『塩と運命の皇后』ニー・ヴォ(著)金子ゆき子(訳)
中華的古典ファンタジーの中編2つ。中華古典を現代語訳しました、で通用するレベルなのに、作者がアメリカ人でびっくりだよ。ベトナム系らしいが、ベトナムのファンタジーもこんな雰囲気なんだろうか? ルーツが気になる。
塩と運命の皇后
支配されている国から一人嫁いできた皇后の過酷な人生が侍女視点から語られる。
皇后の死後、封印されていた住居をあらために来た聖職者(正しい歴史を収集する人々らしい)が、先客である老婆にであう。なんと彼女はかの皇后の元侍女で、彼女の口から真の歴史が語られてゆく。
物語が一気に語られるのではなく、聖職者チーと老婆の会話の合間などにちょろちょろと明かされる構成がお見事。壮大な物語が片付けで出てくるキーアイテムと共に小出しされることで、読者は物語をゆっくり咀嚼できる。
歴史の真相がとても信じがたいもので、カタルシス満点。
しかし、彼女の人生、彼女の意思はどれほどあったのだろうか、と考えると切ない。ヒューゴー賞、ポリコレ的な意味もあって受賞してると思うけど、彼女の背後を思うと、女性だからこそ利用されており、まさに搾取なのでもにょっとするな。まぁ彼女達はこの人生に結構満足してるのが救い。
ちなみに、普通に自然に百合展開が差し込まれるのでちょっとびっくりした。
虎が山から下りるとき
聖職者チーが山越えの際、虎に襲われるお話。
幽霊や超常現象が普通にある世界観なのに、塩と運命の皇后では雰囲気作りにしか役立ててなかったので残念に感じていた所、本作では虎が喋りだして大満足(笑)
口八丁で食べられないように時間を稼いでゆく。三枚のお札的お話かと思いきや、そういう工夫はなくて残念。さらに、虎もただの悪者として描かれているあたりが極めてもったいない。とんちを効かせてほしかった。しかしこれは、日本昔ばなしに鍛えられた弊害かも(笑)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?