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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。 2020年4月11日より2023年12月31日まで 「なかがわよしのは、ここにいます。」(https://nkgwysn.…
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#詩

【400字小説】ChatGPT is Dead!

【400字小説】ChatGPT is Dead!

夜の国道を眺めている。ヘッドライトが走り去る。行く先はちりぢり。テールランプが不規則に光る。赤信号は見えない。外に見える大型中古車店の前には超*巨大な観音が立っている。

我々はChatGPT。スピーカーから流れるカントリー曲はどれも聴いたことがない。調べればわかること。死んだコービー・ブライアントの亡霊がこのステーキ店の窓ガラスに映り、美しいダンスを見せている。その向こうに、ぼやけて見える景色は

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【400字小説】斬りっぷり

【400字小説】斬りっぷり

厨房の奥で延々と野菜を切り続けるあの人の横顔をカウンターから見つめている。菩薩のような柔和さを携えた表情。永遠に切りまくるので悟りの境地。食堂に客がひっきりなしにやって来ては、ヒレカツ定食を頼んで食べて去って行く。

わたしは2時間前からそこにいて、ビール、日本酒をちゃんぽん。つまみは自家製の惣菜を。ポテサラ、しじみ汁、カニカマなどを少々。取材される前も忙しかった店で、露出後は大団円を迎える花火の

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【400字小説】水玉戦法

【400字小説】水玉戦法

国道を横断している際に、車がやって来て慌てたわたしは転んで、そのまま牽かれた。運悪く死ななかったよ。カラフルな水玉がクッションになったの。

「意味がわからない」とあの人に小説をこてんぱんに言われたけれど、これがわたしの信条だからやめない、やめない。むしろあの人の感性を疑った。

そんなど~でもいいことを倒れた青い空の下でなぜか思い出して、水玉が弾けるたびに心臓がドキンとして。あの人は黒縁眼鏡の見

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【400字小説】位置

【400字小説】位置

フロアに流れるパトリス・クインの
極めて上品な歌声に酔いしれるオワリは、
今夜を最後に酒で酔わないことを
皆の前で明言。

早速「いくら賭ける?」とか
茶化す声が終演後のライブハウスに飛ぶ。

「太ってるっつっても、オワリは
そんなでもないじゃん!」と矢継ぎ早に。
言い返す隙がないほどに反対の声が飛び交う。
皆、楽しい飲み仲間を失いたくないらしい。
バンドで演奏することはもちろん楽しかったのだが、

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【400字小説】水溶性

【400字小説】水溶性

雨がカラカラ降ってる。
「東京って砂漠なの?」と
ミイコはひとりで呟いて、誰も居ない部屋で。

恋人はもともといない。
8年もいない。
YouTubeでヨガをやろうとスマホを持つ。
でも突然イラついて、それを壁に向かって投げた。
マイルス・デイヴィスのポスターが破れかけてる。
心は壊れかけのRadioな世代。
もうとっくに結婚もできないだろうし、
諦めたくはないが恋人だってできないだろうし。

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【400字小説】印鑑

【400字小説】印鑑

これがナカガワヨシノの小説だ。
押印なんて必要のない、書き連ねるだけで
それだとわかる個性だ。
小説ではないかも。
何者にもなれないのかも。

でも、これがわたしのスタイル。
スキ!を欲しない。
成功なんていらない。
あなたに届けよ、それで十分。
自己救済のための400字なのだ。

異国の地・ジャパンで働くあなたには敵わない。
あなたにこの小説が届く夢も叶わない。
それでもわたしは間違えた日本語で

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【400字小説】冷たさ

【400字小説】冷たさ

NBA選手のカワイ・レナードはシュート力が
正確無比すぎて、冷酷なくらい。

「最近は大谷くんの影響で、
試合中でも感情爆発させるコが増えたね」
って去年の夏の甲子園を見ながら、
ユウヒトが言ったのを思い出した、早朝に。

アユがユウヒトに別れを切り出されたのは
昨夏に慶応高校が甲子園で優勝した3日後。
ユウヒトは坊主にして来て、
「これが僕の覚悟だよ」と言った。

ユウヒトはスポーツ観戦が好きだ

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【400字小説】推し

【400字小説】推し

椎名林檎と同期の谷口崇は
売れなかったので、今でも悲しい。
「マーケティングってアーティストじゃできないから、
レコード会社がしっかりしなくちゃね」と
マスミが言ったのがちょっと癪だった。

マスミとタオキは干支一回りの年の差。
つまり、タオキが48歳で年上。

「林檎ちゃんはすごいね、
わたしたちの世代でも知ってるし、
カラオケでも歌うもの」
「売れればいいってもんじゃない」と
腹がひねくれたタ

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【400字小説】木

【400字小説】木

ハマチは近年、集中力が続かなくなっている、老い。
「50越えた途端、ガクンと来てさあ」と
ハマチはオオモリに愚痴る。

「そんなの良い方だよ。俺なんて40すぎに老眼になるわ、
忘れっぽくなるわですよ」

ふたりはビールを飲んで興奮している。
平日の昼間から居酒屋で飲める立場のふたり。
ハマチはコピーライターで、常時フリー。
オオモリは中小企業の社長で、たまにはフリー。

オオモリが訊く。
「正直さ

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【400字小説】しゃもじ

【400字小説】しゃもじ

善光寺のびんずる様が白昼堂々盗まれた
白昼夢から、もうどれくらい?
ケイヒは「あったね、そんなこと」と
10年くらい前のテンションで言った。
何も突っ込めなかったエイトは、一体どうやって、
ひとりであんなに大きなものを
担いで逃げれらたのか、もう一度考える。

人間の目は簡単に欺けるのだなあと思い知らされた。
防犯カメラ映像を見た捜査員も
思わず二度見したに違いないとエイトは。

「それよか、飯に

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【400字小説】軍配

【400字小説】軍配

今時の小学生は相撲を取らない。
ゴジョーが幼かった頃、学校に土俵があったものだけれど、
怪我の元になるからって、いつの間にか廃滅。

それが寂しかったゴジョー。
だから体育の授業で子どもたちに相撲を教えたいと
職員室会議で提案したのだけれど、肩透かし。
「いい提案だけれど、こんなご時世じゃね~」と
正攻法でかわされて。
つっけんどんに突き返されなかっただけマシか。

ご当地力士・縞乃山は三役常連だ

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【400字小説】医学

【400字小説】医学

「こんな仕打ちってあるかよ」とノゾミは
認知症と診断された父のことを思って泣いた。
コロナ禍に大腸がんになって摘出したと思ったら、
1年後に肺にがんが転移して、また手術。
痛い痛いと言っていた術後の
父の弱々しさを見なかっただけ良かった。

そして、やっと体調が落ち着いてきた矢先の今回。
「これからはMDの時代だぞ」と
たった5年前に言っていた頃の天然さとは
比べ物にならないくらいの重量感で、

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