エピローグに込められたメッセージ|編集こぼれ話③
2024年7月、農文協から『北の国から 家族4人で幸せ自給生活』という本が発売されました。
この本は、『現代農業』と「現代農業WEB」での連載をベースに作りましたが、エピローグは書き下ろしです。エピローグには、三栗さんの「生き方」についての考えが凝縮されています。今回はその内容をご紹介したいと思います。
お金の問題をどう考えるか?
エピローグのテーマの一つが、お金の問題です。「自給生活」といっても、お金をどうするのか、という問題はやはりついて回ります。自給生活の奥深さを感じたとしても、「そうは言っても、現実的にお金はどうするの?」という疑問を持つ読者も多いことと思います。この本では、その問いにも答えています。
三栗さんによれば、人が生きていく上での仕事は、3つに分けられます。
嫌いまたは苦手で、できないこと。
それなりに何とかできること。
好きまたは得意で、他人の分までできてしまうこと。
このうち、3番目の「他人の分までできてしまうこと」を提供することでお金を稼ぐ、これが三栗さんの答えです。複雑な物事について考えをまとめたり、伝えたりすることが好きで得意だという三栗さん。自給自足で得た知恵を、同じく自給自足をやりたい人向けに発信することを仕事として、現金収入につなげています。
もちろん、一番好きなこと、あるいは一番得意なことをそのまま仕事にするということは、簡単に実現できるものではないかも知れません。すぐに仕事につながらないとしても、好きなことや得意なことは何があっても大事に持っていれば役立つときがきっとある、私はそんな気持ちになりました。
お金の話については、本の第4部でも詳しく掘り下げています。ぜひ、合わせて読んでみてください。
「自給生活」の道に入った理由
そもそも、三栗さんはなぜ「自給生活」の道に入ったのでしょうか?この話が、エピローグのもう一つのテーマです。
その理由は、一つにはこの本の「プロローグ」に書かれています。それによると、エネルギー問題の解決を夢見て就職した東京電力が東日本大震災で原発事故を起こしたことに絶望感を抱いたこと、高等専門学校に電気の教員として採用されたものの、育児と両立できずに退職したこと、2013年から滞在したタイのパーマカルチャー・ファームでの経験がヒントになって、教員を辞めた後は新たな勤め先は探さずに今の自給生活の道を歩み始めたというものです。
それに加えて、「エピローグ」には、もう一つの理由が書かれています。それは、学校や会社勤めなど、集団生活が苦手だったということ。「生きていくためにはお金が必要。お金を稼ぐためには、会社に勤めて集団に属することが必要。(中略)ぼくは幼稚園の頃から、この集団に所属しなければいけないことに、大きな絶望を感じていました」とあります。
そして、エピローグには、こんな一節があります。
「学校、会社に行くのが苦手だった若い頃の自分に、こんな生き方もあるよと教えてあげたい、そんな気持ちで書かせていただきました。生きることに行き詰まりを感じている方にとって、少しでもヒントになりましたら、幸いです。」
仕事を辞めて自給生活の道という大きな決断には、それなりの理由があったはず。エピローグまで読み進めると、三栗さんにとって、東日本大震災を機に生まれた価値観の変化、仕事と生活の両立の問題に加え、幼い頃から心の底に抱いてきたものまで、いろんなものが一つに重なってのことだったのだと、腑に落ちる気がしました。
エピローグのこの一節は、一言でいえば、「自分に正直に生きて大丈夫!」ということになるでしょう。そしてそれは、三栗さんが若い頃の自分に向けた言葉であるだけでなく、読者の皆さんへの応援メッセージでもあると思いました。
この本の帯では、「東電社員を辞めて始めた自給生活。手作りを楽しみながら、働きすぎず、穏やかで充実した暮らしを送るヒントがいっぱい」という本の内容紹介に、「こんな生き方もある!」という吹き出しを添えましたが、このフレーズは、上記のエピローグから拾ったものです。
まずはできるところから
この本には、「自給生活」を気軽に始めるヒントが盛りだくさんです。何も難しいことはありません。エピローグにある「ベランダで野菜を育ててみる」「みそづくり講座に参加してみる」「A4サイズの太陽光発電をやってみる」でもいいし、それ以外でもかまいません。暮らしの手作りを始め、生き方を見つめる1冊として、ぜひ手に取ってご覧ください。
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