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感想

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#ファンタジー

『ダンジョン飯 全14巻』九井諒子(著)

完結したので一気読み。ギャグメインでありながら、まさかここまで綺麗に畳むとは、と感動。文句なしに傑作。最後の一コマまでギャグなのが美しい。 お話は、魔法やダンジョンがある世界、レッドドラゴンに敗れた主人公一行は、ドラゴンに食べられた仲間ファリンを一刻も早く蘇生させるため、ダンジョン内の魔物という超ゲテモノを食べる覚悟をして下層へ挑む。しかし主人公ライオスは昔から魔物が大好きで、いつかは食したいと思っており…。 魔物食が全体を通したテーマ。動植物だけでなく、ミミックや動く鎧

『呪いを解く者』フランシス・ハーディング(著)児玉敦子(訳)

15歳の少年少女が、呪いを悪用する社会と戦うダークファンタジー。 ティル・ナ・ノーグが実際に街の隣りにあり(原野と呼ばれる森と湿地)、呪いも実在し恐れられる社会で、呪いを解くことで金を稼ぐ少年少女が主人公。 ある日ゴールと名乗る男からの依頼を受けるも、実は政府筋の依頼で、敵対勢力から狙われるはめになり…。 憎しみに囚われた人に、小さな仲間(原野の生物。蜘蛛っぽい)が、呪いの卵をプレゼントしてくれる世界観がユニーク。 そしてまた呪いがエグい。いかに対象を苦しめるかを突き詰め

『夢みる宝石』シオドア・スタージョン(著)川野太郎(訳)

孤独と愛をひしひしと感じる傑作! しかもそれぞれが響き合ってる。すごい。ラストは衝撃の連続で呆然となるが、まさか蟻が伏線だなんて(笑) 甘々だがそれが良いよ。 お話は、養父に虐待され指3本を失った孤児の少年が逃げ出し、カーニバルの小人たちに匿ってもらう。少女に変装し歌を披露しながら暮らしていたが、少年はいつまでも成長しないし、さらにいつの間にか指が生えており…。 タイトル通り、宝石(水晶っぽい)に意識があり、人間には気づけ無い形で文化を養ってる世界観が面白い。 宝石がみる

『箱庭の巡礼者たち』恒川光太郎(著)

ゆるく繋がってるファンタジー短編集。恒川光太郎なので、いつホラーになるかとドキドキしたが、最後までファンタジー100%。作者インタビューによると、たまたまそんな気分だったそうな(笑) しかし最後の世界、二度と出られないっぽいし、強制リセットかかるしで、『驚愕の曠野』みがあってちょっと怖い。 箱庭の箱はタイトルにもなってるが、存在感がかなり薄いので、ラストに再登場してほしかったな。 お話は、中世風の世界が見える箱だったり、時間を進めることができる銀時計だったり、不思議道具が

『ホープは突然現れる』クレア・ノース(著)雨海弘美(訳)

誰にも記憶されない特異体質のホープと、孤独に戦う元工作員のバイロン、二人の人生が交差する物語。読後、静かなカタルシスとやるせなさで、ちょっと何も考えられなくなった。 ホープが、パーフェクション(フェイスブックの邪悪な上位互換的アプリ)関係者からダイヤを盗んだ事により、パーフェクションに敵対するバイロンと出会い、より悲惨な事態へと向かってゆくお話。 誰にも記憶されない、という特殊設定が本当にえげつない。 ある日、じわじわと他人から記憶されなくなり、16歳で親にすら「誰?」と

『魔術師ペンリックの仮面祭』ロイス・マクマスター・ビジョルド(著)鍛治靖子(訳)

今回は中編3つ。お祭り、海賊、疫病と、どれもいつも通り壮絶に巻き込まれて面白いのだが、ペンリックたちが苦難を乗り越えてるというよりも神に手のひらの上で転がされてる感が強くって、カタルシス薄め。でも前作の恋が無事実り結婚できてて幸せそうで何より。 神が実在する世界って自分だったら、決定論の世界と同じでやる気をなくしちゃいそうだが、神の導き、奇跡だと考えるペンリックが眩しい。神がいようがいまいがやることは一緒なのだけど、そこに感謝できる人間性が美しい。こんな性格だから魔のデスと

『塩と運命の皇后』ニー・ヴォ(著)金子ゆき子(訳)

中華的古典ファンタジーの中編2つ。中華古典を現代語訳しました、で通用するレベルなのに、作者がアメリカ人でびっくりだよ。ベトナム系らしいが、ベトナムのファンタジーもこんな雰囲気なんだろうか? ルーツが気になる。 塩と運命の皇后支配されている国から一人嫁いできた皇后の過酷な人生が侍女視点から語られる。 皇后の死後、封印されていた住居をあらために来た聖職者(正しい歴史を収集する人々らしい)が、先客である老婆にであう。なんと彼女はかの皇后の元侍女で、彼女の口から真の歴史が語られてゆ

