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「普通って普通じゃない」エッセイ

ふと、普通って普通じゃないな、と思う。 一般的に言われるいわゆる”普通”って、たとえば大学に入って、新卒で就職して、最初は20万くらいもらって、結婚して子供つくったいり、昇進したり、転職したり、みたいな。 でも、そういう”普通”を手に入れるためには、結構頑張らないといけない。 そもそも大学の進学率は全体の半分くらいだ。この時点で普通とは?と思う。 最近では奨学金で苦しめられる学生が声を挙げたりしているらしい。(正直自己責任なところはあると思うが、そもそも制度自体もえぐい気が

    • エッセイ「世間とは必要な茶番」

      世間体や社会、一般的な評価。 これらが一体何なのか、正直よくわからなかった。 それなのに、自分に対して、なぜか影響力だけはあった。 いや、わからなかったからこそ、怖かった。だから従うしか 無かったのだろうと思う。 世間とは、社会とは、一般とは。 僕はこれらが、必要な茶番だと考える。 茶番だが、必要なのだ。 例えば学歴。 学歴は一般的に賢さの指標として使われる。しかし、学歴や偏差値が物語るのは、単に試験の問題を解く力と、世間体や一般的評価に対する意欲である。 賢さの指標

      • SS「花曇り」

        春の頃、花を養う空を養花天と呼ぶらしい。 「薄雲がかかってるな」 「だね。お花見って感じじゃないわねえ」 「ま、桜さえ綺麗なら花見だろ」 「まさか。酒が美味ければ花見よ」 「天気の話は」 前を歩くとぼけ顔の、もう少し奥に悠々と風が吹く。白い鱗がひらひらと泳いでいるのが見えた。 冬を惜しむ、薄寒い初春の陽気の中、寝ぼけ眼の桜花は未だ見ぬ客を、今か今かと、目配せしてどよめき、迷い待つ。 「少し時期が早かったかしら」 「ああ、でも綺麗だよ。これはこれで」 「そかしら、もう少し待

        • ショート「毎日」

          新社会人。大人になると、社会が途端に牙をむき、俺を痛めつけ始めた。結婚しろ!税金払え!仕事しろ!親孝行しろ! ウンザリだ。 毎日が辛く、苦しく、無意味に感じる。復讐しよう。オレが社会を搾取する番だ。 手始めに生活保護を不正受給した。親の金も盗んだ。どんどん大胆に、盗みや、殺しもした。女も子供も。今度はオレが社会に牙をむき、痛めつけてやった。しかしまだ、毎日が辛く、苦しく、無意味に感じる。オレを痛めつけるのは誰だろう。復讐しよう。

        「普通って普通じゃない」エッセイ

          エッセイ「目の前」

          アルバイトを頑張っている人を見ると、近視眼的だなとか、動物的だな、とか、ネガティブなことを思う。 それと同時に、彼らのような人々が、”いい人間”であり、結果的には、優秀とされるのだろうと思う。 オレはアルバイトに全力になれる人達の気持ちがわからない。揶揄しているわけではなく、本当にわからないんだ。 時給性のアルバイトは手を抜くほど自分にとって得だし、誰がどんな風にやっても大して変わらないと思ってしまう。 自分の人生にも、お客さんの人生にすら、大して影響をもたらさないであろう

          エッセイ「目の前」

          エッセイ「就活」

          皆が出来立てほやほや、即席の 「志望動機」や 「就活の軸」や 「求めているやりがい」 などの専門用語を用いて、 フィクションを創り上げる。 さも、何年も前から持っていた 信頼性の高いもののように 面接官に掲げる。 面接官は 「なるほど。」 という顔付でそれを 評価して、メモをとる。 「面接ではこう答えるもの」 というひな形にそって、 創り上げたに過ぎないのに、 なにを納得しているのだろう。 周りの就活性を見ていると、 自分自身でも、それを 本当に自分の 「志望動機」や

          エッセイ「就活」

          ショート「飴やスルメ」

           窓外。雨粒が教室の箱を打ち付けて、二人に流れる空気を圧迫している。ふいとこちらを覗いたような、それとも、もう少し先を覗いたような彼女の目が、判断もつかぬ間にまた窓の外に向けられた。 ただ数舜の出来事も、強く、早く波打つ鼓動が長く感じさせる。 「百合川さ、知ってる?鼠の寿命は短いけど、脈動数は人間と同じくらいなんだ。」 「ふうん。」 「だからさ、きっと人間とは時間の感覚が違って、たとえ一瞬でも、すごい密度で、長く感じられるんだよ。」 「うん。」 「要はさ、鼠も密度的には、人

