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特許法 明細書と特許請求の範囲が果たす役割について

1.明細書及び特許請求の範囲について

 特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする(特許法1条)。ここで、特許法における発明の保護とは、新規発明公開の代償としての特許権の付与である。また、特許法における発明の利用とは、出願された発明を公開することによって第三者に発明の実施機会を与えること、及び、第三者等に発明を文献的に利用させることである。これらの発明の保護及び利用は、発明の内容を記載した技術文献としての役割、及び、発明の技術的内容を明示する書面としての役割を果たす明細書、特許請求の範囲、図面を介して行われる。このため、特許法は、願書に、明細書、特許請求の範囲及び必要な図面を添付して特許出願をしなければならない旨を規定している(特許法36条2項)。したがって、特許請求の範囲及び明細書は、特許出願の際における必須添付書類である。一方、図面は特許出願における必須添付書類ではなく、必要な場合のみ添付すればよい書類である。

2.特許請求の範囲が果たす役割

 特許請求の範囲は、特許出願が特許権として保護を求める範囲を規定するための役割を果たす書面であり、特許権が付与された後は、特許権という独占排他権の権利範囲を画定する役割を果たす書面である(特許法70条1項)。

 特許請求の範囲は特許権という独占排他権の権利範囲を画定する役割を果たす書面であるから、特許請求の範囲は明確でなければならない(特許法36条6項2号)。これは、特許を受けようとする発明が明確(特許法36条6項2号)でなければ、その権利の制約を受ける公衆が困るのみならず、権利者自身も無用の争いに対処しなければならず、不利不便を免れないからである。さらに、特許請求の範囲の記載は、請求項ごとの記載が簡潔でなければならない(特許法36条6項3号)。特許請求の範囲の記載は、権利解釈にあたっての基礎となるものであるから(特許法70条1項)、第三者にとって理解しやすいように簡潔な記載とすることが適当である。このため、制度の国際的調和の観点をも踏まえ、本号の規定が設けられている。また、特許請求の範囲の記載は、権利内容の外延が明瞭に示されているのみでは足らず、発明の詳細な説明に記載した発明の範囲を超えた部分について記載するものであってはならない(特許法36条6項1号)。これは、仮に、発明の詳細な説明に記載しない部分について特許請求の範囲に記載することになれば、公開しない発明について権利を請求することになるからである。

 特許請求の範囲の記載から、その特許権の技術的範囲が一義的に決まらない場合もありうる。この場合、明細書の記載に基づいて、特許権の技術的範囲が定まる(特許法70条2項)。明細書が果たす役割については後述する。

 特許審査手続きの段階では、新規性(特許法29条1項)や進歩性(特許法29条2項)等の特許要件を判断する際には発明を特定する発明の要旨認定が行われる。この要旨認定は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいてなされる。そこで、特許法は、審査対象を特定し、特許後は権利書としての役割を果たさせるべく、特許請求の範囲の記載要件を定めている(特許法36条5項、6項)。具体的には、特許請求の範囲は、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない(特許法36条5項)。さらに、特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること(特許法36条6項1号)、特許を受けようとする発明が明確であること(特許法36条6項2号)、請求項ごとの記載が簡潔であること(特許法36条6項3号)、を満たすことを要する。

3.明細書が果たす役割

 明細書は、発明の公開に際して技術文献としての役割を果たす書面である。また、明細書は、特許発明の技術的範囲を定める際に参酌される書面である(特許法70条2項)。明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載しなければならない(特許法36条3項)。

 発明の詳細な説明には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない(特許法36条4項1号)。具体的には、発明の詳細な説明には、発明の属する技術分野、従来の技術、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段を挙げるとともに、発明の実施の形態につき出願人が最良と思うもの(最良実施形態)を少なくとも一つ挙げる。また、発明の詳細な説明には、少なくとも最良実施形態を具体的に示した実施例を記載して示し、従来技術との比較において有利な発明の効果を記載する。このように規定することで、権利が求められ、又は、権利が成立した発明について、いわゆる当業者が反復実施できる程度に明細書が記載されることとなる。さらに、当業者は、明細書の内容に基づいて、自己が有する技術的問題を検討することや、新たな技術開発を進めることができ、新たな発明をすることができる。

 このように、明細書は、当業者による実施や技術問題の検討を通じて、発明に係る技術の累積的進歩を補助することができる。したがって、明細書は、明細書による発明の公開より、結果として、特許法の目的(特許法1条)を達成する役割を果たすという事もできる。

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