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『魔術師ペンリックの仮面祭』ロイス・マクマスター・ビジョルド(著)鍛治靖子(訳)

庶子神祭を目前にした運河の町ロディ。大神官庁での仕事にいそしんでいたペンリックは診療所から患者を診て欲しいとの依頼を受ける。海で救出された若者が、魔に憑かれて錯乱していたのだ。ペンリックは魔を剥がすことができる聖者を見つけるが、患者は祝祭に沸く町に逃げこんでしまった……。「ロディの仮面祭」ほか、海賊に襲われたペンリックが囚われの姉妹とともに脱出を図る話「ラスペイの姉妹」、義兄が指揮をとっている砦で蔓延する疫病の原因を探る「ヴィルノックの医師」の中編3作を収録。ヒューゴー賞シリーズ部門受賞シリーズ第三弾。

今回は中編3つ。お祭り、海賊、疫病と、どれもいつも通り壮絶に巻き込まれて面白いのだが、ペンリックたちが苦難を乗り越えてるというよりも神に手のひらの上で転がされてる感が強くって、カタルシス薄め。でも前作の恋が無事実り結婚できてて幸せそうで何より。

神が実在する世界って自分だったら、決定論の世界と同じでやる気をなくしちゃいそうだが、神の導き、奇跡だと考えるペンリックが眩しい。神がいようがいまいがやることは一緒なのだけど、そこに感謝できる人間性が美しい。こんな性格だから魔のデスともうまくやっていけるのだろうな。

とはいえ、神とはなにかをもっと踏み込んでほしい。
神は集めた魂をどうしてるのだろう? せいぜい燃料なのでは? としか思えない。そんな人間なので、なろう小説で転生の際、神様に土下座させてたり、チートをねだったりする様を見ると気持ち悪くてしょうがなくなるのよね。

最近気づいたが、ビジョルドの作品、人間を掘り下げる横糸が非常に多い割に、テンポが良くダレない。起承転結自体は間延びしているが、全体をみると美しい。要素一つ一つが魅力的だからなんだろうな。

ロディの仮面祭

魔を宿しパニックになった男を聖者の少女と追いかけるお話。

神をその身に宿し魔を殺す聖者を掘り下げるお話。いったいどんな感じがするのだろうかと想像がとまらない。神がこの少女の幸福のために頑張ってるのが健気で好感がもてる。

ラスペイの姉妹

航海中海賊に襲われ、海賊拠点の島で囚われの身になるお話。

襲われた時点で全力を出せよとか脱出計画がことごとく失敗する所とかやけっぱちになる所とかオチとか終始笑える。ギャグ枠か?
とはいえ、姉妹2人を守る羽目になる原因が面白い。まさかそんなことが可能だとは、と只々びっくり。ロディの仮面祭に引き続き神の手のひらシリーズだが、こっちは打算も垣間見れるな(笑)

ヴィルノックの医師

ペンリックに娘が生まれるも、義兄の砦で疫病が発生し強制連行されるお話。

疫病の発生源、対処法、感染方法すべてわからず、とりあえず上向きの魔法でなんとか対処するだけの日々が続き、読んでるこちらが疲弊しそう。さらにペンリックは鬱で医療魔術師から引退した過去があるので、ダブルでつらい。発症する人間はランダムだし、増加は緩やかだしで、医療モノとしても謎が深まる。
もちろんラストはペンリックの活躍で解決するのだけど、疫病の原因が魔術師特有の盲点で笑ってしまった。手がかりは普通に描写されてるのに、まったく気づけなかったわ。医療ミステリーとしても良いね。ただ、発症後の対処法も見つけてほしかったかな。現場の医者にも見せ場が欲しかったね。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #海外小説 #ファンタジー



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