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世間ってなんだ (鴻上 尚史)

(注:本稿は、2023年に初投稿したものの再録です。)

 ちょっと前に、鴻上尚史さんによる「人間ってなんだ」「人生ってなんだ」というエッセイ集を読んでいます。
 それらは、鴻上さんが20年以上にわたって「週刊SPA!」に連載していたコラムから、これはというものを選りすぐって書籍化したものですが、本書は、その流れの第3作目です。

 今回のテーマは「世間」
 昨今流行りの “同調圧力” “忖度” といった日本独特?の風土を、鴻上さん一流の感性が数々のエピソードを通して掘り起こしていきます。

 今までも、鴻上さんは自身の多くの著作で、“日本人における「世間と社会」” についていろいろな切り口から論じていますが、本書では、たとえばこんな感じです。

(p127より引用) 今、「世間」は中途半端に壊れて、私達を守ってくれなくなりました。そのため、「社会」と会話する技術を身につけることが苦しみを和らげ、生き延びる最も重要な方法だと思っているのです。

 日本人は、身近な “世間” の中では話せても、外部環境である “社会” と交流する方法は知らないという指摘です。

 あと、もうひとつ take note。
 これは同じような内容を別の本でも目にした覚えがあるのですが、第二次世界大戦時のCIA資料と伝えられている「サボタージュ・マニュアル」からの抜粋です。

(p40より引用)
●「注意深さ」を促す。スピーディーに物事を進めると先々問題が発生するので賢明な判断をすべき、と「道理をわきまえた人」の振りをする。
●可能な限り案件は委員会で検討。委員会はなるべく大きくすることとする。最低でも5人以上。
●何事も指揮命令系統を厳格に守る。意思決定を早めるための「抜け道」を決して許さない。
●会社内での組織的位置付けにこだわる。これからしようとすることが、本当にその組織の権限内なのか、より上層部の決断を仰がなくてよいのか、といった疑問点を常に指摘する。
・・・
●文書は細かな言葉尻にこだわる。
●重要でないものの完璧な仕上がりにこだわる。
●重要な業務があっても会議を実施する
・・・
●業務の承認手続きをなるべく複雑にする。1人で承認できる事項でも3人の承認を必須にする。
●全ての規則を厳格に適用する。
・・・
 どうですか?これが、CIAの前身組織が、「敵国の組織をダメにするために実行しろ!」と定めたマニュアルの一部なのです。
 今、日本でこのマニュアルに当てはまらない組織は本当に少ないと思います。大企業やお役所になればなるほど、ずっぽりとこのサボタージュ・マニュアルを実行しているはずです。

 ちょっと長い引用になりましたが、この列挙は見事です。
 しかし、絶対 “変” ですよね。こんなことに躍起になっている組織も人も。

 こういった “意味不明なおかしなしきたり” をなくすのは、実はとても簡単なのです。「変だから、やめよう!」と、変だと思った人がこのしきたりを破ればいいのです。
 ただ、それが何故だかなかなかできない・・・。そこに、まさに鴻上さんが問題視している“世間と社会” の相克という命題が横たわっているのだと思います。

 では、どうするか?、これも簡単です。
 「変だから、変えよう!」と、実質的に権限のある人が決めて指示すればいいだけです。
 “周り(世間)の目の方が間違っていることを宣言する”、“一人の行動でみんなを変える”、これこそ「リーダーの役割」でしょう。



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