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This is 400字小説

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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。 2020年4月11日より2023年12月31日まで 「なかがわよしのは、ここにいます。」(https://nkgwysn.…
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#現代アート

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ブルーでハッピーがいい」Chocolat

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ブルーでハッピーがいい」Chocolat

ハヤトの青い車に乗っている、海に向かって。ギャンブラーのマユコは数年ぶりに帰国。「親からさ、ちゃんとした仕事に就くか、結婚しろって、言われてるんだよね」と助手席で愚痴を吐いた。「結婚する相手はいないの?」とハヤトが。「良かったらわたしとしない?」とマユコは返す。

「そんな気さらさらないくせに」
「嘘じゃないよ」
「嘘が上手じゃないとギャンブルの世界では
生きていけないでしょ、らしくない」

マユ

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「The Song Of Love」谷口崇

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「The Song Of Love」谷口崇

国語の課題は「愛とは何か?」で、アヤカは照れ臭くて作文を書けなくて困った。母に聞いたら「お父さんに聞いて」。父は父で「それは生きながら学んで行くことだ」ともっともらしくはぐらかしたので大人はズルいとやはり思ってしまって。

クラスメイトたちもそれは同じで書きあぐねたらしい。ジョン・レノンの『LOVE』の歌詞をそのまんま書き写してきた男子もいて、先生に諭されていた。それで「この中で花丸をつけたのは一

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「You Don't Know Me」Armand Van Helden

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「You Don't Know Me」Armand Van Helden

ジャは駅から遠いタリーズコーヒーに通い続けている。それは美人な店員がいるからで、馴れ馴れしく話しかけて、うるさいと彼女に叱られると快感だ。でも、彼女は既婚者。だからこそからかうようにうざ絡みができたのかもしれない。

そんな彼女に今日「あなたはわたしの何を知ってるの?」とキレられたのは、最高潮のうれしみだった。それは席に着こうとした時に、トレーが傾いて、朝食のスコーンごとコーヒーをぶちまけてしまっ

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Stepping Stones」G.Love&Special Sause

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Stepping Stones」G.Love&Special Sause

マウスピースが合わない。イサミは夜中の歯軋りが酷くて、歯医者で勧められた。だが、ハメている最中の違和感にいつまでも慣れない。だから毎朝起きるとマウスピースはいずこかへ。

そもそも歯軋りの原因は肥満で、プールでのウォーキングを医者に推奨されたが、そもそも費用がない。お酒を減らして、それをプール代に充てればいいのだが、知らないふりをしている。ごまかしの日々。

そんななか、尿道結石で悲惨な目に。チ○

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「カワサキZⅡ 750 Rock'n' Roll」ギターウルフ

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「カワサキZⅡ 750 Rock'n' Roll」ギターウルフ

「バイクには関心がない」ってずっと断ってるのに、しつこく誘ってくるアキにうんざり。厄介なのはアキの兄であるフユヒコに興味があること。大学の構内で頻繁にすれ違う。《ヤヨイちゃん》とフユヒコは呼んでくれるが、「弟をよろしく」という意味が込められているのをヤヨイは知っている。

アキには家がバレているから引っ越したいが、お金もないから諦めていた。昨晩、アキのバイクのドドドが聞こえたので、部屋にいたヤヨイ

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「SUN MYSELF」Husking Bee

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「SUN MYSELF」Husking Bee

「《太陽》って名前が重い」が彼の口癖だった。部屋の上部にある横長の窓ガラスにはアスファルトの地面が広がっている。自転車と歩行者の足。排水溝の匂いがうっすらしている。陽光にはお目にかかれない。家賃が安かったから、部屋を借りた、マンション街の下に半分埋もれて。

太陽の彼は暗い性格で名前負けしている。彼女はいない、一度もいない。28年間を太陽自身に捧げてきた。死んだ父親が名付け親で、その理由は想像でき

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「あぱんだ」吉田一郎不可触世界

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「あぱんだ」吉田一郎不可触世界

デパートの喫茶店が、アーケードの一角にて再営業、デパートが潰れたので。前の店舗でトモハルの浮気が原因で喧嘩になりユキと別れたのだが、復活したカフェブラジルにてユキと再会。「どうして男の人って別れた女に連絡してくるの?」って筆談で伝えられても、嫌味だとも勘ぐらずに笑ってた。「今まではどうしてたわけ?」とトモハルが返すと「スルーしてきたよ」とユキが書いた。「じゃあ、なんで会ってくれるのさ?」と綴ると「

