パリ条約第6条の5 同盟国で登録された商標の他の同盟国における保護<外国登録商標>
1.パリ条約6条の5 A
パリ条約6条の5 Aでは、外国登録商標の要件が規定されています。
パリ条約6条の5 A(1)では、「本国で正規に登録された商標であること」が保護を得るための要件が規定されています。本国とは、パリ条約6条の5 A(2)で規定される本国です。また、「登録」が要件なので、本国での出願や使用では保護が得られません。「商標」は、商品に関する商標であり、サービスマークは含みません。
また、パリ条約6条の5 A(1)では、本国登録との同一性を確認するための証明書を要求できることが規定されています。この証明書には、公証が不要です。
パリ条約6条の5 A(2)では、「本国」が規定されています。本国は、(i)出願人の営業所、(ii)出願人の住所、(iii)出願人の国籍、の順で決められます。例えば、我が国に営業所を有し、他の国に住所、国籍を有する場合、我が国が本国になります。住所は、パリ条約3条と同じ考え方です。具体的には、自然人は生活の根拠地(根拠地)であり、法人は本部(本店)の所在地です。
2.パリ条約6条の5 B
パリ条約6条の5 Bでは、商標の保護を求める国において、商標が満たすべき要件について規定されています。
パリ条約6条の5 Bで「次の場合を除くほか」として列挙されている場合が、我が国で、拒絶理由(商標法15条)、異議理由(商標法43条の2)、無効理由(商標法46条)となりうる場合です。この拒絶・無効となりうる場合には、保護を求めることができません(有効な商標権が取得できないため)。ただし、パリ条約5条C(1)、6条の2、6条の3、10条の2の適用を受けることはできます。
パリ条約6条の5 B1では、商標、商号等に関する既得権を尊重するため、既得権を害する場合には保護を受けられないことが規定されています。具体的には、氏名や商標に関する権利(商標法4条1項8号、10号、11号、12号、14号)を害する場合には、保護を受けられません。
パリ条約6条の5 B2では、識別力がない場合や、記述的商標、普通名称、慣用商標についても保護を受けられないことが規定されています。
パリ条約6条の5 B3では、公序良俗に反する商標や、公衆を欺くことになる商標は保護を受けられないことが規定されています。この規定を受け、商標法4条1項7号で公序良俗に反する商標は登録を受けられないことが規定されています。
3.パリ条約6条の5 C
パリ条約6条の5 Cでは、規制の例外(規制の緩和)について規定されています。
パリ条約6条の5 C(1)では、商標の保護要件に関する判断の例外について規定されています。この例外は、商標が他人の既得権を害するか否かの判断において、特に、その商標が使用された期間が考慮されるということです。
また、パリ条約6条の5 C(2)では商標の形態が変更されても保護が与えられることが規定されています。具体的には、商標の形態が変更されても、本質的ではない変更であり(識別性に影響を与えず)、実質的に同一(同一性を損なわない)である場合には、その形態変更「のみ」を理由として保護が拒絶等されることはありません。見方を変えると、形態変更「以外」の理由であれば、保護を拒絶されることがあります。
なお、パリ条約5条C(2)には、「同一性」の要件はありません。
4.パリ条約6条の5 D
パリ条約6条の5 Dでは、本国商標権への従属性が規定されています。
具体的には、本国で商標権等の登録がなされていない場合には、他の同盟国で商標の保護を受けることができません。なお、本条の規定では、他の同盟国での出願が、本国登録の前にされているか否かは関係ありません。
5.パリ条約6条の5 E
パリ条約6条の5 Eでは、本国での商標権等と、他の同盟国での商標権等が「更新」が独立していることが規定されています。
つまり、本国での商標権が更新された場合でも、他の同盟国の商標権を自動的に更新する義務を負わせるものではありません。ただし、本国での商標権が更新されずに失効すると、他の同盟国での登録が失なわれる可能性があります(パリ条約6条の5 D)
6.パリ条約6条の5 F
パリ条約6条の5 Fでは、優先権主張との関係が規定されています。
具体的には、本国での商標権等の登録が優先期間満了後になされた場合であっても、優先権の利益は失われません。見方を変えると、優先権とパリ条約6条の5の規定は別々に効果を発揮する規定です。
なお、我が国では、パリ条約6条の5Bに対応した規定として、拒絶理由(商標法15条)、異議理由(商標法43条の2)、無効理由(商標法46条)が設けられています。
・パリ条約第6条の5 同盟国で登録された商標の他の同盟国における保護<外国登録商標>
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