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This is 400字小説

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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。 2020年4月11日より2023年12月31日まで 「なかがわよしのは、ここにいます。」(https://nkgwysn.…
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【400字小説】余計なプレゼント

【400字小説】余計なプレゼント

誕生日でも記念日でもないのに妻がプレゼントを。思わず呆気に取られていると「嬉しくないの?」と妻は。部屋の壁が崩れかかっているのは、猫たちがいたずらをしたせい。真っ赤な包装紙のプレゼント、YouTubeをよく観ている、わたし。スタエフに夢中なのは、妻。わたしには無関心でライブ配信している。

だから、本当にプレゼントは寝耳に水。抱き合ったのはいつだったか。「愛してる」も「好き」もない、この数年間。子

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【400字小説】sky is joke

【400字小説】sky is joke

田原さんは空の上にまだいて、わたしたちを見守っているのか。それとも空の向こうに行ってしまったのか。

田原さんが亡くなる前に貸してくれた吉田修一はコロナが明けた今でも読んでいなくて、6年も前の話。村上春樹の全集に至ってはブックオフに売り放ってしまった。大した金額にもならなかったのが笑い話。

青い空は嫌いで、田原さんを思い出すから、できれば曇り空が続けばいいのにと願っている。

わたしにとっての田

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【400字小説】芸人だからって

【400字小説】芸人だからって

先輩がお笑いで売れて有名になっても、うらやましくもなかったし、ましてや妬みもしなかった。僕は僕で幸せだし。妻と娘と猫、そしてマイホーム。それがあれば十分で。

先輩は欲張りだった。仕事で営業成績が社内で圧倒的に優秀でも満たされなかった。歴代の彼女たちも相当美人だったけれど、ころころ乗り換えていた。お笑いで売れることだけが、先輩を満足させるのだと僕は理解していた。そんな日は来ないと思っていた。だって

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【400字小説】四角い顔したオジサン

【400字小説】四角い顔したオジサン

オジサンはホームレス。公園で暮らしていた。オレは交遊関係を持ち、真冬の豆腐鍋パーティに招かれたこともある。オジサンを狂人だって言う大人もいる。人殺しと呼ぶ大人もいる。顔が四角いだけなのにな、偏見。オジサンは画家を目指していた。ダンボールハウスはキャンパス。夢があるってことは大人ではなく、少年っていうことだから、オレは好きだった。

高校進学とともにシティへオレは引っ越した。いつの間にかオジサンのこ

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【400字小説】宇宙人ティーチャー

【400字小説】宇宙人ティーチャー

僕は知ってる。6年3組担任の先生は宇宙人だって。2組のアヤネちゃんから聞いたんだ。彼女は先生の子どもなんだよね。アヤネちゃんが保育園のとき、本当のお父さんに乗り移るところを目撃したらしい。火の玉みたいな物体が昼寝をしているお父さんの鼻の穴に吸い込まれて行くのを見たそうだ。

アヤネちゃんはしっかりしている、嘘を言うタイプじゃない。「早く高校生になりたい」って口癖。大人びているから、クラスでは浮いて

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「生きてるって言ってみろ」友川かずき

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「生きてるって言ってみろ」友川かずき

学校の屋上の淵に生徒会副会長の長崎がぎりぎりで立っている。生徒会会長の袴木と生徒会顧問の竹田が「冷静になれ」と説得。帰宅部の小山田はただ見守ることしかできなかった。

屋上には4人しかいない。3限目の授業中。小山田は腹痛を訴えて教室を抜け出しただけ。遠くを見ながらタバコを吹かしていたので、長崎が柵を越えたのを見ていなかった。袴木と竹田が緊張感ある声で長崎の名前を叫んで、やっと小山田は事態を把握。で

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「神様の宝石でできた島」MIYA&YAMI

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「神様の宝石でできた島」MIYA&YAMI

「どっちかにしてくれ」と双子のアイオとオハイオがシンクロしてそのセリフを言った。まるで漫画『タッチ』のような恋愛模様が10年間続いていたんだけれども、ウタエはアイオのアゴの右下にあるホクロも、オハイオの左ひじのカサカサも愛しかった。永遠に仲良く3人で遊んでいたかった。なんならセックスだって3人ですればいいじゃんって思ってる、言わないけど。

