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記事拡散の「抵抗感」を「喜び」に変える技術。カギは仕事と人間関係の一貫性

 「記事の拡散にご協力ください」「シェアお願いします!」――こんな風に自分の手掛けた記事を拡散することに抵抗を感じる編集者やライターは多いのではないだろうか? あるいは、編集者やライターはどこかで、「拡散は自分の仕事じゃない」という思いを抱いているのかもしれない。

 しかし、企業のオウンドメディアやブログなど、ニッチなメディアで情報を発信する機会が増え、個人のソーシャルパワーが問われる現在、編集者やライターにも記事の拡散は確実に求められている。それによって会社のパフォーマンスを高めたり、採用力を高めたりすることまで担うようにもなってきている。

 それでは、どうやって記事を拡散するのが効果的か? しかも、その行為を楽しくするには・・・? 僕はこれを突き詰める中で、「拡散の喜び」が「個人の生き方」に通じることに気がついた。

コンテンツの力だけに頼る「まぐろの一本釣り」

 一本の記事を書きあげる。それをインターネットという大海原に投げ入れる。どれだけの反響が巻き起こるのか・・・ ドキドキ、ヒヤヒヤしながら結果を待つ。それは深夜の遠洋で繰り広げられる「まぐろの一本釣り」に似たような感覚だ。

 そして、イチかバチかの行為の末、編集者やライターが突き付けられるのは、結果だけ。何万回もシェアされたり、ランキングに載ったりすることもあれば、「こんな記事、公開したっけ?」というぐらい反響のない時もある。

 また、力を込めても全然読まれないこともあれば、さほど労力をかけずともPV(ページビュー)が非常に多いこともある。「まぐろの一本釣り」はいつも、蓋を開けてみなければ分からないという状況なのだ。

 もちろん僕らはプロだから、「打率」を高めるような努力はする。しかし、その努力は往々にしてコンテンツの企画や伝え方を磨くことに向かい、「拡散」そのものには向かわないことが多い。どちらかと言うと、「拡散」という行為に対するイメージは悪く、どうしても抵抗感を感じてしまう編集者やライターが多いのが現状だろう。

 その要因はきっと、拡散を呼びかけることがどこかで「本物じゃない」という思いがあるからではないだろうか?「いいものは拡散すると信じたい」「本物は生き残る」といった思いと、自分たちは「本物」であり続けたいというプライドから、僕らはどうしても記事の企画や書く力だけで勝負しようとする傾向がある。自分たちを「本物」と自負しているからこそ生まれる抵抗感だと思えば、ある意味、前向きな事象とも言える。

 しかし、情報発信の手段が大きく変わってきている現在、企画と書き方だけで打率を高める方法に限界があることに、編集者やライターはそろそろ気づかなければならない。「本物」の定義は確実に変わってきている。記事を拡散させ、社会に働きかけ、実際に人に行動を促すところまでできて、はじめて「本物」と言えるようになってきているのだ。「拡散」に対するマインドセットを変え、行動を改めなければならない。

拡散のテクニック:記事に関係する人はすべて巻き込む

 それでは、具体的にどのように記事を拡散すればいいか? 自分と同じくオウンドメディアを運営する編集者、水玉綾さん(@maya_mip)からヒントをもらい、それを自分なりに咀嚼し、自らの経験も交えて、「効果的な拡散のテクニック」を言語化してみた。

1. 読者だけでなく運営会社の社員に共感してもらえるかで企画可否を判断し、制作する
2. その記事の出演者に、記事公開前に拡散(数回)を依頼し、拡散の仕方を伝える
3. その出演者に思い入れのある人、社内で拡散力のある人に、記事公開前に拡散を依頼する
4. その記事のテーマに思い入れのある人に、記事公開前に拡散を依頼する。社外でも、例えば関連する業界団体の人など、巻き込める人がいればお願いする
5. どんな記事であっても、経営陣&チームリーダー陣には、記事公開前に拡散の依頼と拡散の仕方を伝える
6. Facebookについては、その記事の出演者あるいは社内で拡散力のある人の投稿をシェアしてもらうようにする
7. 2〜6の拡散タイミングはあえて日毎、時間帯毎に分散させ、何度も火つけできるようにする
8. 1〜7を繰り返すうちに分かってくる、社員のソーシャルパワー(関連の強いテーマ・拡散力・インフルエンサーとのつながり)を可視化する。頭の中で整理するのでもいいし、エクセルシートにまとめてもいい
9. 8のソーシャルパワーマップを、1以降の工程で再利用。すると、次に誰に出演してもらうか、誰を拡散に巻き込むかが見えてくる
10. メルマガやコーポレートサイトなど他の自社媒体、広告も活用する
11. 1~10の結果を分析することで、拡散の仕方、タイミング(何曜日の何時)、巻き込む人の組み合わせを考える

 以上のことを、記事を配信する1週間ぐらい前からやる。忙しい人にシェアしてもらうためには、拡散するための文面を作ってもいいと思う。記事に関係のある人をすべて「拡散」に巻き込んで、企画・内容の力をレバレッジする――これはもはや編集者・ライターの仕事なのである。

記事の「拡散」を楽しむには?

 上記のテクニックを使うことで、必要な情報を必要な市場に、効果的に拡散することが可能になると思うが、それでもどこかに「拡散」への抵抗感が残ることは否めない。

 しかし、よく考えてみると、「拡散が楽しい瞬間」というのもあるはずだ。僕の場合、少なくとも今年に入って2回はそんな瞬間を思い出せる。そうやって楽しめた経験が2回あるのなら、拡散を楽しむ可能性はもっとあるのではないだろうか?

 僕が振り返って楽しかった拡散は、最近手掛けたスポーツ科学に関する記事だった。この記事は、「スポーツ科学のプロの人材価値が高まっている」という内容で、僕はとっさに以前取材したことのある、日本のスポーツ科学人材を増やすための啓蒙活動をしている公益社団法人の人を思い出した。この記事は彼らの課題意識と近いし、きっと役立ててもらえると思い、嬉々として記事をシェアしたのだ。

 職場における植物の存在に関する記事を手掛けた時も、似たような高揚感を味わった。「視界に緑が入っていると、集中力の持続性が高まる」「アマゾンが緑の多いテーマパークのような新社屋を作った」というような内容の記事を手掛けたが、僕は別の媒体で取材したことのある、緑を活かした空間デザイン会社の人に、これを楽しんでシェアしていた。

 なぜ拡散を楽しめたのだろうか? 僕はまず、「絶対にこの人の役に立つ」という、喜ぶ人の顔が浮かんだからだと思う。さらに、「絶対にいいものを作っているし、シェアすることで評価してもらえるはず」という自信もあったからだろう。

 それならば、自分の作るコンテンツと、自分の所属するコミュニティが一貫していると、おそらく拡散して楽しい瞬間は増えるのではないだろうか? つまり、「ここに記事をシェアすれば役立つ」という場を持っていること自分の興味関心と仕事が一貫していることが大事なのではないかと思う。

 自分自身、または自分のコミュニティ内にいる誰かの悩みに対する解決策を見つけると、その記事は自然と「本当に作りたいコンテンツ」になるだろうし、それを自然と仲間に拡散したいという気持ちが湧いてくるだろう。

 こういう視点で先ほどの「効果的な拡散のテクニック」を見直すと、それはすごく前向きで、「拡散」が自分自身とコミュニティ内の誰かのためにやりたい仕事に変わる。拡散を楽しめるかどうかはつまり、個人の生き方に関わっているのである。これを編集チーム全体でできれば、拡散の効果は飛躍的に高まるに違いない。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』。
執筆協力:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

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