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COMPLETE BOX Ⅱ-2

こんばんは、のです。
こちらは、今年noteに投稿した詩集をまとめた総集編、“COMPLETE BOX”の後半になります。

前半はこちらから


この企画は元々、1つの記事の中に詞を全てまとめての投稿を予定していたのですが、
下書きに起こしてみるとものすごい量になったんですね笑
なので、前半と後半に分ける形にしました。

こちらには4本の詩集が収録されています。
すべての詞を見てもいいですし、気になるタイトルを目次からクリックして見てもいいですし、
ぜひ、自由に閲覧を楽しんでください!


・詩集 "よるには"

線香花火


線香花火は、気まぐれな月の横顔みたいです
決して目を合わせることはなく
ひれみたいに火花、泳いで消えて

遠吠えする夜は僕らの
陸地を求めて彷徨う想像を
こねくり回すだけ回して
よく分からない笑みを浮かべている


人生は夜に雲が暮れ
そうすれば雲の向う側
真夏日の微熱、何か期待してしまう

右往左往に見える景色に
皮肉が生い茂る前にどうにか
夏の揺らめく川で
君に会って話すのさ 会って話すのさ


抱えられないほどの夏のすべては
夏の終わる頃には、掌ほどに凋んでいくんだ

鯨みたいな躰をした期待も
夏の終わる頃には、掌ほどに凋んでいくんだ


時は過ぎて、坂を下り、川の外れ、手を振って
夏はにわか、飴に溢れ、祭りの後、手を引いて

散りゆく

線香花火は気まぐれな君の横顔みたいです
決して目を合わせることはなく
他人の距離感です、今は何もかも

青と川縁


杞憂の輪郭をふもとから浮かべる
川はいつもそこで優しくあってほしい

僕にとって心の原風景には
山並みと青い鳥の鳴く川縁が映るのです


その輪郭と川を下っていけば
夕日が山の頂にちらつき消えました

時間は本当に一瞬だと感じながら
ささやかな青さを掬って、夜をなぞって帰ります

ワンシーン


風の代わりに溜め息が雲を撫でて
夕暮れへと急かします

スマホのアルバムの青さも薄れていく
そんな日は天井のシミを見つめていた


過去には壁が立つもので
戻れないと思ってしまうほど

そばから壁が立つもので
何も出てこなくなるのです

Writing


ひと月は穏やかに始まったかと思えば
後から激流に化けて、思わず岩を掴むんだ

クラゲの様に泳いでいるのは、
ひたすらゆうゆうゆうと哀しみです。
海のほとり、溜め息をついた


月の肌が渇いて見えてくるよ
夜は哀と楽が紙一重
どうしようもないと明るい方へ

一晩中、歩き回って
心も幾つか、すり減らして
それで本当か偽物か分からない光を
手にしてみても、どこか もどかしい


月も海も渇いた目を見せないで
雲隠れしてほしい
憂、憂、憂と哀しみは
夜空をこの上なく散らばります


導入ばかりがよくて
その後の中身はありもしない暮らし
それも書かざるをえない
一つの暗闇です。

View


夜の仄かな優しさは、
暮らしに伸びる影と紙一重だと
思ってしまったよ。

足りないものが多くて
空いた心の隙間を
何かで賄うこと飽きてしまったよ。


狸寝入りで寝返りを打って
星と月をずっと見ていたら
今すぐにでも
明日になったりしないかな。

目も頭も冴えてしまって
ぐるぐる回る、休みたいのに
そうなったら仕方ないよ、
2時間くらいは眠りたいけど


朝が一滴でも瞼に触れたら
それはそれで気怠そうに
起き上がって、朝のテレビを見て

昨夜のことはどうでもよくなり
笑っている顔が浮かぶよ
そんな自分を分かっているんです。

嵐の夜


雷のふる夜は花も家の屋根も
魂が抜けたみたいにそこに佇んでいます

細々とした夢の奥へ向かう船は
とっくに行ってしまった

狂った嵐は続く ここで何が出来るだろう


嵐に吸い込まれそうな文脈に
透明な凧糸を張っては眠れもしない夜

漠然とした頭に光が流れ込んで
やがて朝になると知っても眠れもしない夜

人に、街の会話に、揺れる日々がいっそ愛おしい


こどもの頃と、時が経った僕との間に
引いた黒い黒いボーダーライン

それは太くなって、壁になって、
ふいにノックしても何も言わなくなって、


主軸のない言葉を散らして、狭い夏が来る
浪漫の青い海にも引いたボーダーライン

それは影になって、頼りも掴めずに、
重くのしかかって、のしかかって、


どうしよう、いつでも傍にあるくらいの距離感が
何よりだったのに、気付けないでいた

(たいでいなけ付気、にのたっだりよ何
が感離距のいらくるあに傍もでつい、うよしうど)


何も言わなくなって、主観のない波に揺れた
君をわすれてしまったらさ

(さらたっましてれすわを君
たれ揺に波いなの観主、てっなくなわ言も何)


