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[詩集]りんかく



波止場


波止場は静か
作業は終わったみたい

オシャレなあなたの耳飾りだけ
ふいに吹いた風に揺られていた


ちいさなカニが居るのか見たくて
そういえば海に来たんだっけ

岩場があまりに波打つから
変わって波止場に来たんだっけ


心は漠然としていて
何秒か経つとわすれてしまう

あなたもそうなのかな
いや きっと違うよね


波止場は静か
すこし温い風が吹いていた

僕らはそこで草木のように
じっと立って浴びていた


オシャレなあなたの耳飾りだけ
風に揺られていた



7月以来になります、
お久しぶりの詩集になります!
今回は14篇といつもより多めの構成になっています。

"夜"をテーマにしたものが多く、
暗めの文章もありますが、気に入っていただけたらうれしいです!



Midnight


ただただしずかな街の夜 
まるでオアシスもなく彷徨う砂漠
思わせぶりな木々がなびく 
此処に来て何年目だっけ

ゆらゆら空を迷う星 僕はそれを見上げた
ぎこちない浮遊感と この街で生きている

今日も今は昨日だっけ 
感覚もどこか掴めない夜を
人も星もおろおろとして 
流れていくよ仕方なく

君が日々どう感じながら 
この街を歩いていたのか
仄かな輪郭を確かめながら 
それでも分からないながらも続くよ


夜は、緩急の規則もない川のように
早まればゆっくりと
信号機の色彩が道を
ただただチカチカ照らしながら続くよ

喉から出ない儚い言葉も 
明日に目を瞑るほどの悲しみも
すべての面影も乗せて続くよ

そういうものなの


すべて自分の思う侭の世界 
それはそれで、もう
どこかで止めたくなりそうで 
じゃあどうしようかと言われても

答えに迷うな 今は出ないな 
これからもきっと出ないな
そういうことを感じながら 
朝をずっと待っていた


夜の寂しさ何千里 上り下りの激しい坂みたいに
早まればゆっくりと
信号機の色彩の下 
人も通らない様でも続くよ

喉から出ない儚い言葉も 
今にやってきそうな悲しみも
すべての気楽も乗せて続くよ

夜は、緩急の規則もない川のように
早まればゆっくりと
信号機の色彩が道を
ただただチカチカ照らしながら続くよ

喉から出ない儚い言葉も 
明日に目を瞑るほどの悲しみも
すべての面影も乗せて続くよ

そういうものなの


微熱で


微熱に夜起きてしまった
ひたすら朝が来るのを待ちたい
水を飲み干しても 足りないから
やっぱり眠りたいけど

耳元で生ぬるい風は
法螺ほらを吹かないで
その侭でいてほしい
その侭でいてほしい


"Good night's sleep"
今は願うだけです
夜景は喉を通っても
やがてはいっぱいになります

"Good night's sleep"
今はメリーゴーラウンドみたいに
回遊する夜の刹那が
目に沁みるだけです


花火と僕ら


確かな夏、かぞえていったら
一つずつ消えていきそうです
河川敷のいつもの場所で
待ち合わせするのは毎度のこと

ここで白銀の火花が開いたら
なにかを知っていきそうです
心の内側、自分だけのこと
自然と話しそうになります

手を振った物事を
引き寄せたら手に汗握る
それだけはいつの日も変わらないこと


垂直に打ち上がって い く 花 火 の 軌 道 を

柳みたいに頭
      を
       垂
        れ
         た
          花火の軌道を

散 り散  りに なっ  た
光 の む れ  を

どこか自分に重ね
      重ねて

確かな夏、またかぞえていったら
一つずつ消えていきそうです
二人何も言わなくなるのは
緊張しているわけじゃないのです


スパイス


わすれたふりが上手いから 
なんてことないと思うのです
でも君のこと、それでも時々思い出すのです

歩く度、身に着いた知恵は 
悲しい時に役立つけれど
でも君のこと、それでも時々思い出すのです

直接的な感情と机の前で向かい合って
言葉に起こして 言葉を丸めて 
雑念の無いよう届けたいのに

君の世界は遠くでゆれる陽炎みたいに 
掴みどころがないから
ある種の幻の外で 自分は爪で脛を掻いて
言うか、言わないか、
頭をぐるぐるさせて思っているのです

話してみれば、例えば曖昧さもスパイスなんです
正直に伝えるほど、自分で自分を
どうしようもなく思ってしまうから、
曖昧さも言葉にまぶして
遠くへ消えない内に 君に伝えたいけど
それでもいいのかな


