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小説を書いています。 よろしくお願いします。

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「悲哀の月」 第1話

 あらすじ  披露宴を開くことを心待ちにしていた新婚夫婦。  しかし、予定を立てていく中で思わぬ事が起こる。  日本にコロナウィルスが入ってきたのだ。  悪いことに、コロナウィルスは猛威を振るっていく。  必然的に、披露宴は延期となる。  二人は収束の時を待った。  だが、その矢先に妻がコロナウィルスに感染してしまう。  必死に回復を祈る夫や家族に知人。  しかし、コロナウィルスは彼女の体を蝕んでいく。    1  クリスマスが近付く街は、にわかに色付

    • 「カエシテ」 最終話

         62 「公子さん。遅かったわね」  公子の顔を見ると、アミが笑顔で迎えた。 「いやぁ、疲れたよ。老人に優しくしない会社だからな。あそこは」  公子は腰をさすりながら端の席に座った。すぐにアミがお茶を出す。公子は大事そうに湯飲みを両手で包み込むと、口へ運んだ。 「なら、もう辞めたら。お婆ちゃんだって、いい年なんだから。厳しいでしょ。清掃の仕事は。もう目的だって果たしたわけだし。無理してあそこに居続ける意味はないじゃない」  由里が同情の目を向けている。 「そうするかな。

      • 「カエシテ」 第61話

            61  三日後。  赤羽にある『風見鶏』には二人の客が来ていた。初老の男と若い女だ。店の入り口には、貸し切りの札が掛かっている。 「これで片が付いたんじゃないの」  しばらくはテレビの音声だけが響いていた店内だが、三十代の女が口を開いた。ハイボールを一飲みした後のことだ。女は黒髪を腰まで伸ばし、眼鏡を掛けている。『月刊ホラー』で事務を担当していた由里だ。 「そうね。あの男は死んだわけだから」  前を向いたままアミが答える。 「それなら、二人がここまでした甲斐があった

        • 「カエシテ」 第60話

             60 「何でだよ。何で、この画像が送られてくるんだよ」  画像の正体を知ると陣内は慌ててファイルを閉じた。  だが、それは遅かったようだ。 「カエシテ」  どこからか、声が聞こえてきた。物悲しい女の声だ。 「何だよ」  陣内は慌てて室内を見回した。  だが、薄暗いオフィスに人の姿はない。 (気のせいか。とてもそうは思えないほど、ハッキリと聞こえたけどな)  首をひねったものの、誰もいないのであれば、自分の思い違いなのだろう。しかし、普段と違う空気はひしひしと伝わってく

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        「悲哀の月」 第1話

          「カエシテ」 第59話

             59  新宿の路地裏がいつもの姿を取り戻したのは、空が闇に染まった頃だった。検証を終えた警察が現場から去ったことで、物々しさは嘘のように消えている。 (やれやれ、とんだ騒動に巻き込まれたものだよ)  静寂を取り戻したオフィスで陣内は大きく溜息をついた。オフィスには血まみれの遺体が長時間放置されていた事により異臭が漂っている。窓を開け換気したが消えなかったため、近くのディスカウントストアで消臭剤を大量に買い込み、ばらまいていたほどだ。それでも、異臭は完全に取り除くことは

          「カエシテ」 第59話

          「カエシテ」 第58話

             58  翌日。  朝から新宿の路地裏は騒然としていた。救急車とパトカーが何台も駆けつけ、赤色灯を灯し一棟のビルの前で停車している。入り口には制服姿の警官が立ち、奥には立入禁止のテープが張り巡らせ、物々しい雰囲気だ。出勤する会社員は皆、歩きながらも好奇心を持った眼差しを向けている。中には、携帯で写真を撮ろうとして注意を受けている人もいる。  そのビルの中では、三階に捜査員が集結していた。『月刊ホラー』が入っているフロアだ。  騒動の発端は、清掃員による通報だった。  こ

          「カエシテ」 第58話

          「カエシテ」 第57話

             57  表示された画像は桜がメインで写っていた。病院の裏手に植えられた桜並木が見事に咲き誇っている。桜並木の隣は駐車場だ。何台もの車が止まっている。病院はその奥にあった。建物のそばにはベンチがあり、そこには一組の男女が座っている。メール本文によれば、この二人が楓と彼氏と言うことらしい。二人は互いの顔を見て微笑んでいる。  全体では小さいため、加瀨はすぐに二人の部分を拡大した。二年半前の携帯のはずだが、画質はわりかし良かった。拡大しても画像が潰れることはない。  写真に

          「カエシテ」 第57話

          「カエシテ」 第56話

             56  加瀨が会社に駆け込むと、陣内がパソコンと向き合っていた。どうやら、犠牲者は彼ではないらしい。  そうなるともう一人しかいない。  平子だ。  公子の話が事実であるとすれば、本当に自分のサイトであの画像を公開しようとしているのかもしれない。 (参ったな。あいつには。どうすればいいんだろ)  思わず溜息をついたが、相変わらず平子との連絡は取れていない。加瀨からは頻繁に連絡を入れているものの、完全に梨の礫となっている。念のため、チェックしてみたが、やはり連絡は届いて