    …。

最終地点


最終地点で汚れた靴を洗おう
最終地点で疲れた髪を拭おう

僕らそれが運命だったか
そうじゃないのか分からないけど
星の道を旅していた


固まるだけ固まった未来
青いだけ青かった世界

それが運命だったか
そうじゃないのか分からないけど
そこに居たんだ


窓から光は俊 敏 に  な  っ  て  く
僕は、信じることからはじめなきゃ
君のこと、全てのことに
殻のなか、留まってばかりだったんだね


窓辺の水
   滴
    に
       文
         を 書いてみる

僕は、最終地点に気付けば居たんだ
扉を下りて、点々としたかつての街も
ここでは優しい気持ちになれたんだね


最終地点で汚れた靴を洗おう
最終地点で疲れた髪を拭おう

僕らそれが運命だったか 
そうじゃないのか分からないけど
分からない侭でもいいんだ

筏みたいに


夜が明けてしまった
ずっとずっと暗い星の海を
じっと握ったオールだけで
泳いだ 泳いだ 夜のいかだ


覚めないのは光の裏に
張り巡らされた瞑る顔です
瞼を開けて 澱んだ夢から覚めて


君の声、聞かせて
夜の向うに踊るあの雲に
確かでない歌を聞かせて、

君の声、聞かせて
銀色の山並み思い出して
確かでない歌でも聞かせて、


君も僕もスズメの鳴く朝も
すべては偶然なのかも知れないね
それでもいいと
赤らむ朝を手繰り寄せるよ

面影は泉で


はしゃいだ音の輪郭が
裂罅れっかして出来た隙間に冷たい風が吹く
今、微々、日々の夢のなか
今、微々、日々の夢のなか

間違う夜の輪郭が
裂罅した出来た合間に寂れた塔の揺る
昨夜、微熱でしたためた文字を包み
泉の底の朝に問う

僕の面影だけ、面影だけ、面影だけ
夢にとけ

君の面影だけ、 面影だけ、 面影だけ
   空
  に
 浮


僕の面影開け、面影開け、面影開け
夢にとけ

君の面影明け、 面影明け、 面影 明 け
   空
  に
 浮


今、微々、日々の夢のなか
今、微々、日々の夢のなか
今、微々、日々の夢のなか
今、微々、日々の夢のなか

・詩集 "りんかく"

波止場


波止場は静か
作業は終わったみたい

オシャレなあなたの耳飾りだけ
ふいに吹いた風に揺られていた


ちいさなカニが居るのか見たくて
そういえば海に来たんだっけ

岩場があまりに波打つから
変わって波止場に来たんだっけ


心は漠然としていて
何秒か経つとわすれてしまう

あなたもそうなのかな
いや きっと違うよね


波止場は静か
すこし温い風が吹いていた

僕らはそこで草木のように
じっと立って浴びていた


オシャレなあなたの耳飾りだけ
風に揺られていた

Midnight


ただただしずかな街の夜 
まるでオアシスもなく彷徨う砂漠
思わせぶりな木々がなびく 
此処に来て何年目だっけ

ゆらゆら空を迷う星 僕はそれを見上げた
ぎこちない浮遊感と この街で生きている

今日も今は昨日だっけ 
感覚もどこか掴めない夜を
人も星もおろおろとして 
流れていくよ仕方なく

君が日々どう感じながら 
この街を歩いていたのか
仄かな輪郭を確かめながら 
それでも分からないながらも続くよ


夜は、緩急の規則もない川のように
早まればゆっくりと
信号機の色彩が道を
ただただチカチカ照らしながら続くよ

喉から出ない儚い言葉も 
明日に目を瞑るほどの悲しみも
すべての面影も乗せて続くよ

そういうものなの


すべて自分の思う侭の世界 
それはそれで、もう
どこかで止めたくなりそうで 
じゃあどうしようかと言われても

答えに迷うな 今は出ないな 
これからもきっと出ないな
そういうことを感じながら 
朝をずっと待っていた


夜の寂しさ何千里 上り下りの激しい坂みたいに
早まればゆっくりと
信号機の色彩の下 
人も通らない様でも続くよ

喉から出ない儚い言葉も 
今にやってきそうな悲しみも
すべての気楽も乗せて続くよ

夜は、緩急の規則もない川のように
早まればゆっくりと
信号機の色彩が道を
ただただチカチカ照らしながら続くよ

喉から出ない儚い言葉も 
明日に目を瞑るほどの悲しみも
すべての面影も乗せて続くよ

そういうものなの

微熱で


微熱に夜起きてしまった
ひたすら朝が来るのを待ちたい
水を飲み干しても 足りないから
やっぱり眠りたいけど

耳元で生ぬるい風は
法螺ほらを吹かないで
その侭でいてほしい
その侭でいてほしい


"Good night's sleep"
今は願うだけです
夜景は喉を通っても
やがてはいっぱいになります

"Good night's sleep"
今はメリーゴーラウンドみたいに
回遊する夜の刹那が
目に沁みるだけです

花火と僕ら


確かな夏、かぞえていったら
一つずつ消えていきそうです
河川敷のいつもの場所で
待ち合わせするのは毎度のこと

ここで白銀の火花が開いたら
なにかを知っていきそうです
心の内側、自分だけのこと
自然と話しそうになります

手を振った物事を
引き寄せたら手に汗握る
それだけはいつの日も変わらないこと


垂直に打ち上がって い く 花 火 の 軌 道 を

柳みたいに頭
      を
       垂
        れ
         た
          花火の軌道を

散 り散  りに なっ  た
 の む れ  を

どこか自分に重ね
      重ねて

確かな夏、またかぞえていったら
一つずつ消えていきそうです
二人何も言わなくなるのは
緊張しているわけじゃないのです

スパイス


わすれたふりが上手いから 
なんてことないと思うのです
でも君のこと、それでも時々思い出すのです

歩く度、身に着いた知恵は 
悲しい時に役立つけれど
でも君のこと、それでも時々思い出すのです

直接的な感情と机の前で向かい合って
言葉に起こして 言葉を丸めて 
雑念の無いよう届けたいのに

君の世界は遠くでゆれる陽炎みたいに 
掴みどころがないから
ある種の幻の外で 自分は爪で脛を掻いて
言うか、言わないか、
頭をぐるぐるさせて思っているのです

話してみれば、例えば曖昧さもスパイスなんです
正直に伝えるほど、自分で自分を
どうしようもなく思ってしまうから、
曖昧さも言葉にまぶして
遠くへ消えない内に 君に伝えたいけど
それでもいいのかな


