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りりかちゃん
私には、憧れの女の子がいた。
私が出会った中でも一番キレイな女の子だ。
彼女との出会いは、小学校の入学式だ。
少し緊張しながら自分の名前が書いてある席に座ると、隣の女の子が「はじめまして」と微笑んでくれた。それがりりかちゃんだ。
年中まで場面緘黙症のようなものを患っていたシャイな私にとって、彼女は天使のように見えた。
彼女は私が出会った中で一番と言えるほど美人だった。(しばらく会ってないが今もきっと美人だ。)
バレエを習っていると聞いて心から納得した。透き通った色白の肌、細くしなやかな手足、小さな顔、艶やかな漆黒の髪、全てが他のクラスメイトに秀でていた。
小学校では足の速さがステータスを決めるところもあったが、りりかちゃんは走るのも速かった。
マラソン大会では1位だったし、リレーでも大活躍だった。
発言力もあって頭も良かったから、学級委員もりりかちゃんになった。
ピアノも、書道も、絵もノートの取り方も、全部一番だった。
でもりりかちゃんには、友達が少なかった。
いや、“本当の” 友達というべきかもしれない。
流行りのペンケースや可愛い髪型をして登校してくる子たちと同じグループにはいたし、休み時間は彼女たちとプロフィールカードを回していたところも見た。
どこか気を使っているように見えたのは、気のせいではなかったみたいだ。
私のところに戻ってきて「キャラ消しとかダサいのよね」と言って、小指にだけ塗ったネイルを自慢してきた。
つまらないなら一緒にいなければいいのに、と当時は思っていたが、彼女なりに精一杯ステータスを守っていたのだと思った。
先にも言ったように彼女は発言力があったが、違うように言えば負けず嫌いで攻撃的だった。
それも、私のような弱い人間ではなく、りりかちゃんと仲良くしていた、ステータスの高い子たちに対して、だ。
たまに我慢できなくなったのか、口論をしているところも見た。
ある日、りりかちゃんはいつものグループからハブられた。しばらくひとりで行動していたが、ある日私のところに転がり込んできた。
「小梢は優しいもんね」「小梢は歌が上手だね」
りりかちゃんのようなすごい子から褒められて、いつも一緒に教室を移動してくれるようになって、私は誇らしかった。
小学校4年生のとき、彼女はマラソン大会で1位の座を奪われた。2位なのに表彰式で号泣していて、26位の私は体育座りをして拍手していた。何が悲しいのかわからなかったけれど、彼女が泣いていたので悲しくなった。
なぜか、そのあたりから、私より少しオシャレで運動のできる女の子のグループにりりかちゃんは移っていった。少し居心地は悪そうだけれど、彼女に友達が増えてよかったなと思った。ほんの短い間だけれど、りりかちゃんと仲良くなれて幸せだったなとも。
同じ中学校に入学してからは、彼女とはほとんど喋らなくなった。勉強だけはできた私が学年1位をとると「ほんとすごいね」とたまに言ってきたくらいだ。いつも派手なグループのはしっこにいて、長かった髪もバッサリと切ってしまった。部活もサボって、スカート丈も校則より短くしていた。
偶然同じ高校と国立大学を受験したみたいだが、どちらも私だけ合格した。東京の私立大学で、ビキニで海に行ったり、濃いメイクで街中を闊歩しているらしい。どうやらインスタのフォロワーが多いとか。きっとミスコンに応募できる美貌だけれど、鼻で笑いながら、心のなかで自分と比べてるんじゃないかな、と思う。負けず嫌いだから。
今もう一度会っても、あの入学式のときのように笑いかけてくれることはないと思う。
それでもいいかな。
なんだかんだ、どの瞬間のりりかちゃんも愛おしい。
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