ショートショート「都会」

右へ、左へ。通勤列車の階段を登るたびに目の前で揺蕩うお尻に、違和感を覚えない日はない。都会の朝は目がまわるけれど、故郷と同じく、空だけは青く澄んでいる。だけど一日の終わり、暗くなって見上げる空は、隠しきれずに少し荒んでいる。仕事と関係ない無駄な感傷。いつもなら溜息と一緒に捨ててしまう情動。帰宅すると寂しい部屋の床に、夏に使い忘れた花火が放ってあった。なぜ今まで気が付かなかったのだろう。公園には誰もいなかった。寒空に打ちあがるチープな光と荒んだ星屑が、潤んで、落ちて、足元で跳ねた。


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