まだまだ暑さは続くらしい 
それを紛らわすために
キッチンに立って、冷たいスープを飲んでみた

そしたらふいにドアをノックして、
あの日の髪なびかせて
現れたりしないかと思ってしまうんです

直接的な感情を頭の中で飼い慣らして
なるべく表に出さないよう 
なるべく笑って届けたいのに

君の世界は砂漠をよぎる蜃気楼みたいに 
掴めないから
ある種の幻の外で 自分は指で弦を弾いて
歌うか、歌わないか、
頭をぐるぐるさせて思っているのです

話してみれば、例えば曖昧さもスパイスなんです
正直に伝えるほど、自分で自分を
どうしようもなく思ってしまうから、
曖昧さも言葉にまぶして
遠くへ消えない内に 君に伝えたいけど
それでもいいのかな


爪で脛を掻いたのは
夜に暇を持て余したからでなく
どこかで気を紛らわせようと
思っているからなのだろう

瞼を閉じれば その分だけ 
膨らんでいく理想像の中
自分はどこにも居ないこと 
分かりたくなかったのだろう


空から零れる雨で 
月は暗がりの雲に隠れてしまった
朝になれば街行く人に 
右往左往に酔ってしまう

かかと、確かに地に着いているのに 
すべてがうねりにうねって見える
上手く言葉に言い表せないから 
紙に文字を書いては消して


どこが起点か侮れない 自分の向かう先は
今はまだ
遠い、
遠い、
遠いとしか
言えないのはいつものこと

どこが起点か侮れない 自分の向かう先は
今はまだ
近く、
近く、
近くないとしか
言えないのはいつものこと

何も思えなくなったらどうしよう
何も思えなくなったらどうしよう
何も思えなくなったらどうしよう
長く伸びた爪がきらきら輝いていた、明けない夜

蝉時雨


そうだね 虫の眼で
桃源みたいな街を観る

きらびやかに光っては
やがては醒めていくのでしょう

視野が まだなれないな
だから まだ曖昧です。

あの飛行機雲 模様
もっと先の澄んだ未来


儚いような思い出も形を持ちそう

そんなことを感じる
感じていた日々だって

夢のような街でまた、
いつしか きっと薄れてく


蝉みたく 蝉みたく
一夏の思い出よ

笑い合った思い出も
君のなかで霞んでく


分かってる

分かってる


そうだね 虫の眼で
桃源みたいな街を観る

きらびやかに光っては
やがては醒めていくのでしょう

視野が まだなれないな
だから まだ曖昧です。

あの飛行機雲 模様
もっと先の澄んだ未来

疾走


真っ白な朝を急ぐ 脳はとうに渦をまいて
何も無い無い感情がやがて青を掴むのを期待して

真っ白な朝を急ぐ 脳の憂いも渦をまいて
それすら掻き分けて 走る 走る 走る


夜の焦燥こねくり回して 
どこで線引きするか わすれてしまうほど 
今日の僕はなんだか違う気がする

額汗ばみ 向かう朝の先
今日の僕はなんだか違う気がする 
それも心地いい
渇いた心 まるで水を浴びたみたい


どこまで来たのか いつもと違う世界
僕を手招きした新しい世界
人の波の間 すり抜けて
遠のいていたはずの青を眼下に

息継ぎする毎に 離れた言葉を思い出す
より鮮明に 風に交じって


夜の焦燥こねくり回して 
どこで幕引きするか 二の次になるほど 
今日の僕はなんだか違う気がする

額汗ばみ 向かう朝の先
今日の僕はなんだか違う気がする 

まるで風に乗り
潤んだ心 果実が開けたみたい


真っ白な朝を走る 脳はとうに一つ確かなこと
繰り返し確かめて 話してみる今に 今に

夏日


僕はしずかに靄になって
街の肌を撫でてみたい
重力も感じないくらい
銀河の庭で遊んでみたい

果実みたいな目の奥の
青い芽吹きは西に消える
そういうものなので
そういうものなのです


バイバイ 面影を込めた歌
バイバイ 待ちこがれた夏の日
夢の心地 熱が伝った
ダンスホールの人人ひとひとたち

バイバイ 掴みどころのない
魚影みたいな汗のながる手も
僕にとってこの世界は
今すべてが半透明です


僕はしずかに夜にとけた
街の灯をより濃くしてみたい
重力が下ってくるまでの
合間に命を踊り散らして

猫を見る


河川敷で猫を見ていた
少々の憂鬱が頭の上で雲みたいに浮いているけど

河川敷で猫を見ていた
喉を鳴らしてどこかへ行きたそう

画面を開けば目の奥まで物事の翳りが
沁み付いてしまうくらい 暗闇は多くてさ

それもわすれて
ちょっと寛ぐ時があってもいいからさ

自分の些細な日々の描写は題も付かずに
線画の記憶になるうるかもしれない

これから先 その記憶の輪郭を
思い起こすことがあるのかないのかも
どちらでも

今、河川敷で猫を見ていた
気にしないで空を仰ぐ猫を見ていた
猫を見ていた

蜃気楼、ゆめのかたち


ずっと前、ずっと前の夢をふいに掬ってみた
それは夜には消えてしまう 刹那的で
夢をここで飲み込んだら 心の底から喜べるかな
庭の蝉に急かされて 夏のすべてを掴みたくて