まだまだ暑さは続くらしい 
それを紛らわすために
キッチンに立って、冷たいスープを飲んでみた

そしたらふいにドアをノックして、
あの日の髪なびかせて
現れたりしないかと思ってしまうんです

直接的な感情を頭の中で飼い慣らして
なるべく表に出さないよう 
なるべく笑って届けたいのに

君の世界は砂漠をよぎる蜃気楼みたいに 
掴めないから
ある種の幻の外で 自分は指で弦を弾いて
歌うか、歌わないか、
頭をぐるぐるさせて思っているのです

話してみれば、例えば曖昧さもスパイスなんです
正直に伝えるほど、自分で自分を
どうしようもなく思ってしまうから、
曖昧さも言葉にまぶして
遠くへ消えない内に 君に伝えたいけど
それでもいいのかな



爪で脛を掻いたのは
夜に暇を持て余したからでなく
どこかで気を紛らわせようと
思っているからなのだろう

瞼を閉じれば その分だけ 
膨らんでいく理想像の中
自分はどこにも居ないこと 
分かりたくなかったのだろう


空から零れる雨で 
月は暗がりの雲に隠れてしまった
朝になれば街行く人に 
右往左往に酔ってしまう

かかと、確かに地に着いているのに 
すべてがうねりにうねって見える
上手く言葉に言い表せないから 
紙に文字を書いては消して


どこが起点か侮れない 自分の向かう先は
今はまだ
遠い、
遠い、
遠いとしか
言えないのはいつものこと

どこが起点か侮れない 自分の向かう先は
今はまだ
近く、
近く、
近くないとしか
言えないのはいつものこと

何も思えなくなったらどうしよう
何も思えなくなったらどうしよう
何も思えなくなったらどうしよう
長く伸びた爪がきらきら輝いていた、明けない夜


蝉時雨


そうだね 虫の眼で
桃源みたいな街を観る

きらびやかに光っては
やがては醒めていくのでしょう

視野が まだなれないな
だから まだ曖昧です。

あの飛行機雲 模様
もっと先の澄んだ未来


儚いような思い出も形を持ちそう

そんなことを感じる
感じていた日々だって

夢のような街でまた、
いつしか きっと薄れてく


蝉みたく 蝉みたく
一夏の思い出よ

笑い合った思い出も
君のなかで霞んでく


分かってる

分かってる


そうだね 虫の眼で
桃源みたいな街を観る

きらびやかに光っては
やがては醒めていくのでしょう

視野が まだなれないな
だから まだ曖昧です。

あの飛行機雲 模様
もっと先の澄んだ未来


疾走


真っ白な朝を急ぐ 脳はとうに渦をまいて
何も無い無い感情がやがて青を掴むのを期待して

真っ白な朝を急ぐ 脳の憂いも渦をまいて
それすら掻き分けて 走る 走る 走る


夜の焦燥こねくり回して 
どこで線引きするか わすれてしまうほど 
今日の僕はなんだか違う気がする

額汗ばみ 向かう朝の先
今日の僕はなんだか違う気がする 
それも心地いい
渇いた心 まるで水を浴びたみたい


どこまで来たのか いつもと違う世界
僕を手招きした新しい世界
人の波の間 すり抜けて
遠のいていたはずの青を眼下に

息継ぎする毎に 離れた言葉を思い出す
より鮮明に 風に交じって


夜の焦燥こねくり回して 
どこで幕引きするか 二の次になるほど 
今日の僕はなんだか違う気がする

額汗ばみ 向かう朝の先
今日の僕はなんだか違う気がする 
まるで風に乗り
潤んだ心 果実が開けたみたい


真っ白な朝を走る 脳はとうに一つ確かなこと
繰り返し確かめて 話してみる今に 今に

夏日


僕はしずかに靄になって
街の肌を撫でてみたい
重力も感じないくらい
銀河の庭で遊んでみたい

果実みたいな目の奥の
青い芽吹きは西に消える
そういうものなので
そういうものなのです


バイバイ 面影を込めた歌
バイバイ 待ちこがれた夏の日
夢の心地 熱が伝った
ダンスホールの人人ひとひとたち

バイバイ 掴みどころのない
魚影みたいな汗のながる手も
僕にとってこの世界は
今すべてが半透明です


僕はしずかに夜にとけた
街の灯をより濃くしてみたい
重力が下ってくるまでの
合間に命を踊り散らして


猫を見る


河川敷で猫を見ていた
少々の憂鬱が頭の上で雲みたいに浮いているけど

河川敷で猫を見ていた
喉を鳴らしてどこかへ行きたそう

画面を開けば目の奥まで物事の翳りが
沁み付いてしまうくらい 暗闇は多くてさ

それもわすれて
ちょっと寛ぐ時があってもいいからさ

自分の些細な日々の描写は題も付かずに
線画の記憶になるうるかもしれない

これから先 その記憶の輪郭を
思い起こすことがあるのかないのかも
どちらでも

今、河川敷で猫を見ていた
気にしないで空を仰ぐ猫を見ていた
猫を見ていた


蜃気楼、ゆめのかたち


ずっと前、ずっと前の夢をふいに掬ってみた
それは夜には消えてしまう 刹那的で
夢をここで飲み込んだら 心の底から喜べるかな
庭の蝉に急かされて 夏のすべてを掴みたくて


