。「富山弁について紹介したい言葉があります」ほうほう。 ...... 「なーん」ちゅう言葉があるがです。 何を言うとるがかいうたら、相手が言うとることを否定する「ちがう」「No」いう意味があるがですね。 「あんた、逆上がりできる?」 「なーん、できんわ」 こんな感じで使います。 この方言のおもしろいがは、言いかた次第で強い否定

      • おばさん

        数年前から、祖母が私の実家に住むようになった。 祖母は66歳の頃に夫を亡くし、それ以来は母の姉(私の叔母)と二人で暮らしてきたが、その生活も平穏ではなかったからだ。 母方の家族は氷上のようにいつも冷たく、幾度か衝突を起こして互いの心はばりばりと割れた。割れた心たちはあたたかい愛で溶けることもなく、またぶつかり合うまで冷たいままだった。 全部、叔母のせいなのだ。 叔母は中学生時代からいわゆる「スケ番」で、近所では有名だったらしい。長いスカートをずるずると引き

        • さかいくん

          小学校のクラスが同じだった子だ。 友だちと普通に話すことが苦手で、少し嫌なことがあるとすぐに怒る。 そうかと思うと、パソコンの印字かと見紛うほど美しい文字を何十分もかけて書く、不思議な子だった。 彼はよく“キレた”。 クラスのやんちゃな男の子に「うるせぇよ」とか、黒板消しを持った日直の子に「早くノートとって」と言われる度に、ノートや筆箱を地面に叩きつけて、教室を飛び出した。 なぜか私だけ彼と小学校6年間、クラスと校外学習の班が同じだったのは、私だけが怒って

        おとうさんにはじめて感謝を伝えた日。

          みきちゃん

          私も派手な方ではなかったが、私以上におとなしい友達がいた。中学校のころだ。 目がぱっちりと可愛いけれど田舎くさくて、ふんわりとした笑顔を絶やさないいい子だった。 同じ部活ではなかったし関わりは少なかったけれど、数学の上級クラスの女子が私と彼女だけで、自然とお喋りすることも増えた。彼女はずば抜けて頭がよくて、学年で唯一英検2級を持っていた。 話していくうちに彼女がどんな女の子かわかっていった。 ・すみっコぐらしが好きなこと ・家にテトリスがあること ・ちょっとオタクなこ

          みきちゃん

          わたる

          大学のサークルの同期だ。 カラオケやボウリングが上手くて顔も整っている人気者なのに、誰に対しても明るく分け隔てなく優しい。こんな人がいるのかと感心した。 彼はコミュニケーションが上手い。 4人兄弟の3番目で兄弟喧嘩の仲裁をしてきただとか、バラエティ番組やYouTubeのエンタメ動画を見まくって、数人の仲を取り持つのはプロなのだと言っていた。 自分が言いたいことを発信するよりも、その場の雰囲気を良くすることが自分の役目なのだと。 そういうことを嫌味なく言えるところも私は

          わたる

          りりかちゃん

          私には、憧れの女の子がいた。 私が出会った中でも一番キレイな女の子だ。 彼女との出会いは、小学校の入学式だ。 少し緊張しながら自分の名前が書いてある席に座ると、隣の女の子が「はじめまして」と微笑んでくれた。それがりりかちゃんだ。 年中まで場面緘黙症のようなものを患っていたシャイな私にとって、彼女は天使のように見えた。 彼女は私が出会った中で一番と言えるほど美人だった。(しばらく会ってないが今もきっと美人だ。) バレエを習っていると聞いて心から納得した。透き通った色白の

          りりかちゃん

          じいちゃん

          母方の祖父が亡くなったのは、私が小学1年生のときだった。 入院したばかりの頃は欲しいものを聞かれて、答えた通りのおもちゃがもらえた。次からはそれがフルーツやお菓子になって、最後には五千円札になった。そのときには祖父はまともに会話すらできなくなっていた。子供に現金はやめてよ、と母は呆れて突き返したが、祖父には何も聞こえてないようで、その目は母を見ていなかった。母は、なにかを悟ってあきらめたように見えた。  点滴中の祖父をエレベーターのドアに挟んでしまったことがあった。

          じいちゃん

          しょうちゃん

          図体がやたらでかいくせに気が小さい。そいつは私が年長のときに引っ越してきた。 二つ年下のしょうたくんだから、「しょうちゃん」と呼んでいた。 第一次性徴の時期であったにも関わらず、彼が私より小さいという瞬間は一度もなかった。 小学校の頃、どうみてもランドセルや黄色の安全帽は浮いていたし、図体のデカさだけで少年野球チームにスカウトされるほどだった。 彼の母親は喜んで、しょうちゃんを野球チームに入れた。 決して活発な少年ではなく、ゲームやプラレールが好きだった。 彼は品

          しょうちゃん