ねじる感情 うねる哀愁 
靄みたいな雲 鳥がその中へ
夢のかたち 夜はうんと
深い 深い 深い 深い

朝になって この世界は
蜃気楼になる気配を秘めて
時間は止まることなく 針は続く


夕日と猫の歩く先 そこは今を重ねた街
何年目かの夏が今年もそうして終わっていくから
夢をここで飲み込んだら 心の底から喜べるかな
眠る猫の目が光る 夏のすべてを掴みたくて


ねじる感情 うねる哀愁 
靄みたいな雲 夜が突き抜けて
夢のかたち 目の奥はそう
深い 深い 深い 深い

朝になって 蜃気楼 
それが幻でも何かを求めて
時間はそれでも止まることなく 針は続く


ずっと前、ずっと前の夢をふいに掬ってみた
それはいつでも消えてしまう 刹那的で
夢をここで飲み込んだら 前を向いて笑えるかな
そこで水面をゆらいでいる 蜃気楼を見ていた

距離感


嘘の話でもいいから 気持ちの沈む夜は
控えめでいいからさ 君の声が聞きたくて
春も夏も過ぎていって 秋も冬もあっという間で
気持ちの沈む夜だから ちょうどよい距離感を
改めて感じたい 

僕の方はというと上手く言葉が返せないけど
これから話すことが一歩先の未来になることを
知っているから 
振り向き様におどけてみせて

あの季節も この季節も 
混ぜ合わせた話を作ろう
暗い扉を朝がノックするまで
二つの心はしずかにゆれる


古くなる記憶が新しいものに変わるとき
隅っこでぼんやりしていた
誰かに会えたりするのかな
懐かしいことばかり そこで話せたら
昔のように分かり合えるのかな


僕の方はというと僕自身にも嘘を付くけれど
それでも未来を向けていると
君はきっと言うからさ
僕もおどけてみるよ ここで笑ってみるよ

あの季節も この季節も 
混ぜ合わせた話を作ろう
暗い扉を朝がノックするまで
二つの心はしずかにゆれる

僕の方はというと上手く言葉が返せないけど
これから話すことが一歩先の未来になることを
知っているから
振り向き様におどけてみせて

あの季節も この季節も 
混ぜ合わせた話を作ろう
暗い扉を朝がノックするまで
二つの心はしずかにゆれる

こだま


纏めの付かない言葉で あの夏を想う
逆立ちしてゆらめく この夏も想う

夕暮れ 散らばる 散らばっていく
散らばった侭の 魚の様に泳いで行った

素直に夜には帰らなきゃだね 
土手で浮かべた表情
何となく何でもない顔をそこで見せた

もっと笑ってみたら 
その途端に時が素早く捲れて 綿毛になって 
どこまでも行ってしまうんだろうって


木霊した夏 水面がリバーブした日々
零した溜め息の数だけ 加速していった日々
面影は薄まったり、また思い浮かべたりして
青すぎた世界を駆け抜けていった

木霊した夏 いつもより水面がリバーブした今日
ここに確かにあった物
紛れもなく煌めいた物


夜には足を急がなきゃだね 
俯きがちになる表情
何となく何でもない顔をここで見せた

もっと笑ってみたら 
その途端に時が素早く捲れて 綿毛になって 
どこまでも行ってしまうんだろうって

波止場-2


心は漠然としていて
何秒か経ったらわすれてしまう
それはあなたも同じなのかな
いや きっと違うでしょう

ちいさな蟹が居るか見たくて
夏の終わりに海へ向かった
波打つ岩場に術はなくて
変わって波止場に来たんだったね

これ以上 幸せが消えていくのを
止める為に 悲しみを堪えてみたんだ
ただでさえ 曇り気味の空が
より暗くなって見えたんだ

自然にしていた方がいいんだって
気のせいじゃないからね

海の音に 繰り返し耳をすました
午後は下り 夜の気配の波止場
風の音が 繰り返し耳を包む
午後は下り 夜の気配よ波止場

・詩集 "わたくし"

intro


やっと朝が来たから言えることがある
曖昧な言葉の枠じゃ伝えられなかった事
冬の静けさに見える誰かの事
爪先立ちで俯瞰しなくていいすべての事と

あくる日もここはユニバース
いつもと変わらないユニバース
朝日をめがけて伸びる猫
めくる雑誌の1ページ

微笑ましい話が続き、
コーヒーを混ぜて飲んだ日溜まり
いつもと変わらないユニバース
あなたとはまた夢の中で会えるはず

春の気配に耳を澄ます、きっとまた会えるはず

鍵盤と春の気配


“二人”をイメージしたら何も浮かばない
“一人”をイメージしたら浮かびはじめた
鍵盤に向かうと心の湖畔 波打つ予感
東雲とした春の日に 安寧の川に咲く

表情は水流に乗り 雲間に笑う 海に立つ
鍵盤から春の気配 確かに呼ぶ 背に伝う
真っ白な鍵盤一つ 音は流れて 雪に触れ
膨大な雪原の中で 新しい芽が 顔を出す

さぁ まっさらからはじめようと
机に向かうはいいものの、どこか
らはじめよう、本に挟まる白い栞

まっさらからはじめようと机に向
かうはいいものの、どこからはじ
めよう、本をめくる汗と白い栞。

比喩じゃない


その僅かに比喩じゃない波打ち際で僕たちは
何を語って、何を感じて、
海に見とれていたのだろう
幸せというのは確かなもので
これからだってそう

夕日の幕が下りるその波打ち際で僕たちは
何かを語って、何かを感じて、
海をながめていたのだろう
水平線に霞むくらい羽ばたく鳥も
これからだってそう

伝えたいことは、脈絡は、
ずっとずっと比喩の中で
気付いてほしい 気付いてほしくない 
果たしてどっちなのか
自分でも分からない 分かってほしい 
どれもきっと等身大
波打ち際の僕たちは静けさに包まれた侭

