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人間ってなんだ (鴻上 尚史)

(注:本稿は、2023年に初投稿したものの再録です。)

 いつも聴いているピーター・バラカンさんのpodcastの番組に著者の鴻上尚史さんがゲスト出演していて、本書の紹介をしていました。

 20年以上にわたって鴻上さんが「週刊SPA!」に連載していたコラムから、これはという作品を選りすぐって書籍化したものとのこと。
 通底するテーマは「人間」です。

 執筆当時ならではのエピソードもあれば今でも相変わらずといったネタも並んでいて、とても興味深いのですが、それらの中から私の関心を惹いたところを書き留めておきます。

 まずは、演出家蜷川幸雄さんが主催する「ニナガワ・スタジオ」というグループに所属している若者たちを見て鴻上さんが感じ、考えたこと。

(p178より引用) この試練に耐えられない俳優志望者は当然、脱落していきます。そこでまず「才能とは夢を見続ける力のことですよ」という僕の言葉の事態が起こります。
 俳優の才能なんてものがあるのかないのか分からない。でも、とにかく「夢を見続ける力」が問われる。それを才能と呼ぼうと。

 「夢を見続ける」こと、そこには “強い意思と弛まぬ行動” があります。それをどこまで続けられるか。「才能がない」と悟るのは「続けられなくなったとき」ということでしょう。
 鴻上説では、“才能の有無” は “(続けられたかどうかという)結果” であって、“あきらめない心を持ち続けられる”のが “才能” であり、その意味において “才能は成功の要因になる” ということのようです。

 もうひとつ、鴻上さんが手掛けているオープンキャンパスでのエピソードです。
 神戸で開いたオープンキャンパスの参加者に「進行性筋ジストロフィー」を患った車椅子の方がいました。二日間のプログラムが終わっての交流会の席上、車椅子の彼女も交えた参加者と鴻上さんとの会話です。

(p163より引用) 一人が、役者を続けていくことが不安だと語りました。「人生ってのは、そういうもんだよ」と僕は年寄りじみたことを言って、彼女を見ました。
 彼女は、「生きていくことが、それだけで大変ですから」と返しました。
 決して、深刻なトーンではありませんでした。軽いけど重く、修羅場の中で青空を見上げているような声でした。
「それそれ、そういうセリフを僕は、君の一人芝居で聞きたいんだよ」と僕は言いました。「そうですね。分かります」と彼女は微笑みました。
 彼女が参加してくれたことは、僕にとって、とても幸福なことでした。

 心に染み入る素晴らしいやりとりですね。こういう瞬間を大切にしたいものです。




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