ショート「夏の死骸」

ある夏の死骸。君のつないだ震える手に私は火をつけた。その蝉は私の線香花火を見上げるように腹を剥き出し、雪に転げていた。光る、瞬く、また光る。別れを惜しむ花火に呼応するように、アの死骸も少し痙攣した気がした。最後の一つに火をつけて仕舞おうとしたが、手の震えに気が付いて家に帰った。今年の夏は花火をやらなかった。約束の日、君はこなかったから。あの夏はもう死んでしまって、今はただ夏の痙攣が手に残っている。

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