          ショート「飴やスルメ」

          ショート「夏の死骸」

          ある夏の死骸。君のつないだ震える手に私は火をつけた。その蝉は私の線香花火を見上げるように腹を剥き出し、雪に転げていた。光る、瞬く、また光る。別れを惜しむ花火に呼応するように、アの死骸も少し痙攣した気がした。最後の一つに火をつけて仕舞おうとしたが、手の震えに気が付いて家に帰った。今年の夏は花火をやらなかった。約束の日、君はこなかったから。あの夏はもう死んでしまって、今はただ夏の痙攣が手に残っている。

          ショート「夏の死骸」

          ショートショート「無人恋愛」

          「近頃は何をするにもデジタルデジタルで参っちゃうよ。」画面に表示されたQRコードで五円を送金しながら祖父が言った。「カラン」と鐘の音を模した電子音が鳴ったが手は合わせない。 在宅詣りが済んだところでオレはズーム画面から離れて漫画の続きを取りに行った。画面上でオレを模したアバターが「あけましておめでとう、今年もよろしく」と言った。 数分経つと、画面に次の予定が表示された。 「あ、忘れてた。」 今日は彼女とデートの約束があった。あと1分もない。 「フォン」 画面が切り替わり彼女

          ショートショート「無人恋愛」

          読書感想「ヘッセ 車輪の下」

          ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」井上正蔵訳 1992年 第一刷  を読んでの感想。 「車輪の下」という題名は、神学校の校長のセリフからとられたものだ。車輪の下に押し潰されてしまうこと、つまり、社会システム、その歯車に押し潰されていく悲惨さというのが、この本のテーマだろう。 主人公のハンスは車輪に押し潰された被害者として描かれている。 ハンスは、最初は優秀な子供として、父親や町の牧師に期待され、神学校に入学する勉強をさせられる。子供らしい趣味も遊びも排除して勉強する日々を過ご

          読書感想「ヘッセ 車輪の下」

          ショートショート「影の声」

          白い陽が丘に降りた。孤独な客とまばらな花に儚い影を落とした。客はシートを広げ弁当を摘まみ、風にそよがれている。 「西から北へ、北から東へ。どんどん深く、どんどん浅く。時を忘れ、私はここのところ一心に、花々の移り行くのを眺めている。」 客は地平線にかかる陽を確認して、思い出したようにテントを建て始めた。 「時の移ろいが花を暗く伸ばして歪ませていく。それに本能的な恐怖を覚えた私だったが、どうすることも出来ない、そんな気分があるのだ。」 客はふと花の影の上に、自身の存在の不確かさ

          ショートショート「影の声」

          ショートショート「都会」

          右へ、左へ。通勤列車の階段を登るたびに目の前で揺蕩うお尻に、違和感を覚えない日はない。都会の朝は目がまわるけれど、故郷と同じく、空だけは青く澄んでいる。だけど一日の終わり、暗くなって見上げる空は、隠しきれずに少し荒んでいる。仕事と関係ない無駄な感傷。いつもなら溜息と一緒に捨ててしまう情動。帰宅すると寂しい部屋の床に、夏に使い忘れた花火が放ってあった。なぜ今まで気が付かなかったのだろう。公園には誰もいなかった。寒空に打ちあがるチープな光と荒んだ星屑が、潤んで、落ちて、足元で跳ね

          ショートショート「都会」

          ショートショート「warning」

          アテンションプリーズ。当機は間も無く上陸する。フライト中にも関わらずインスタを見ていた女の乗客がようやく携帯を切った。女はどうやらインスタでダンスを投稿してるらしい。1万超えのフォロワーのうち半数はそのタワワな胸が目当てだろう。時代は質より注目を重視していた。機内もそれは変わらない。新制度により機長は人気投票で私に決まった。着陸の仕方はうろ覚えだがやるしかない、これも時代だ。アテンションプリーズ。

          ショートショート「warning」

          成田祐輔「投げられた石にとって、上っていくことが良いことでもなければ、落ちていくことが悪い事でもない」

          「投げられた石にとって、上っていくことが良いことでもなければ、落ちていくことが悪い事でもない」 成田氏がスピーチで引用したこの文章。 この言葉はマルクスアウレリウスの自省録に登場する。 成田氏はこの言葉を用いて、いわゆる世間的な成功に執着することに対しての疑問を投げかける。 たとえばお金持ちになる事、いい会社にはいること、いい学校にはいること、SNSのフォロワー数を増やすこと。こういったことには確かに一定の価値があるのかもしれない。 これらを成し遂げた人物に人々は、尊敬や

          成田祐輔「投げられた石にとって、上っていくことが良いことでもなければ、落ちていくことが悪い事でもない」