『トムは真夜中の庭で』フィリパ・ピアス(著)高杉一郎(訳)

素晴らしいジュブナイルファンタジー。ラスト、めちゃくちゃジ~ンときた。テンプレ的冒険とか皆無で、ほのぼの遊んでいるだけだが、そういう、ささやかな幸福がいかに人生に必要かと気付かされる。 弟が麻疹にかかったため親戚の家に隔離されるトム。さらに、麻疹が感染ってるかもしれないからと、ずっと庭もないアパートから出られない最悪の夏休みに。ある晩、大時計と館の囁きにさそわれ外に出てみると、そこは広大な庭が広がっており、トムは探検を始める。そこは季節も時間も行くたびにバラバラで、ある日つ

『沈黙の声』トム・リーミイ(著)井辻朱美(訳)

傑作短編集『サンディエゴ・ライトフット・スー』に比べ、長編は完成度低い。デビュー作なのでしかたない。それだけに夭折が本当にもったいない。もっとテクニックが磨かれた長編が読みたかったなぁ、と心底思う。 とはいえ、長編独自の良さがあまりないだけで、風景描写、キャラクター、設定などは短編同様抜きん出てるので、普通に楽しめる。 ファンタジーとして読むより、YAガールミーツボーイものとして読む方が楽しめるかな。ちょいエロだし。 20世紀前半の長閑なアメリカ田舎町へ、見世物一座がやって

『世界が終わるわけではなく』ケイト・アトキンソン(著)青木純子(訳)

『ライフ・アフター・ライフ』が良かったので手に取る。 本書は幻想短編集。抜群のテンポと神話の隠喩が特徴的。長編とは全然雰囲気が違い、明るいタッチ。作者の幅の広さ驚く。 ラストに仕掛けがわかるも、寂寥感でいっぱい。だが、悲壮感のかけらもないのが凄い。この世は通過するだけのものだから、という水木しげるの猫を思い出す。 お話の舞台はどれも現代ながら、日常と非日常がぴったりくっついてる不思議な読み心地。戦争地帯で楽しくショッピングしてる第1話から違和感が半端ない。この不協和音が世界

『ゴースト・ドラム―北の魔法の物語』スーザン・プライス(著)、金原瑞人(訳)

心温まる王道ファンタジーが読みたいな、と思い手に取る。が、全然王道じゃなかった。ファンタジー世界でのホラーな復讐譚だった。 魔女に英才教育された奴隷の子供(チンギス)と、生まれた途端、窓もない塔上の小部屋に幽閉された王子様のお話。ラブロマンスかと思いきやまったく違って、チンギスは王子を魔法使いの弟子にするが、邪な魔法使いが邪魔をし…。と話が坂の下に転がってゆく。 この邪な魔法使いが本当に邪悪で、チンギスとはなんの面識もないし、利害関係もないのに、才能を羨んだだけで殺しにか

『白昼夢の森の少女』恒川光太郎(著)

いままでの単行本に入りそこねた短編10編を集めた一冊(文庫は描き下ろしが追加され11編)。珍しく著者後書がついていて嬉しい。なぜ他のにはついてないのだろうか。読者は喜ぶのに。 以下好きなやつをピックアップ。いつも通りハズレ無しで、全体的にホラー寄りなので夏向け。 焼け野原コンティニュー 記憶喪失物。そして周りが廃墟と死体ばかり。そして死んでも蘇るという謎しか無いお話。 不思議はあれど希望のないお話。最後の手紙が虚しい。 銀の船 時空を旅する船のお話。 乗ると不老不死

『約束の果て 黒と紫の国』高丘哲次(著)

神代から始まる淡いラブストーリー。人ではない精霊のような存在がまだいる時代の中華風ファンタジー。 序盤、表紙のイメージ同様、少女漫画的展開で読者の心を掴む。そして中盤からキメラアント編が始まり、めちゃくちゃ驚かされた衝撃の一冊。終盤はAKIRA(というか鉄雄)だし。 壙という国の成り立ちと終焉、2つの時代のお話が交互に語られ、それぞれのボーイ・ミーツ・ガールが描かれる。その二つが絡み合い、収束する展開には舌を巻いた。伏線とトリックが美しい。 骨子が素晴らしいだけに、日本

『裏世界ピクニック7 月の葬送』宮澤伊織(著)

ターニングポイントの一冊。 最近は裏世界から侵略を受ける一方だったが、ついに空魚がキレて閏間冴月を殺すべく乗り込んでゆく。 主人公二人が裏世界にビビらされる様子が楽しみだっただけに、実はちょっとこれじゃない感がある。 そして百合方面でも前進、というか、暴走気味でハーレム宣言が飛び出す。すでに修羅場に一歩踏み込んでおり、今後が楽しみでならない(笑) 対閏間冴月戦は、裏世界からのハッキングに対し、同じくハッキングでやり返す方法が面白い。そして次回以後、裏世界は対策してくるのか