アニメ『鬼滅の刃』のように熱狂的にふたりのことが好き。ふ

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「もう恋なんてしない」槇原敬之

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「もう恋なんてしない」槇原敬之

「打者・大谷翔平対投手・大谷翔平はどちらが勝つかなんて誰にもわかんねえよ!」

思わずヒカルは大きな声を出していた。プリクラを撮っている最中。硬式野球部のマネージャーだったアヤノは、野球女子。プリクラを撮る際にまで、野球の話を持ち出してくる。ヒカルはサッカーにしか興味がないから、うんざり。

ならば別れればいいのだが、やはりそう簡単な話ではない。アヤノは瞳がうるるしているかわいい女の子で、男ならば

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「悲しみは雪のように」浜田省吾

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「悲しみは雪のように」浜田省吾

温泉の卓球台でナナミはフガジと遊んでいる。ブラウン管テレビからは画質の悪いお笑い番組が流れていて、爆笑。「浜省とか長渕とかさあ、彼らのファンに憧れるフシがある」とナナミがラリーが続くよう正確に、フガジの打ちやすいポイントに打つ。「永ちゃんとか?」とフガジは初心者なりに丁寧に返す。
「若いアイドルにハマるのとは違うし、生き様まで真似るじゃない? 羨ましい」

ピン、ポン、ピン、ポンと続くラリー。

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「すばらしい日々」ユニコーン

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「すばらしい日々」ユニコーン

夫のカズヤがカラオケで『すばらしい日々』を歌って号泣。妻・ヤマカは怒ってカズヤのレモンサワーをわざと倒した。「ふたりともどうしたの?」と中学生のサヤワが動揺。「お父さんに聞いて!」とヤマカの怒りは収まらない。カズヤは歌詞に昔の彼女を重ねた、それだけのこと。でも、家族の前で歌うべきではなかった。レモンサワー7杯も飲み過ぎだ。ヤマカの癇癪も、もちろん褒められたものではない。「気分を害した」という言葉で

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「15の夜」尾崎豊

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「15の夜」尾崎豊

ケイイチの経営する音楽マネジメント事務所は波に乗りきれない。自分の手腕を疑っている、そんな毎日。娘のハイヤが15歳の誕生日を迎えた夜、「これ、聴いていい?」と尋ねてきて、驚いた。手にしていたそれはLPだったからだ。「どうしたんだ?」と聴くと、ライブに学校の高等部の先輩と行った際に買ったという。フィンランドからやって来たそのミュージシャンはLPしか作らない主義だそう。その心意気にハイヤなりに感動して

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「飾りじゃないのよ涙は」中森明菜

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「飾りじゃないのよ涙は」中森明菜

ミズホほど泣き虫な女はいない。30歳だというのに人前で平気で泣ける。その年で独立するのは遅い方かもしれない。『NA/MI/DA//』という水着専門のブランドを立ち上げた。父親は有名なビジネススーツ専門のデザイナー。そんな親の七光りもあり、運営は順調。

彼女は優れた競泳選手だったけれど、高校2年の春に原因不明の右肩痛に悩まされるようになり、平凡な選手へと成り下がった。だから水泳はやめて、デザイン専

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ブルーでハッピーがいい」Chocolat

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ブルーでハッピーがいい」Chocolat

ハヤトの青い車に乗っている、海に向かって。ギャンブラーのマユコは数年ぶりに帰国。「親からさ、ちゃんとした仕事に就くか、結婚しろって、言われてるんだよね」と助手席で愚痴を吐いた。「結婚する相手はいないの?」とハヤトが。「良かったらわたしとしない?」とマユコは返す。

「そんな気さらさらないくせに」
「嘘じゃないよ」
「嘘が上手じゃないとギャンブルの世界では
生きていけないでしょ、らしくない」

マユ

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「The Song Of Love」谷口崇

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「The Song Of Love」谷口崇

国語の課題は「愛とは何か?」で、アヤカは照れ臭くて作文を書けなくて困った。母に聞いたら「お父さんに聞いて」。父は父で「それは生きながら学んで行くことだ」ともっともらしくはぐらかしたので大人はズルいとやはり思ってしまって。

クラスメイトたちもそれは同じで書きあぐねたらしい。ジョン・レノンの『LOVE』の歌詞をそのまんま書き写してきた男子もいて、先生に諭されていた。それで「この中で花丸をつけたのは一

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