伝えたいことは、脈絡は、
ずっとずっと比喩の中で
波の近付く、その刹那 掻き消すような波音に
本当のことだけ 本音だけ 
どれもきっと等身大
言ってみたい 
まだぎこちない距離感を破れない侭

その僅かに比喩じゃない波打ち際で僕たちの
夕日の幕が下りるその波打ち際で僕たちの
幸せというのは確かなもので
これからだってそう

Moonlight


目を瞑ったら月の世界
銀色の球体が熱を帯びたこの世界
今日はいつもより会話の中で嘘を付いたから
本に挟んだ栞の先、あんまり読む気が起きなくて

そんな夜の僕にだって月は今宵も歌を込めて
木々の隙間から滲む灯りを
僕に届けてくれるのです

夜はひっそり歩き出す
すべて持って行ってしまうくらい
外は寒いから重ね着をして
一応傘も持参して

僕は部屋から抜け出して
少し曇天の午前2時
更新の止んだタイムラインと
いざ歩き出す月の歌

そんな夜の僕にだって月は夜毎よごとに歌を込めて
木々の隙間から滲む灯りを
僕に届けてくれるのです

夜はひっそり歩き出す
すべてわすれてしまうくらい
深く眠る街で独り言の様に
朝を目指している

僕は街から抜け出して
朝靄見える芝生へと
寝転ぶ頃には明ける空
静けさを繋ぐ月の歌

目を瞑ったら月の世界
銀色の球体が熱を帯びたらこの世界
双眸そうぼうで渡る理想郷

到達点


一人はいやだ
そこで寂しい空気の塵を掴もうとした
一人はいやだ
自由なはずの空に嘆いた 空に嘆いた

海の上 浮かぶ月
錆びた言葉 錆びた侭ゆれた
轟音の夜 目にした光は
鯨の様に過ぎていった

飾らない感情を ぎこちない喜びを
帰り道の川の流れのような寂しさから
目が覚めたら ここは楽園だよ
存分に遊びなよ 夢心地の青の中

思い出の繭を破った僕は面影と踊る
事柄の到達点は光に満ち溢れていた
水平線はまどろみ 渦潮は回る
そして夜に火をくべる

思い出の繭を破った華麗な羽根は誰の物
事柄の到達点は光に包まれていた。

期待は気体


期待は気体になるよ今
獣の光る眼のような夜に
期待は気体になるよ今
そして遠くに瞬く光を追っていくんだ

数えたのは、急勾配な過去の憂鬱の事
心の湖畔に浸透する煌びやかな水を求めている
数えたのは、雲間に見える灯火に似た夕暮れの事
心の湖畔、波打つ予感、波打つ予感

期待は気体になるよ今
地面の影と影とだけ重なる遊びに耽る
期待は気体になるよ今
垢抜けないそんな自分は

ネオンの表面を噛むような雨
束ねた存在しない季節の記憶
そのすべてをひっくるめて
意味に輪郭を付けた、付けた

数えたのは、急勾配な過去の憂鬱の事
心の湖畔に浸透する煌びやかな水を求めている
数えたのは、雲間に見える灯火に似た夕暮れの事
心の湖畔、波打つ予感、波打つ予感

期待は気体

気体は期待

October


目が覚めたらいつもと変わらない日々が流れ出す
光をこねる草木と
とぼとぼ髪を靡かせた僕の
生活が歌い出す
波間のように上下に沿う山並みも
ずっとその侭だ

昨日の入道雲とすれ違った
さっぱりした空模様
動物みたいな雲も見られる

僕は無気力に歩く
ぎこちない喜びも手にしながら
空気の踊るような
ギターの音が響く街を歩けば

継ぎ接ぎな言葉でも
僕は思い入れと秋を歌う
この季節の温もりのために
火を絶やさずに
火を絶やさずに

夕方の鐘が鳴ると
カラスの勘が言っている
ゆっくりと急ぎがちな夜のために
火を絶やさずに
火を絶やさずに

昨日の入道雲とすれ違った
さっぱりした空模様
動物みたいな雲も見られる

僕は無気力に歩く
ぎこちない喜びも手にしながら
空気の踊るような
ギターの音が響く街を歩けば

空想


本当に思っていることはあえて言わなくていいよ
知らないことの一つや二つあってもいいから
眠れない方角に石を飛ばして忘れてしまおう
砂漠みたいに朽ち果てた僕だけの頭の中

獣みたいな声が唸る夜、
宛ての無い暗闇を蠟燭だけで突き抜ける為の
知恵を捻り出している
そこには何も無い
でも宛ての無い暗闇を突っ立っているだけの
理由はいくらでもある