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Hello」スーパーカー

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Hello」スーパーカー

筋トレの休憩のインターバル中に「昔、『ハウ・ロー?』ってあいさつするの流行ったよね?」と秀実が弘人に聞いた。

「ニルヴァーナのあの曲? 全然流行らなかった」

時間が来てふたりは再びショルダープレスにトライセップスエクステンションを。苦しそうなうめき声がジム内に静か広がる。午後11時過ぎ、利用者はまばらだ。1分後、再びのインターバル。

「俺たち生活の余裕はあるじゃん。それって芸人として失格なの

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「SUMMER'S GONE」PEALOUT

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「SUMMER'S GONE」PEALOUT

「痛っ」

マコトはトマトをみじん切りにしている最中に不注意で指を切った。血の赤がトマトの赤と混ざったが、それは黒っぽいので見分けはついた。昼には海に行く予定だった。波打ち際をユメと歩く予定。何もしない、セックスもしない、ただの休日を過ごすつもり。指が海水に濡れたら染みるだろうが、そんなところまで想像は及ばないくらいの小さな傷。

ユメはまだ眠っている、午前9時過ぎ。昨夜ふたりで観るつもりだった「

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「若者のすべて」フジファブリック

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「若者のすべて」フジファブリック

還暦なのに高明は恋を。それも30歳年下の既婚者に。彼女とどうにかなりたいわけではない。高明は妻を愛していたし、一人娘もそろそろ結婚する予感がしている。

《そんな落ち着くべき年齢で、恋に浮ついていてみっともないとはわかっているけれど、止められないから恋だ。そういえば妻との恋愛にもときめいたな。いつ恋人から家族になってしまったのだろう……。まあ、恋は若者の特権だから仕方ないか。》

と高明は。でも、

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Dear Prudence」ザ・ビートルズ

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Dear Prudence」ザ・ビートルズ

「空が青いですね」って駅のホームでイカリが。ダイヤが乱れている。多くの人が待ちぼうけ。「自販機で何か買いませんか」と続けて。「コンポタ飲みたいです」とチャイロは返した。敬語で話すのをやめたいとイカリは思っていた。3歳年上のチャイロもそうだとは知らずに。

「夏の青空って青すぎません?」
「夏はまだ先です」
「こんなに暑いのにですか?」

ホームがざわついている。人々たちに不穏さが生まれ始めた。どこ

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「I Wanna Be Adored」ザ・ストーン・ローゼズ

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「I Wanna Be Adored」ザ・ストーン・ローゼズ

バダサイになりたい、憧れられたい。だからバダサイが過去にしていた強盗もする、リキ。犯行は夜間、105秒きっちり。捕まりたい、箔がつくから。少なくともリキはそう思い込んでる。

バダサイを目指してラップも始めたが客観的に見てもセンスがない。自覚もしている。でも、憧れの人だって最初は何もできない赤ちゃんだったのだからって、諦めない。日々、健気に練習。暇さえあればラップしてるか、ノートにリリックを書いて

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Golden Gaze」イアン・ブラウン

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Golden Gaze」イアン・ブラウン

まなざしが似てたから好きになった?ヤヤはそうじゃないって自分に言い聞かせているから、多分、その疑問は不純だ。ジュンの濃い黒の瞳孔の縁が茶色い。彼は映画『ロッキー』が好きで、30歳。「ライバルのアポロの顔が独特で、吸い込まれるんだよね」だなんて言ってた。ロッキーが好きなのはボクシングをやっていた父親の影響。「本当のボクシングは見ているだけで痛いから嫌いだ」なんてボクサーの息子らしくない言動を。

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Hotel California」イーグルス

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Hotel California」イーグルス

失踪してこの世に舞い戻ってきたポンタをサナエは旅行に誘った。泊まった宿は堂々と『Hotel California』してて、気持ち良くふたりは眠った、抱き合って手を繋いで眠った。子どもはいなくて、不妊治療もしたけれど、なかなか授からなかった。それでもサナエはポンタが居れば、それで良かった、とはいえ、キレイゴトでもあって。嬉々として子どもの話をする後輩を憎悪の瞳で、まばたきしてみたり。

ポンタは精神

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