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感動のクライマックス


毎日更新295日目。

昨日の帰り。

バスから降りて自転車に乗り、僕は家へと急いでいた。

早く帰って相棒の最終回が観たい。

そう思いながら自転車を漕ぐ。

すると遠くの方の道のど真ん中に、普段見慣れない光景があった。

カップルがきつく抱きしめ合っているのだ。

おそらく2人とも20代前半の若い男女のカップルである。

その2人がきつく、それはそれはきつ〜く抱きしめ合っているのだ。

もはやさば折りレベルである。

「もう離さない、、、」

そんな声が今にも聞こえてきそうだ。

そして何故か僕の家の近くの住宅街の道のど真ん中で抱きしめ合っているのだ。

誰がどう見たって変な場所なのだ。

僕の自転車はどんどんカップルに近づいていく。

近づくにつれ僕は激しい怒りを覚えた。

どこで何をしとんねん。

どんだけきつく抱きしめるねん。

何で道のど真ん中やねん。

中央分離帯か、お前らは。

そう。

にっしゃんは基本的にカップルのイチャつきに対して必要以上に怒るのだ。

いつまで経っても彼女が出来ない自分と比較して、激しい怒りの炎を燃やすのである。

まあ要するに八つ当たりもしくは逆恨みである。


そんな狂戦士と化したにっしゃんを尻目にカップルは抱き合い続ける。

もう強く抱き合い過ぎて何かお互いの体が左右に揺れてる。

このままブルンブルン揺れてそのうち回転してミュージカルが始まりそうだ。

そしていよいよすれ違う瞬間、僕はカップルの顔をチラッと見た。

すると2人は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

いや、すでに泣いていたかもしれない。

その横を怪訝な表情で通り過ぎる太った男。

どういう状況やねん、、、と内心思いながら、僕は自転車を漕ぎ、その場を去った。


家に帰り、服を着替えながら「何やったんや、あれは、、、」と1人呟く。

しかし少し考えて「いや、ちょっと待てよ」と冷静になった。

もしあれがあの場面に至るまでに様々な物語を積み重ねた映画のクライマックスならどうだろうか。

感動のクライマックスになるんじゃないだろうか。

離れ離れになってた2人が奇跡の再会をし、場所も気にせず強く抱きしめ合う。

涙なしでは見れないラストである。

こうなるとむしろ僕の方が余計な存在だったのかもしれない。

つまり何が言いたいかというと、僕が見たのはカップルの一場面でしか無く、言わば切り取られた瞬間だけなのである。

そこだけ取って「変なカップルや!」と怒るのは違うのではないかと思ったのである。

もしかしたら凄い感動的な場面だったのかもしれないのだ。

僕がいくらカップルのイチャつきに怒りを覚える性質があったとしても、ラブストーリーのクライマックスで抱き合うカップルを見てブチギレたりはしない。

ある部分だけ見て「何かやってる!」と思うから、腹が立つのだ。

そこに至るまでの背景に目を向けると、見え方が全く変わってくるのである。

というわけで、僕はあの2人のストーリーを少し考えてみた。



1年前。

貴史と雅子は付き合っていた。

幸せな毎日だったが、そんな毎日はある日突然終わりを告げた。

貴史が殺人事件の容疑者となったのである。

殺されたのは貴史の恩師である牧村教授で、凶器から貴史の指紋が検出されたのだ。

「俺はやってない!!!」

そんな主張も虚しく、逮捕されてしまう貴史。

泣き崩れる雅子。

しかし貴史は諦めなかった。

一瞬の隙をついてパトカーから脱出し、逃亡犯となり、事件の真相を自ら解き明かす事にしたのである。

親友の慎太郎の力を借り、徐々に真相に近づいていく貴史。

無事を祈り続ける雅子。

貴史を追うのは凄腕のベテラン刑事、近藤。

近藤は驚異的な追跡力で貴史を追い詰めていく。

何度も捕まりかける貴史。

しかし、その度に色んな人の力を借りて何とか切り抜けていく。

途中、真犯人の罠に嵌りあやうく命を落としそうになるが、何とか切り抜け、逃亡を続ける。

逃亡を続け真相を追ううちに、ある1つの驚愕の事実が浮かび上がる。

一方その頃、ベテラン刑事の近藤も事件の核心に迫っていた。

そして遂に事件の真相が明らかになる。

牧村教授を殺した真犯人の正体は、、、

親友の慎太郎だった。

慎太郎は貴史に罪を着せ、協力するフリをしながら実は貴史を嵌めていたのだ。

「何故そんな事を、、、!!!」

慎太郎に詰め寄る貴史。

そこで語られたのは、牧村教授との確執、貴史への嫉妬、そして雅子への密かな想い。

慎太郎という男の醜く悲しい動機だった。

こうして事件は終わりを告げた。

1年間の厳しい逃亡生活の末、ようやく自由の身となった貴史。

そんな貴史が雅子の元へと帰ってきた。

家を飛び出す雅子。

2人は道のど真ん中で抱き合う。

場所も人目も気にせず強く抱き合う。

お互いの会えなかった1年間の想いが溢れ出してくる。

泣きながらきつくきつく抱きしめ合う。

貴史は雅子に言う。

「もう離さない」

その瞬間。

自転車に乗ったデブが横を通り過ぎた。



デブ邪魔や!!!

何をしてんねん!

2人の感動の再会を!

何で横通るねん!

話の最後が台無しや!

タイミング考えろ!

空気の読めへん奴やな!


はい。

とまあこんな感じで長々と書いてきましたが。

一部分だけ見て怒ったらいけないね、という話でした。

それでは、また明日。



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