夢の中の自由さで
喧噪の真ん中に光が浮かべば、怖いものは何一つ無いだろう
それはそれできっと楽しいだろう


行かなきゃ
すっかり霞んだ空にまばゆい策を編み込んでいく
空想だけ一人歩きでも
その背を追っていく

もどかしさもここでは燈
ラストシーンにも愛を込めて
空想だけぐっと握って
心の影を追っていく


夜はいつでも過ぎる雷いかずち
足早の人 遠い理想郷
まだ宛ての無い暗闇を突っ立っているだけ

夢の中の自由さで
底の無い夜の窮屈を
指の差す先に日が昇る
重ねた憂いを投げ出したら
まだ知らぬ空の匂い


行かなきゃ
晴れ間に向かう空にとっておきの知恵を編み込んでいく
一人歩きの空想を起こす
そこに行き交う電気の波へ

もどかしさもここでは光
ラストシーンにも愛を込めて
創造だけぐっと握って
余白の街を塗りたくっていく


何度目の夢を
何度目の夢を走る
何度目の夢を
何度目の夢を走る

ライター


おはよう、一年前を思い出す
まだ拙さに隠れた日々は
何かがあって何かがなかった

おはよう、百年前を思い出す
思い出す、思い出せる?
何かがあって何かがなかった
昔もそれは同じだった?

あなたの後ろの冬の気配だけ
ずっとずっと感じるよ
空想だけひとり歩きの
ひとりぼっちの世界はきっと
一年、二年、百年と
寂しいことに変わりはない

ここですべてに別れを告げても
ひとりでいることに違いはない
慣れないことは増すばかり、
ただ笑いたい、笑いたい


正真正銘 あなたの世界は
風車の羽根にちらつく晴れ間の透明な光のように
蕾から育み、花開いた世界だ

僕はそこに立ち、残した言葉の鉱脈を辿り
より知りたくなる、本当も嘘も
すべて含んだ、瞬く間の未来


おはよう、一年前を思い出す
あの静けさに急いだ日々に
雲間の欠片が抜け落ちていった

おはよう、百年前を思い出す
思い出す、思い出せる
会話の紐を解くように
日々のパズルはめるように


あなたの後ろの冬の気配だけ
ずっとずっと感じるよ
空想だけひとり歩きの
ひとりぼっちの世界はきっと
一年、二年、百年と
寂しいことに変わりはないけど

影だけのあなた、影だけの僕、
すれ違う時は二人の気配
泡沫うたかたの砂の上に立ち、
ただ話したい、話したい


ここですべてに別れを告げても
あなたが居たことに変わりはない
また笑いたい、笑いたい
ここにライター一つだけ

outro


靴も無く どこか行きたそう
猫の気持ちで見上げた朝は
優しい心 優しい命を込めた
ちいさな夜月、夜月

自分の外でそよぐ言葉の最先端
目指して歩く 閑静な街
君のこともわすれていないよ
きっと遠くどこかで見ていて

目覚めはいい 何も怖くない
服を重ね着したら 暖かい
水色の空 何も浮かばない
それは何だか自然体

“どうか今日も晴れていますよう”
羽ばたく鳥の空に祈る
鬱蒼とした夜を超えたら
どんな自分もすきでいれるよう

自分の外でそよぐ言葉の最先端
目指して歩く
ひとりでもぼっちでも軽い気持ちで歩く

君のこともわすれていないよ
この街を時々思い出して
そこで見ていて

・詩集 "あのひと"


アドベンチャー

勘が冴えたこの夜に 転がる雨に気が付いた
闇夜の眼差しに含まれた
光の世界はアドベンチャー
僕の影踏む過去の誰かと隣り合わせに歩いた道に
迷い出した鼓動とあの人の気配。

僕の夜、出来うること、そのすべてを話しても
足りない理想の海に靴のまま浸かってみても
僕の世界を破れずに、飛べないことを分かっても
透明な羽根纏う、そういう気持ちでいたい

行けば行くほど、後ろの騒めきが気になる
この夜の俊敏は寝言の跡地を走り出す
行けば行くほど、朝靄は
いつもの場所に差し掛かる
この旅の到来は、眠りについた日を通り抜け
空白に塗りたくる手の平を躍るあの未来

連綿の日々は炎天 声が全速力で突き抜ける
川縁を描く、青い昼間を急ぐ
微かに笑う高架下、頬に足る斬新を
叢雲むらくもを仰ぐユーモアと流れ流れ夜が来る

行けば行くほど、後ろの騒めきに色落とす
この夜の1秒はきっと言葉の奥底を轟く
行けば行くほど、朝靄は
いつもの場所で振り向く僕を包み込む
蒙昧を飛び出す

勘が冴えたこの夜に 転がる雨に気が付いた
闇夜の眼差しに含まれた
光の世界はアドベンチャー
耳に入る音楽は 転がる雨に名を付けた
闇夜の眼差しに含まれた
光の世界はアドベンチャー

露光

遠い場所で咳を一つするあなた
それを朝が1時間早く来る合図とか
大きな視点で考えてみて、暇をつぶす夜
同じく遠い場所で咳を一つする自分は
さらに1時間、朝を早くする

山道をカーライトで下るように息をする
それは夜の独り言、あなたに対しての独り言
もうすぐ家が見えてきて、あなたのことも
じきに見えてくるだろう、そんな夜を重ねていく

轟音は希望の形をしている
あらゆる意味に輪郭を付けた夜の独り言
あなたに対しての独り言
もうすぐ空は白い気配で、
眠りの中のあなたの影も
じきに見えてくるだろう、そうして朝が来る