          「カエシテ」 第56話

          「カエシテ」 第55話

             55  その頃。 (よしっ、出来たぞ。これなら平気だろ)  平子はついに、自分の動画サイトを満足のいく形で完成させた。 (きっと、これなら視聴者に興味を持ってもらえるはずだよ。多分、あの会社よりもアクセス数は稼げるだろう)  理想の未来を思い浮かべたことで自然と笑みが浮かぶ。動画サイトを立ち上げることは夢の一つだったが、今は違う。別の目的があった。『月間ホラー』を潰すことだ。退社時には恩があるようなことを言っていたが、それは真っ赤な嘘だった。憎しみしかなかった。特に、

          「カエシテ」 第55話

          「カエシテ」 第54話

             54  ついに従業員は二人となってしまったため、仕事量は増えていくばかりだった。加瀨は今までしたことのない仕事まで受け持っている。情報提供してくれた人の元へ足を運び、詳細を聞いていた。今は帰途で最寄り駅から会社へ向かい歩いているが、オフィスに戻れば山のように仕事が溜まっている。考えただけでも頭が痛かった。対照的に路地には、昼過ぎと言うこともあり近隣の会社員で賑わっている。ランチをどこで食べるか吟味しているのだろう。あちこちで社員がたむろしている。 (これじゃあ、とても

          「カエシテ」 第54話

          「カエシテ」 第53話

             53  その夜。 (本当にバカな男だな。あいつは)  一人の男が日本酒を飲みながら夜空を見上げていた。東京とは違い、新潟の夜空は満天の星が広がっている。田舎暮らしをしている人だけに与えられる、空からのご褒美だ。男は酒を飲みながら星空を見ることを、夜の秘かな楽しみにしていた。 (わしがちょっと忠告しただけで、慌ててあの山に入っていくんだからな。愚かとしか言いようがないよ。だから、東京の人間は無知だと言うんだよ。インターネットでちょっと調べただけで、全てがわかったつもりに

          「カエシテ」 第53話

          「カエシテ」 第52話

             52  朝早い新幹線は空いているものだ。週末と言えども、それは変わらない。空席の方が圧倒的に多かった。  この日も家族連れが二組と、出張に向かうサラリーマンが数人乗車している程度だった。  その車内に目を向けると、見覚えのある顔があった。  山根だ。窓の外を睨むような目で見ている。  彼はさんざん悩んでいたが、一つの決意を固めていた。それは、新潟に行くということだ。あの日受けた電話の内容を熟考していたが、他に策は思い付かなかった。ただし、仕事に穴を空けることは出来ない

          「カエシテ」 第52話

          「カエシテ」 第51話

             51 「携帯を残して部屋を出て行ったわけか。あいつは。くそっ、徹底的に居場所を隠すつもりか」  会社に戻り結果を報告すると、陣内は腰に手を当てた。 「はい、一応、あいつが帰ってきたら教えて欲しいって管理人には伝えてきましたけどね。どこまでやってくれるかは疑問です」 「あぁ、まず当てにならないだろうな。年寄りの管理人じゃ」  気休めに言ってみたが、陣内は一切期待を持たなかった。 「部屋にパソコンはあったのか」  代わりに聞いてきた。 「デスクトップはありましたけどね。確

          「カエシテ」 第51話

          「カエシテ」 第50話

             50  その頃。  平子は池袋にいた。場所は、サンシャイン通りの中ほどに建つビルの三階に入るネットカフェだ。長期滞在を念頭に置いているため、個室を取っている。ただし、そこはネットカフェだ。個室と言えば聞こえはいいが、薄い板で仕切られた人一人が入れるだけのスペースだ。左にベッドがあり、右にデスクとパソコンが置かれている。しかし、平子は設置されているパソコンには一切手を付けていなかった。自宅から持ってきたノートパソコンで全ての作業を行っている。  オフィスに電話があった通

          「カエシテ」 第50話

          「カエシテ」 第49話

             49  翌日。  加瀨の姿は元八幡にあった。平子の元を訪ねに来たのだ。結局、昨日一日を掛け、陣内の持つ情報網を駆使して平子を探したが、見つけ出すことは出来なかった。一応、調査は継続しているが、悠長なことは言っていられないため、加瀨はとりあえず平子の家を訪ねてきたというわけだ。  駅を出ると、ロータリーの先の通りを直進し、千葉街道で右折した。そして、交通量の多い千葉街道をしばらく歩き、個人商店の角を左折し、住宅街を少し進んだ先で足を止めた。目的地に到着したのだ。  平子

          「カエシテ」 第49話

          「カエシテ」 第48話

             48  それは、平子が退社して二日後のことだった。 「陣内さん」  と、由里が声を掛けてきた。 「どうしたんだ」  忙しくキーボードを叩きながら陣内は聞く。 「今、電話があったんですけど、平子くんに純の携帯を借りるように指示したんですか」 「それなら一度はしたけど、その時はご両親がすでに処分していたって報告を受けたからな。純の携帯に関してはそれっきりだぞ。それ以降は出していないよ。あいつだってもう退社してしまったわけだし」  陣内は目をモニタから由里へと向けた。 「そ

          「カエシテ」 第48話