見出し画像

「カエシテ」 第56話

   56

 加瀨が会社に駆け込むと、陣内がパソコンと向き合っていた。どうやら、犠牲者は彼ではないらしい。
 そうなるともう一人しかいない。
 平子だ。
 公子の話が事実であるとすれば、本当に自分のサイトであの画像を公開しようとしているのかもしれない。
(参ったな。あいつには。どうすればいいんだろ)
 思わず溜息をついたが、相変わらず平子との連絡は取れていない。加瀨からは頻繁に連絡を入れているものの、完全に梨の礫となっている。念のため、チェックしてみたが、やはり連絡は届いていなかった。
(やっぱり駄目か)
 落胆しながらも加瀨は携帯をいじっている。
(あれっ)
 すると、あることに気付いた。メールのアイコンに着信を通知するマークが灯っていたのである。
(珍しいな。メールなんて)
 思わず加瀨の顔には笑みが浮かぶ。仕事上ではメールでやりとりしているものの、プライベートではLINEしか使っていない。携帯のメールなど何年も使っていない。
(誰だろ。貴重なメールを送ってきた人物は)
 興味を持ち、加瀨はメールをチェックすることにした。
 メールのアイコンをタップしてみると、タイトルには、『聖です。』とあった。
(あの人か)
 そのタイトルを見ただけで加瀨はピンと来た。聖と言えば、いつか新潟に行った際に話を聞いた看護師の一人だ。随分昔のように思うが、実際は二週間ちょっとしか経っていない。聖には何かあった時のためにと、連絡先を印刷した名刺を手渡していたのだ。連絡してきたところを見ると、何か情報が入ったようだ。
(今更、遅いよ。俺達はもう、あの話は追っていないんだから)
 加瀨は申し訳ない気持ちになったものの、中身は気になるものだ。届いたメールを開封してみた。

 聖です。いつか新潟でお会いした看護師ですが、覚えてらっしゃいますか。楓の件で話した者です。
 実はあの後、私の方でも少し動いてみたんです。当時、楓と働いていた看護師にLINEを送ってみました。さすがに時間が経っていることで、反応は鈍かったですけどね。
 でも、昨日になって貴重な返信がありました。二人のツーショット写真を持っている人が現れたんです。

 加瀨の目付きは変わった。陣内からあの話はもう追わなくていいと念を押されていたが、好奇心が刺激されたのだ。メール本文を目で追っていく。

 この人は、病院の裏側に咲いていた桜を撮っていたそうなんですけどね。そのそばで楓が彼氏と密会していたんです。参考になるかわかりませんが、写真の方を提供してもらったので、一応、添付しておきます。

 メールはそこで終わっていたが、本文にある通り、画像が添付されている。
(どんな画像なんだかな)
 加瀨は興味を覚え、添付されている画像をクリックした。
 すると、一枚の画像が表示された。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?