迷いと世界を行ったり来たり、
迷いと世界を行ったり来たり、

雨の轍

雨の轍消えた此処で
かの日の紅
忘れられないくらいの銀世界の虹
思い出した
君の話一つ聞かせて
嘘でもいいから
君の顔浮かび出した
アスファルトに立つ

ごめんね、そこで言葉の渦に
僕は回って夜な夜などこか
遠くの朝の踊る薫り
そこに居るからそこに居るから
カーテンの前で蹲る僕が重なる地平
君の話一つ数えて
日常の朝


雨の轍消えた此処で
かの日の儚い
忘れられないくらいの黄金の束を
思い出した
僕の話いつの間に翳り
本当の挟間
君の顔浮かび出した
雨上がりに立つ

ごめんね、そこで言葉の渦に
回る僕らは夜な夜などこか
見えない段差に手摺りを掴み
そこに居るからそこに居るから
カーテンの前で蹲る僕が重なる地平
灰色の壁の向こう
日常の朝

雨の轍消えた此処で
かの日の紅
雨の轍消えた此処で
かの日の儚い

雨の轍消えた此処で
かの日の紅
雨の轍消えた此処で
かの日の儚い

題名のない…

通り過ぎた
ほむらみたい、赤い、赤い雲
夜の帷と
花の見える川面へ
きっと僕の言葉は泥濘
行ったり来たり、行ったり来たり
それでも伝えたいな
伝えたい


題名のない…
題名のない気分は
今を逆再生して
すべてやり直しそう
題名のない…
題名のない寝言に
例えば、例えば
誰かを思い浮かべて


鮮やかに、鮮やかに
土手から見えたスターマイン
そうきっと知っていたはず
布団に入る前に
電柱、その先を照らす窓、眠る空
そうきっと知っていたはず


題名のない…
題名のない気分は
歌を逆再生して
違って聴こえてきそう
題名のない…
題名のない独り言に
例えば、例えば
意味を任せて

題名のない…
題名のない気分は
今を逆再生して
すべてやり直しそう
題名のない…
題名のない寝言に
例えば、例えば
誰かを思い浮かべて

例えば、例えば
誰かを思い浮かべて
色紙の隅に
書き出してみて

フレンドリー

ひとりぼっちを上手く消化できずに 
仕様のない悲しみだけ浮き彫りになる
底が抜けたらもう止まらない 
どこまでも行けるのか
夜が近付いていく 
暗い気分に暗い気分を上塗りして
物憂げな素振りを髪に隠して、ひたひた歩く

激しい銀河の慟哭 暗闇を帯びてそっと包んだ
達筆な月の輪郭を 続く山々を目でなぞった
ひとりぼっちの世界は まるで広くて 何でも置ける
でも寂しさと比例する 空回りの期待も膨らみ続けて

僕の話はすべて嘘さ
そう言って、いっそ手放したら
誰のことも気にせずに居られるから
ひとりになりたくないのに矛盾しているな

疲れても羽を休めず 心の上の灯火が
より轟轟と焚ける方向へ
まだ絵に描いた気持ちで駆ける
確かな鼓動と感覚を掴んで 
風は内から外へ沸きでる
心だけこの時代を先取りしていく

固い地面はまだ夜の蒙昧 最後方の中にいる
より深々と街は翳って
見えない灯りの鉱脈がひそむ
頭では出口があること分かっているのに
そこから早く出たいのに 
矛盾をどこかで重ね、重ね

激しい銀河の慟哭 暗闇を帯びてそっと包んだ
達筆な月の輪郭を 続く山々を目でなぞった
ひとりぼっちの世界は まるで広くて 何でも置ける
でも寂しさと比例する 空回りの期待も膨らみ続けて

踊る言葉たち 僕に見せてほしいよ
可能性の彼方まで 追っていく 追っていく
踊る言葉たち 僕に見せてほしいよ
可能性の彼方まで 追っていく 追っていく
闇と

日蝕

とりあえず一人を貫く
一人は、それは気楽だけれど
色々とすり減ることがある

仕方ないとばっさり捨てた過去は
まるで煙のように薄暗い
星は点々と
月の名の船は終着へ

通り過ぎた記憶はまるで
近くて遠い道すがら
見つめるガラスは鏡になって
立ち竦む僕と日蝕を写し

枝垂れ柳のように街を灯す
照明の中を汗ばみ急いだ
幼気な月とたがう明日の風は
心の波間をゆらす

おおよその幻と影を踊らせた指で
今までに呟いた言葉を弾いた。
忘れた約束の続きは夜へ向かい
塔のように見据える月に思い出そう

仕方のないとあっさりとけた過去は
ここで火のように暖かい
星は閃光を
月の名の船は早朝へ

通り過ぎた記憶はまるで
刹那の桃源郷
見つめる鏡はガラスになって
立ち竦む僕と日蝕だけ浮き出る

春の名前

軋んだ冬のブランコに名前を落としてきたらしい
そのまま遠くへ来たもので、心配そうな君
隅々まで名前のある世界にもうすぐ春の兆し
浮かない顔をする君にも、そのうち春は来るからさ

心配しないで、道は延々と柔らかい言葉だけ映すけれど
君の中では、そういうことじゃないだろうことを分かっている
君の名前を見つけることが宿命なんだと思っている
春の兆しを見つけたときは孤独ではないと思ってほしい

今、目に入る甲高いノイズを抜け出して
空回りの街の混沌、掻き消してみせるから
君の心が映す悪夢をここで忘れられるように
ネオンの中で望みだけを照らし出すから


おののかないで、道はそこから柔らかい方角を示すけれど
君の中では、そういうことじゃないだろうことを分かっている
君の名前はずっと昔の冬の景色を漂っている
春の兆しを見つけたときにイニシャルがふと浮き上がってくる

