第3回:リヨン便り2 朝ごはん&朝市で地元を味わう(湯澤規子)
人文地理学者の湯澤規子さんと景観工学者の真田純子さんの、「食×農×景観」をめぐるおいしい往復書簡。地元の果物ジャムたっぷりの朝ごはんのあとは、朝市(マルシェ)調査へでかけた湯澤さん。ミニ協同組合ともいえる生産者との出会いもありました。
時間もいただく、朝ごはん
リヨン便り2(つづきです)。朝ごはん。すばらしかったです。
おかずが多いとか、気が利いているとかいうことではなくて、いたってシンプルに、しかしゆったりと時間をかけて味わうという時間でした。朝ごはんといえば、普段は時間との闘い、というところがあるのですが、今朝はなんと1時間、イギリスから旅行に来たという女性と私の2人、そしてオーナーが一緒にテーブルを囲みました。
ごはんと時間、という話も考えてみたいと思った朝ごはんでした。
まず、たっぷりの紅茶をいれて、おしゃべりをしながら、好みのパンをお皿にとります。パンは温かいクロワッサンと四角いスコーン(?)、そしてバゲット。そこに加えて、すべてホームメイドという宿の自慢のジャムが6種類も並んでいました。私はアプリコットとルバーブを選びました。
リヨン近郊の農村は果物栽培が盛んで、今はミラベル(梅のような果実)、アプリコット、ブドウ、モモなどが旬で、ちょうどリンゴの収穫が始まっています。ジャムの種類の多さは果物生産が盛んな証でもあるわけです。
タラールの朝市に集う人たち
今日はそのあと、滞在しているタラールの朝市(マルシェ)調査に出かけました。毎週、木曜日と土曜日に、ごく近くの農場から生産者たちが自慢の野菜や果物、チーズ、肉や総菜を持ち寄って開催され、地元の人たちで賑わっていました。南東フランスに位置するので、地中海から届く食材のお店も一角を占めていました。
マルシェでは、インゲン豆1本、ニンジン1本、トマト1つからでも買えます。山になっている野菜をかごに入れてお店の人に渡すと、量り売りで計算してくれるからです。日本のようにパッケージされている野菜たちとは一風違った顔をしている野菜たちを眺めながら、「食べものを選ぶ」というシンプルな行為にも、いろいろなスタイルがあることを考えさせられます。
チーズの売り場は特に面白く、「まるで日本の豆腐屋さん」といった風情で、一番フレッシュなチーズは穴の開いたステンレスの容器から「はいよ」という感じでお客さんが持参した容器に入れてくれます。こうした食材はマルシェで直接生産者から購入するしか入手方法がないため、容器を抱えたお客さんたちは、おしゃべりに花を咲かせながら並んでいました。
私はここで、「私が作ったのよ」というジャムを購入。フランス人が大好きなフランボワーズとアプリコットを選びました。彼女は生産者ではなく、マルシェで野菜を売るのが仕事だそうで、時々加工品も作って、それはオリジナル商品として販売しているとのこと。同じ市場でも、生産者だけでなく、様々な役割の人がいることがわかりました。
農場に来る人も歓迎! の生産者
興味深かったのは、4家族が「参加的組合」というような形態で協同で農場とマルシェでの出店を経営しているというスタイルの生産者の話でした。すべて有機農産物です。「トマト、味見してみて!」とすすめられ、ミニトマトを口に入れると本当においしかったです。「おいしい」とは何か、というのはとても深いテーマですが、今回は小さい一粒なのに、「むむ、やるな、コイツ(トマト)!」という味でした、という表現でお伝えしておこうと思います。伝わりますか(笑)?
この農場はホームページもユニークで、タラール(マルシェの開催地)から、元気な人は徒歩で2時間程度で来れます!とメッセージを掲載しているそうです。直接農場に来る人も歓迎!という雰囲気が、マルシェで野菜を売っている女性からも感じ取ることができ、「都市と農村の関係」と一言でいうには説明しきれない世界の広がりを感じました。このあたり、ぜひ真田さんと一緒に考えてみたいところです。
マルシェ調査の後は町の博物館で「織物と労働者の生活記録」の調査をしました。タラールはかつてモスリンという織物生産で栄えた町です。そこで働いた人たちの胃袋を満たした食について考えたいと思ったのが、この町に来た目的です。古い工場の地図や資料を見ながら博物館スタッフの話を聞くと、500人規模の工場でも、野菜は周辺の農場で自給自足していたと聞いて驚きました。確認はこれからですが、現在も町の周りはぐるっと丘陵地で囲まれ、牧草地や菜園があるので、自給自足というのも納得させられるところがあります。これまで調べた、日本ともアメリカ合衆国とも違う展開。フランスの労働者の胃袋やいかに!?というテーマの沼に、これからずぶずぶと入っていくことになりそうです(楽しみ)。
プロフィール
◆湯澤規子(ゆざわ・のりこ)
1974年大阪府生まれ。法政大学人間環境学部教授。博士(文学)。「生きる」をテーマに地理学、歴史学、経済学の視点から、当たり前の日常を問い直すフィールドワーカー。編著書に『食べものがたりのすすめ―「食」から広がるワークショップ入門』、絵本シリーズ『うんこでつながる世界とわたし』(ともに農文協)など、「食べる」と「出す」をつなぐ思索と活動を展開中。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?