ねじる感情 うねる哀愁 
靄みたいな雲 鳥がその中へ
夢のかたち 夜はうんと
深い 深い 深い 深い

朝になって この世界は
蜃気楼になる気配を秘めて
時間は止まることなく 針は続く


夕日と猫の歩く先 そこは今を重ねた街
何年目かの夏が今年もそうして終わっていくから
夢をここで飲み込んだら 心の底から喜べるかな
眠る猫の目が光る 夏のすべてを掴みたくて


ねじる感情 うねる哀愁 
靄みたいな雲 夜が突き抜けて
夢のかたち 目の奥はそう
深い 深い 深い 深い

朝になって 蜃気楼 
それが幻でも何かを求めて
時間はそれでも止まることなく 針は続く


ずっと前、ずっと前の夢をふいに掬ってみた
それはいつでも消えてしまう 刹那的で
夢をここで飲み込んだら 前を向いて笑えるかな
そこで水面をゆらいでいる 蜃気楼を見ていた


距離感


嘘の話でもいいから 気持ちの沈む夜は
控えめでいいからさ 君の声が聞きたくて
春も夏も過ぎていって 秋も冬もあっという間で
気持ちの沈む夜だから ちょうどよい距離感を
改めて感じたい 

僕の方はというと上手く言葉が返せないけど
これから話すことが一歩先の未来になることを
知っているから 
振り向き様におどけてみせて

あの季節も この季節も 
混ぜ合わせた話を作ろう
暗い扉を朝がノックするまで
二つの心はしずかにゆれる


古くなる記憶が新しいものに変わるとき
隅っこでぼんやりしていた
誰かに会えたりするのかな
懐かしいことばかり そこで話せたら
昔のように分かり合えるのかな


僕の方はというと僕自身にも嘘を付くけれど
それでも未来を向けていると
君はきっと言うからさ
僕もおどけてみるよ ここで笑ってみるよ

あの季節も この季節も 
混ぜ合わせた話を作ろう
暗い扉を朝がノックするまで
二つの心はしずかにゆれる

僕の方はというと上手く言葉が返せないけど
これから話すことが一歩先の未来になることを
知っているから
振り向き様におどけてみせて

あの季節も この季節も 
混ぜ合わせた話を作ろう
暗い扉を朝がノックするまで
二つの心はしずかにゆれる


こだま


纏めの付かない言葉で あの夏を想う
逆立ちしてゆらめく この夏も想う

夕暮れ 散らばる光 散らばっていく光
散らばった侭の光 魚の様に泳いで行った

素直に夜には帰らなきゃだね 
土手で浮かべた表情
何となく何でもない顔をそこで見せた

もっと笑ってみたら 
その途端に時が素早く捲れて 綿毛になって 
どこまでも行ってしまうんだろうって


木霊した夏 水面がリバーブした日々
零した溜め息の数だけ 加速していった日々
面影は薄まったり、また思い浮かべたりして
青すぎた世界を駆け抜けていった

木霊した夏 いつもより水面がリバーブした今日
ここに確かにあった物
紛れもなく煌めいた物


夜には足を急がなきゃだね 
俯きがちになる表情
何となく何でもない顔をここで見せた

もっと笑ってみたら 
その途端に時が素早く捲れて 綿毛になって 
どこまでも行ってしまうんだろうって


波止場-2


心は漠然としていて
何秒か経ったらわすれてしまう
それはあなたも同じなのかな
いや きっと違うでしょう

ちいさな蟹が居るか見たくて
夏の終わりに海へ向かった
波打つ岩場に術はなくて
変わって波止場に来たんだったね

これ以上 幸せが消えていくのを
止める為に 悲しみを堪えてみたんだ
ただでさえ 曇り気味の空が
より暗くなって見えたんだ

自然にしていた方がいいんだって
気のせいじゃないからね

海の音に 繰り返し耳をすました
午後は下り 夜の気配の波止場
風の音が 繰り返し耳を包む
午後は下り 夜の気配よ波止場


閲覧ありがとうございます!

今回は、タイトルが"りんかく"ということもあり、
文のなかでいくつか"輪郭"というワードも出てきていたりします。


他の詩集はこちらから見れます!

"よるには"(7月投稿)

"まなつび" 前篇(5月投稿)

"まなつび" 後篇(5月投稿)


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