今、目に入る甲高いノイズを抜け出して
空回りの街の混沌、掻き消してみせるから
君の心が映す悪夢をここで忘れられるように
ネオンの中で望みだけを照らし出すから

過去を回想する、その中に君は居るんだ
ここで記憶を書き起こしたら
見えてくるんだ、君の記憶も、

加速する夜の轟音に思い出す君の記憶は
紛れもなく僕を色めく春だったんだ

君の名前を見つけることが運命なんだと思っている
一人だけの春の日に名前を呼びあえるよう

桟橋

桟橋に船が着く頃
夜は徐々に熱帯
眠りの横にながる風を聞き
残る季節を指で数える

この生活の路線図は
膨大でまだまだ端のない
どこまでも道を描ける
そう駆け抜けていく

星羅の夏を響くあの日、花火の音
羽をゆらす鈴虫と隣り合わせ

桟橋に船が着く頃
夜は徐々に薄白を帯び
水面に映る顔を見て
髪が伸びたことに気付く

この生活の路線図は
壮大でまだまだ知らない
どこまでも声は駆ける
そう駆け抜けていく

星羅の夏を響くあの日、漣の音
街の隙間を縫う意味と隣り合わせ

朝陽が昇り
次第にとけ込み
夜の片鱗を持ち寄り
そう駆け抜けていく

朝陽が昇り
次第にとけ込み
夜の片鱗を持ち寄り
そう駆け抜けていく
桟橋に船が着く頃

ラストシーンの向こう側

僕らの最深部のあの夏は欲しがったって手に入らない
最初から無いものだって思った方がいっそいいのかと思ったりもしたよ
よくある話を積み上げたその何気なさを振り返ることしかできないのだと

自転車に乗ってどこまでも行けそうさ
風に髪を泳がせて、全力で息を吐いたあの人の背はあの時のまま
段々自分だけ大きくなって、街と変わって、

あれから何年目の夏だっけ すっかり世界は別の物
時には恍惚とした日々に笑ったりもするけれど
記憶の中のあの人は僕に振り返らずに
眩しい後ろ姿だけを見せてはとけ込んでいった

僕らの最深部のあの夏は欲しがったって手に入らない
ラストシーンの向こう側に気付けば僕は居たみたいだよ
よくある話を手元に寄せたその何気なさを振り返ることも寂しいのだと

紙ヒコーキを飛ばしてどこまでも行けそうさ
心はいつも海岸沿い、音の無い凪のように緩やかで
段々自分だけ波打って、波打って、やがては変わって

あれから何年目の冬になるっけ すっかり世界は別の物
時には雪ふる道のりに笑ったりもするけれど
その分記憶のあの人は薄れていってしまうから
眩しい後ろ姿だけ靡かせてはとけ込んでいった

あれから光の青い方ずっと追っていたんだって
すっかり世界は別の物 それでも視界は前に伸び
あの人の居る遠くの街との縫い目が解けてくれますよう
ラストシーンの向こう側にも愛を込めて

僕らの最深部のあの夏は欲しがったって手に入らない
ラストシーンの向こう側で僕らまた会えたらさ
自転車に乗ってどこまでも行けそうさ
風に髪を泳がせて、全力で息を吐いた
あの人の背と

ただ、春風。

遠い汽車は海岸沿い、あなたを乗せて走り出す
背中にゆれる葉桜の春を影のように落としては
どこまでも見送ったのは、言いたかったことを
言葉よりももっと近付いて伝えたかったから

それは伝わらない、きっと伝わらない、
僕のとっくに錆びついた心の蓋をしずかに開けたのは
紛れもないあなた、紛れもないあなた
車窓にゆられて眠りにつく頃、外は夕凪

今此処で、春の空気をようやく感じる、春の空気をようやく感じる
サイダーみたいに透明な泡が弾けだしていく春の空気を
頬いっぱいに吸い込んでみた
君の街へと、汽車と駆け抜けていく萌芽の風よ

右左に踊る絵空事、胸に秘めているんだ、長らく
いつしか砕けて消えてしまう未来の裏で
再会のコードを弾いているんだ、おそらく
君の街へと、君の街へと、

それは伝わらない、きっと伝わらない、
僕のとっくに錆びついた心の蓋をしずかに開けたのは
紛れもないあなた、紛れもないあなた
宵闇に眠りにつく頃、僕は朝凪

今此処で、春の空気をようやく感じる、春の空気をようやく感じる
サイダーみたいに透明な泡が弾けだしていく春の空気を
頬いっぱいに吸い込んでみた
君の街へと、汽車と駆け抜けていく萌芽の風よ

駆り立てる春の空気は、春の空気は
頬いっぱいに吸い込んでみた僕とあなたの
境界線に、境界線に
夢に似た輪郭を描いて、空に溶けだす東雲色

遠い汽車は海岸沿い、あなたを乗せて走り出す
背中にゆれる葉桜の春を影のように落としては



閲覧ありがとうございます!
こちらで"COMPLETE BOX"終了になります。

改めて読み返してみると
自分でも中身の濃い総集編になったと思いました。

それぞれの詩集を通して
前半は春から夏
後半は夏、秋、冬と来てまた春になるような
そんな構成になっているとも思います。

詩集を通して今年一年を振り返るのは楽しいです。
みなさまも今年一年noteを見ていただきありがとうございました。

明日もnoteに総集編を出す予定ですので
よろしくお願いします^ ^

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