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「カエシテ」 第57話

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 表示された画像は桜がメインで写っていた。病院の裏手に植えられた桜並木が見事に咲き誇っている。桜並木の隣は駐車場だ。何台もの車が止まっている。病院はその奥にあった。建物のそばにはベンチがあり、そこには一組の男女が座っている。メール本文によれば、この二人が楓と彼氏と言うことらしい。二人は互いの顔を見て微笑んでいる。
 全体では小さいため、加瀨はすぐに二人の部分を拡大した。二年半前の携帯のはずだが、画質はわりかし良かった。拡大しても画像が潰れることはない。
 写真に写る楓は、薄いピンクの白衣を着ている。色白で目はきれいなアーモンド型。鼻と口は小ぶりだ。顔もきっと小さいのだろう。見るからに、明るい性格をしていそうな顔だ。病院や患者から人気があったという話も納得だ。一方の男の方はやせ気味。顔には幼さが残り、三十前のはずだが学生にしか見えない。
(なるほどな。こういうタイプのコだったのか。楓さんは)
 画像を見ながら加瀨は一人納得していた。
 だが、少しすると疑問が生まれてきた。脳裏には、茂吉に見せてもらった写真が浮かんでいる。あの日、茂吉が見せてくれた写真では、楓は面長の顔をしていた。口も鼻ももっと大きかったように思う。純はもういないため確認を取ることは出来ないが、ハッキリと覚えているため、間違いない。加えて、送られてきた楓の顔はどこかで見た気がする。
(おかしいな。どういうことだろう。これは)
 加瀨は腕を組み考え込んだ。
(だけどな。写真を撮影した時期は違うだろうからな。撮る角度によっても、女の場合は顔が変わるから)
 だが、加瀨はすぐに考え直した。女とは、環境が変われば表情も変わるものだ。茂吉に見せられた写真はきっと、まだ学生時代だろう。社会に出る前であれば、化粧だってしていないはずだ。聖が送ってきた画像の中の楓は、メイクは完璧ですっかり垢抜けている。稀に卒業アルバムと数年後では別人になっている人がいるが、楓もそのパターンかもしれない。見覚えのある点に関しては、過去に似たような人を見たのかもしれない。加瀨はそう考えることにした。
(って、そんなことを考えてももう意味はないんだよな。俺達は手を引いているわけだから。残念だな。もう少し早く送ってもらえれば、もしかしたら何か掴めたかもしれないけど)
 気持ちは盛り上がったものの、加瀨は現実に目を戻した。聖は必死に自分に出来ることをしているのだろうが、加瀨達はもうこの話から手を引いている身だ。画像を送ってもらったところで力になることは出来ない。
(今後も送ってくるかもしれないからな。そうなると悪いよな。徒労に終わるだけだから。仕方ない。キッパリ伝えるか。あの人には申し訳ないけど)
重い気持ちにはなったものの、加瀨は聖に謝罪のメールを来るため、画像を閉じようとした。
(あれっ)
 が、その手は途中で止まった。
 再び画像を拡大し凝視している。
(これは………、間違いないよ)
 拡大した画像を凝視すると、加瀨の表情は驚きで固まった。
(嘘だろ。こんなこと。まさか、こんなことあるわけないよな。もしあったとしたら、どうなっていると言うんだよ)
 加瀨は呆然とした。
「お疲れ様です」
 そこにバイク便業者の声がした。いつもであればすぐに対応する加瀨だが、ショックのあまり反応することは出来なかった。

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