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人格ダイヤル、上手に回せてる?

「ただいま~」

聞きなれたその声と共に「カチッ」と自分の中のダイヤルがまわる。がちゃんと扉が閉まり、靴を脱ぐ際に壁に擦れる衣擦れの音がする。と、途端にドスドスと鈍い音がひびき、大好きなあの顔が私の前に現れる。

「のんちゃん、ただいま!」

いつもその声を聞くたび私は安心し、張り詰めていた緊張や疲れがスッっと溶けていく。自然に顔の筋肉が緩み、にへらぁと締りのない笑顔に変わる。甘えん坊でのんびり屋さんの私になる、1日で1番おちつく時間。

「じゃあね、行ってきます!」

朝の8時半。バタバタと慌てて出ていく彼の背中とそれを見送る私の前で扉が閉まりかける。そっと手を添え、音がならないように閉め鍵をかける。と、同時にわたしの中のダイヤルもまた「カチッ」っとまわる。

「さぁ、今日も頑張ろう」

しっかり者の私が顔をのぞかせる。体に力が入り、肩の高さが1センチ高くなる。

立場というダイヤル


「親」「子」「恋人」「友達」「社会人」など人は様々な場面でその立場が変わる。その立場を、ダイヤルと呼ぶことにする。人々はダイヤルに合わせて立ち居振る舞いや考え方も変えてゆく。それはとても普通のことだし、ダイヤルの数が少なかったり多かったり個人差はあるが、みんなそれぞれにそのダイヤルを調節しながら生きている。人によってはダイヤル自体を何個も持っている人もいるだろう。

私も、また違うダイヤルを持っている。
「日本人」「中国人」「アメリカ人」「国際人」というダイヤルだ。帰国子女はしばしば多重人格であると言われるが、(実際に多言語話者の多重人格を研究した論文もある) どういう仕組みで多重人格になってしまうのだろう。

自分のダイヤルに気付く


ベトナムへ来て、ダイヤルを意識することが増えた。会社にいる自分、家にいる自分、親と電話をしている時の自分、彼と電話をしている時の自分、日本人といるときの自分、ベトナム人といるときの自分。色んな自分に合わせダイヤルを捻り、時には2つのダイヤルを同時にバランスよく捻ったりもする。ダイヤルの調節はほぼ自動で、つまりオートモードで捻られる。

照りつける太陽の下、お昼ご飯を食べられる場所を探す時、言語の壁がある私にはベトナムローカルフードは何となく不安で入れない時がある。そんな時、お店の前を行ったり来たりする。

ふと、「あれ?何やってるんだっけ」となった途端「カチッ」っとダイヤルがまわる。遠慮がちな「日本人」の自分が吹っ飛び、怖いもの無しの「中国人」へダイヤルがまわり、今までの迷いが嘘のようにすんなり店に入る。身振り手振りで注文し食事にありつく。

私は純粋な日本人で、中国人の血は入っていないのだが幼少期10年間を中国で育ったので自分の中には「中国人」のような一面も恐らくあるのだろう。

アメリカ人のやアメリカ帰国の友人と遊ぶ時や英語を話す様々な国籍の人と接する時、私のダイヤルは「アメリカ人」や「国際人」のダイヤルにセットされる。アメリカに住んだことは無いが、英語を勉強していた環境がアメリカ人やアメリカ帰国の人達ばかりだったので自然とその人たち用のダイヤルが出来たのであろう。自分への自信に満ちた自分になれるのだ。

オートモードダイヤルを疑え

しかしその便利なダイヤルも、時には壊れる。ダイヤルが狂って正しい方向を指せなかったり、間違った組み合わせになったりする。間違った組み合わせになった時、人は「正しく」振る舞えなくなる。

日本の会社で「国際人」ダイヤルはあまり好まれないし、「母親」ダイヤルと「恋人」ダイヤルを同時に指すのもあまり好ましくはないだろう。

しかし実際にダイヤルをうまくコントロール出来ていない人はいる。それが小さい間違いであればその場で済む話だが、そうじゃないこともある。

ダイヤルがコントロールできない人、勢でダイヤルをまわしちゃう人、自動モードで指されたそのダイヤルを疑わない人。私もそんな人の1人だ。そのせいで色々と上手くいかないと思うことも多かった。

そんな私が最近心がけているのは、常に今、どのダイヤルを指しているかを自分で「認知」するようにすることだ。

「今はこういう場面で、ダイヤルはここにセットされているけど正しいかな?」という問を自分に投げかける。

正しくないと判断したら手動でダイヤルを動かし、なるべくそれらしく振る舞う。

実際のところ、振る舞いを変えたりするのはとても難しい。ダイヤルに例えて言ってるものの、その中身は全て自分自身なのでダイヤル(立場)そのものの境目だって曖昧だ。

それでも私はこれを意識するだけで少しはマシになった気がしている。自分のダイヤルが今までのどの立場を指していて、どんな自分を指しているかを俯瞰すること。それを判断すること。

人間関係や立ち居振る舞いのことで生きづらい人のへ参考になるといいな


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