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【400字小説】推し

椎名林檎と同期の谷口崇は
売れなかったので、今でも悲しい。
「マーケティングってアーティストじゃできないから、
レコード会社がしっかりしなくちゃね」と
マスミが言ったのがちょっと癪だった。

マスミとタオキは干支一回りの年の差。
つまり、タオキが48歳で年上。

「林檎ちゃんはすごいね、
わたしたちの世代でも知ってるし、
カラオケでも歌うもの」
「売れればいいってもんじゃない」と
腹がひねくれたタオキは反論、
でも椎名林檎は好き。

「売れるのはいいことだよ」

そのド直球な返答に手も足も出ない。
タオキには社会的影響力は
当然ながらないので、
谷口崇にできることと言えば人知れず、
Spotifyで再生し続けること。
どんなに推していても、
人はひとりでは
何もできなんだなあと非力さを知る。

それはさておき、カラオケで谷口崇ばりの
高音を出したいが無理は承知。
がなり立てて歌うことしかできなくて、
なりたかったのは正反対の
チバユウスケだったってことに今さら。

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